Japanese
SISTER JET
2010.12.15 @日本青年館
Writer 島根 希実
「俺たち今年はシングル2枚しかリリースしてなくて…」そういえばそうでした。「…でも、テレビや雑誌、ラジオなんかに出させていただく機会も増えて、今年はキャラでロックできた1年だった。」うん、そういえばそうでした。相変わらず何喋ってもすべっているような状態を作りだしてしまうMCの中でワタルSがそう言っていたのだが、そうなんです、彼らは今年飛躍の年であったにも関わらずたった2枚のシングルしか出していないのだ。これってつまり、フロアは爆笑していたが、ワタルSの言っていたことは案外的を得ているってことなんだと思う。だって、大々的に発表されたのはたった2曲でありながら、今年のSISTER JETは濃密だった。それほどに、3人揃った時のキャラクターのバランスが絶妙なんです彼ら。一回目にした時、耳にした時に、その一度の出会いのインパクトがデカイ、あのキャラクターからくる“分かりやすさ=キャラとしてのポップさ”を絶対的にそうさせているのでしょう。つくづく3ピースとして完成度が高いバンドだと思う。
さすがは青年館。会場に入ってみると、フロントの床は全て赤の絨毯。場内のBGMも、60年、70年代ロック・ナンバーのオンパレードだった野外音楽堂から一変、お行儀よくクラシックがかかり、入り口脇にはなんとスーツ姿のスタッフまで。まるで舞台の開演前のようだった。
始まりは「~オーロラ Channel~」の夕暮れのようなセンチなイントロ。きょうはめいっぱいのセンチメンタルを聴かせてやるぜとばかりに甘いメロディと声を響かせると、「クレイジーにパーティー始めようぜ」というワタルSの声を合図に、ライヴはスタート。「恋してクレイジー」「ラブコメ」「さよならポケット」「DJ SONG」と最高にキャッチーな曲を連続して打ち上げ、ハッピーオーラをホール全体に放射し、同時にそのセンチメンタルでもって胸をチクリと刺していく。胸キュンソングがオンパレードな前半は、その太く真っ直ぐなビートのように、シンプルでありながら、めいっぱいキュートでドラマチックだ。そして、今日はワタルSがよく煽る。前半だけでも「椅子があるからって遠慮しなくていいですよ。床をぬかしちゃいましょう」、「フロアをゆらせ!」、「もっといけるか青年館!」などなど…。打ち続けるそのビートのごとく、前半から何度も何度もフロアにそう語りかけていた。
―ここでちょっとだけ、彼らが来年1月にリリースするアルバム『LONELY PLANET BOY』のことを。彼らは以前、“世界をキュンとさせる”というスローガンを掲げ、自分たちを“ニュー・ビート・ジェネレーション”と位置付けていたが、その“ニュー・ビート”というものを、このアルバムでもって遂に証明してみせてくれた。甘くセンチメンタルな歌詞にめいっぱいのポジティブも込めて、ひたすらに打ち鳴らされるシンプルな衝動こそ、真っ直ぐに胸を打つそのビートの求心力の答えに他ならない。それは同時に、メッセージや熱い主張すらも、センチメンタルというドラマチックの中にすんなりと内包してしまえる彼らの恐ろしさの証明でもある―。
そのアルバムの世界を目の前で再現してくれたのは、同作収録の「8ビートはパンク少年のもの」からだった。やんちゃなメロディにのせて“やんちゃな気持ちを忘れるな”という想いを込めて、ライヴもより加速度も増していく。さらに新曲「I.L.U.(I love you)」でもってフロアへラヴ・コール。
「これってSISTER JETのワンマン・トークショーじゃないの!?」と自ら言うように、とにかくよく喋る彼ら。日本青年館のエピソードもいろいろ話していたが、個人的には、SKBのネタが一番秀逸でした。「会場に来る途中にある並木道は殿下と雅子様が最初にデートした場所で、俺の母ちゃんと父ちゃんもデートしたことがある。…ってことは、俺皇太子!?」だそうです。ちなみにワタルSはバンド結成し、最初にライヴをした会場が日本青年館だったそう。(出場したコンテストの会場が同会館だったため)
止まらないMCでフロアを沸かせておきながら、「こんなに沢山の人が来てくれて、今世紀最大の恋をしそうですよ」なんて憎い一言で始まった「キャラメルフレーバー」。先ほどまでの空気が嘘のように、じんわりと甘い蜜が溢れだす。そしてこの曲の物語の続きを歌っているという「LOVE SONG(ON THE AIR)」で、僕らを連れ去ってくれるロードムービのような哀愁たっぷりの画を描いていく。ほら、彼らはチープな3ピースなんかじゃないのだ。そんな西洋の香り漂う田舎町福生からきた3人組が次に歌うのは、小さな港町で 夢ばかりみているけど 一つも叶わない女の子の歌「マギーメイブルース」。この寂しさと、ほのかな郷愁には、ひとつも日本の要素はない。
「次の曲はどうしてもきいてほしい曲です」と紹介し披露されたのはアルバム冒頭を飾る曲「SAY YES」。この曲は、ワタルSが中学の頃、THE BEATLESの「悲しみはぶっとばせ」と出会い、そこから芽生えた“常にYESと言っていこう”という想いを込めたのだという。“最初はYESというところから初めてほしい”という私たちへのメッセージ・ソングに乗せて、ワタルSはこうも言っていた「俺たちは10年間バンドやってきて、なんかの偶然やラッキーがあってここに立っている。だから、叶うと思うよ俺は」そして最後に小さな声で、私たちに確認するように「自分を信じろ」と呟いていた。あらゆる状況や感情を肯定しようとする強さ、なんだって肯定するその真っ直ぐでまっさらな歌のもつ求心力はやはり素晴らしい。
ラスト3曲は「ナミダあふれても」「hello goodbye days」「MR.LONELY」。涙をぬぐって踊り明かせと言っておきながら、「どうしたって1人」と歌う、パーティーがどこにある?切なくたって、寂しくたって前を向けと、歌い続ける彼らしい曲をたたみかけ、その最後「もぅ一回言わしてください。悲しみをぶっとばせ!」というワタルSの一言を受け、客席から巻き起こった盛大な手拍子が、この切な楽しいパーティーのエンドロールとなった。
アンコールでは、SISTER JETからのちょっと早いクリスマスプレゼント、以前ワタルSが数分で作ったと言っていたクリスマス・ソング「ニューヨークのクリスマスツリー」。季節感たっぷりの曲で、フロアを楽しませてくれた。ラスト「La La Dance」では、客席から一斉に飛び出した風船がパーティーのオーラスを華やかにキュートに飾ってくれた。ステージとフロアで作りだされる弾けるパーティー・ビートが、ラスト・ソングでありながら、まるでパーティーの始まりのような、まったく名残惜しさを残さない幸福な画を見せてくれた。
存在証明のようにすら見えたあの強くたくましいビート、一語一語の言葉の強さと迷いのなさ。なによりも、3本柱としての安定感。うーん…やっぱりSISTER JETってファン層とは間逆に肉食系だわ。そう驚くほどに、SISTER JETがこんなに明確な言葉やメッセージでもって、アプローチをするバンドだとは思っていなかったのだ。アルバム同様、“バンドとしての意思表示”のようなライヴだった。
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