Japanese
クリープハイプ
Skream! マガジン 2011年11月号掲載
2011.10.10 @渋谷CLUB QUATTRO
Writer 島根 希実 / 沖 さやこ
クリープハイプ、初の渋谷CLUB QUATTROワンマン公演。こういうことを言ったら、誤解を招いたり、あれやこれやと言われそうだが、終わってみれば、なんだかとても“健全なライヴ”であった。いやいや、一曲目から「あの嫌いのうた」だぞ?55回も嫌いを連呼する歌で幕開けする記念すべきツアー・ファイナルって……何が健全だというのだ。
しかし健全だったのだ。正しくは、健全なものとしてフロアには受け入れられていたし、そうやって機能していたと言うべきだろうか。一人で聴いている分には“ただ一人の僕のうた”であるはずの歌が、一度外に出れば、ものすごい数の共感を獲得する。その共感のあり方が健全そのものだったのだ。沸きあがる歓声や、つき上げられる拳が放ったものは、それほどに“真っ直ぐ”であった。マイナスのオーラが外界を介することでプラスなったとでもいおうか。怒涛のごとく押し寄せるエゴやひどく偏った主観の塊は、驚くほどに青春ソングしていたのだ。
“結局ここに帰ってきました。よろしくお願いします。”そういうと、静かに歌い出したのは「あの嫌いのうた」。青のライトを浴びて、まさに全てが“静”からの幕開け。そして、一気にテンポ・アップし“動”へと移り変わっていく。繰り返される“嫌い”に乗って、高まっていくフロアの温度。ほら、やっぱり。“嫌い”という負の感情すら、多くの人の前に投げ出されてしまえば、もう作品の中で鳴っていたものとは違うものになっている。待ってましたとばかりの満面の笑顔のオーディエンスに受け入れられることによって、“嫌い”という感情は救われてしまった。尾崎世界観(Vo&Gt)が、その歌の中で“嫌いと好きの自問自答”によって自己完結させる前に、プラスの要素へと昇華されたのだ。続く「リグレット」、「SHE IS FINE」。そのキャッチーで軽快なメロディに合わせ波打つフロア。愛あるウェーブにのって、その寂しさも、切なさも、不器用さも、全て救われていく。そして、MC明け、これでも君たちは受け入れられるかとばかりに攻め入ってくる「左耳」。
また、この日は、新曲も多く、まず歌われたのは「1+1−1」。“死ぬまで一生愛されていると思っていたよ”と、最後にぽつりと歌う姿が印象的で、聞き入るように静まりかえるフロアは、そのタイトルのごとく、結局全て元通りになってしまうことへの僅かな虚無感と途方もない切なさに包まれた。そしてここで、この日フロアの黄色い声援の8割を独り占めにしていた長谷川カオナシ(Ba/Vo.)も「最夜」でその歌声を披露してくれた。長谷川の控えめだが影のようなヴォーカルが、会場の空気をまた少し変えていく。思い出のかけらをポロポロと落しながら別れを振り返る「バブル、弾ける」、長谷川が作詞作曲を手掛ける「ごめんなさい」では、尾崎と長谷川が、ため息をつくような穏やかなヴォーカルを交互に聴かせ、アカペラで歌うパートもあったりと、切々とした歌声を会場に響かせた。
新曲2曲を披露し、いよいよここから後半戦突入。不満、倦怠、苛立ちをぶつける「欠伸」で、いよいよその感情速度は高まり始め、「愛は」で一気に走り抜ける!「グレーマンのせいにする」の頃にはヴォーカルも演奏もさらに厚みを増し、「蜂蜜と風呂場」なんて肉食男子ばりの男臭さを漂わせる瞬間も。「NE-TAXI」は、客席上部のミラー・ボールも回り出し、360度回る光に包まれながら、オーディエンスは無数のクラップを。
“ライヴをやってると上手くいかないことも多い。パニックや、いらいらすることもあって……。久しぶりにそれをぶちまけられる曲が出来たんで”尾崎がそう言って歌い出した新曲で、彼は早口でまくしたてる。歌詞にも出てきた“こびりついたもの”を、苛々しながら、こそぎ落とそうと、がりがりがりがり……爪が剥がれるほどに引っ掻いているような、赤裸々な苛立ちがあった。これを合図に再びギアをトップに入れる。めまぐるしい早さの「ウワノソラ」。そして、やっぱり最後はこの曲だ。「HE IS MINE」。あのイントロが聴こえた瞬間、フロアは割れんばかりの大歓声。“あのフレーズ”が近付くにつれ、一節ごとに高まるワクワク。そして、CLUB QUATTRO全員で叫ぶ、“セックスしよう!!!”なんて痛快なラスト・ナンバーだろうか。
“今日はすごく大事なライヴでした。その間にもいろんな楽しいことがあって、面白いテレビ観たり、面白い映画観たり、面白い小説読んだり、可愛い大島優子ちゃんの写真を見たり。そのお陰で今日を迎えました。このライブが皆さんにとってそういうものになりますように。最後一生懸命うたいます”その言葉の通り、「色んな意味で優しく包んでくれますか?」「イノチミジカシコイセヨオトメ」など、ダブル・アンコール最後まで、さよならと隣り合わせの切ない曲でもって、愛に満たされない切なさを全力で聴かせてくれた。
どんなに寂しいことを言っても、ジレンマやエゴを歌っても、あらゆる感情は尽きることはなくて、いつまでたっても苦しくて、切なくて、ムカついてたまらないのに、それでも、どういうわけだか、それを歌うこのバンドのライヴは清々しかった。それというのはやっぱり“共感”があったからなのだろうな。最後、満面の笑顔のオーディエンスがメンバーへ向ける拍手が、私にはこう聞こえた。
“あなたがその音楽を僕らの前で歌い続けるかぎり、僕らはその歌を一人ぼっちになんてしないよ”(島根 希実)
SEもなくステージに登場したメンバーに、フロアが歓声を上げた。若手ミュージシャンの登竜門とも言える渋谷CLUB QUATTRO。ツアー・ファイナルである本日、満員御礼である。ドラム前にて4人が円陣を組むと、再び大きな歓声が起こった。
尾崎世界観の囁くようなギター・ストロークに、“嫌い嫌い嫌い……”と彼の歌が重なる。1曲目「あの嫌いのうた」。安定したリズムを刻む長谷川カオナシのベースと小泉 拓のドラムスが轟き、宙を仰ぐような優雅さと涙が零れるような繊細さを持つ小川幸慈のギターが飛び回る。ライヴ用にアレンジされたイントロがクールな「SHE IS FINE」ではハンズ・クラップが。囁くように甘いメロディを歌う尾崎の声に、長谷川のスラップ・ベースが色気を加える。彼らの音は、鋭利な刃物が青空の中で舞うような、柔らかさと鋭さ、危険と美徳を放つ。ポップな曲調に佇む音の瞬発力と緊張感が心地良い。スローなイントロから一転し、猛烈なスピードで突っ切る新曲「1+1-1」は明るいのに悲しい。もやもやとした感情を振り払うかのように尾崎はギターを掻き鳴らし、喉を絞る。気だるさと縁日に潜む悩ましげな空気を醸し出す「最夜」、太陽の匂いのような懐かしさと切なさを持つ「バブル、弾ける」「ごめんなさい」「風に吹かれて」。音で情景を描くとはこういうことだろう。曲が変わるたび、彼らは化ける。その鮮やかさは人を化かす狐の悪戯のように小憎らしく、極上にロマンティックだ。
立て続けに新曲を2曲披露。立体的なサウンド・メイクとメロディ・ラインがどちらも印象的で、新たなアプローチを開拓していることが伺える。クリープハイプが尾崎のソロ・ユニットだった頃の楽曲「蜂蜜と風呂場」「NE-TAXI」は、メンバーもフロアも〈今、クリープハイプがこの4人のバンドであること〉を噛み締めるように、丁寧に音が奏でられ、空間が愛で溢れた。尾崎が“気持ちをぶちまけられる曲が出来た”と語った新曲は、彼が早口で叫んで捲し立てる骨太ロックンロール。中盤では“バイト先のクソが”と叫びまくる。歌詞やMC、自身のウェブ日記もそうだが、個人的なことでも何であっても尾崎は言いたいことを正直に言う。バイト先の話や、乾燥肌ではなくどっちかと言うと頭がベトベトだとか(笑)、実父のネット上の失態の話も、彼は隠さないし面白ければネタにもする。これはロック? それともフォーク・スピリット? いやいや、これぞ“尾崎世界観”なのだろう。定義付けなんてナンセンスだと思わせるほどの潔さだ。
そこから「ウワノソラ」への流れは高波に乗ったように颯爽かつパワフルで、「HE IS MINE」での“セックスしよう”大合唱は爆笑の痛快さ。アンコールでは「色んな意味で優しく包んでくれますか?」と新曲を披露。ダブル・アンコールの「イノチミジカシコイセヨオトメ」で、約2時間弱のステージに幕を閉じた。
12月8日に“3、4年前から対バンしたいと思っていた格上のバンド”を招いて自主企画ツーマン・ライヴを行うことも発表された。尾崎は“その日にいろんなものをひっくり返すんで見に来て下さい”と言い、企むような笑顔を浮かべた。バンド始動から10年、現在の編成になり2年。ようやくここまで来た。更なる高みに向けての挑戦が、またここから始まる――。(沖 さやこ)
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