Japanese
NANIMONO
Skream! マガジン 2023年07月号掲載
2023.06.19 @KT Zepp Yokohama
Writer : 長澤 智典 Photographer:清水ケンシロウ
"未だ何者でもない女の子たちが何者かになる物語 - 。 インキャが世界を救う"をコンセプトに活動中のNANIMONOが、メジャー1stフル・アルバム『むりなんだがw』をテイチクエンタテインメントより発売。5月より全国ツアーをスタートさせ、同ツアーのファイナルとなる"NANIMONO 1st Full Album 発売記念TOUR 『むりなんだがw - FINAL - 』"公演を6月19日にKT Zepp Yokohamaで行った。チケットはソールド・アウトを記録。その数字が今の彼女たちの勢いを物語っていた。
ツアー・ファイナルより新しくなったメンバー紹介のSEに乗せ、6人が次々と2階ステージに登場。ひとりひとり現れるたびにフロア中から沸きだす熱いメンバー・コール、それぞれのキャラクターが見えてくる説明もわかりやすい(アルバムで確認を)。紹介によると、メンバーらはみんなインキャな性格。そこへ集ったTAKARAMONO(ファンの名称)たちもインキャたちということらしい。"インキャが世界を救う"のキャッチフレーズ通り、この輪がもっともっと大きく膨らんだとき、本当にインキャが世界を救う......のかも知れない。
"ハロー もしもし 私は何者?"と、メンバーたちが歌いだす。ライヴは、自分たちの存在意義を示すように「アイデンティティー」からスタート。1年前、渋谷WWWでワンマン公演を行ったときの始まりを告げたのも「アイデンティティー」だった。彼女たちは1年後のKT Zepp Yokohamaという大舞台でも、自分たちの原点となる思いであり、あのときからの成長を示すように1曲目に「アイデンティティー」を歌っていた。腰を揺さぶる強烈な四つ打ちのビートに乗せ、6人が大きく腕を振り上げ、愛らしい声で"アイデンティティー"と歌いながら飛び跳ねる。その勢いへ一緒に飛び乗ろうと、フロアも身体を大きく揺さぶる。触れた人たちの感情を無条件でアゲる、明るく躍動したスケール溢れるダンス・ナンバーだ。メンバーの自己紹介のパートでは、会場から次々とメンバー・コールが飛び交うのもお馴染みの光景。6人が舞台の上ではしゃぐたびに観客たちも一緒にはしゃぐ一体化した景色が早くも生まれていた。
"ジャージは戦闘服★ バキューン!"の声を合図に飛び出したのが「ジャージは戦闘服★」。世の中に生きづらさを感じている人たちを全肯定してゆく楽曲だ。彼女たち自身が日常に生きづらさを感じている!? 自分たちの詰みそうな人生を開き直るかの如く元気いっぱいに歌う姿に触れていると、同じように気持ちがポジティヴな戦闘モードに染まりだす。"まじでむりむり! むりなんだがw"とメンバーらがわちゃわちゃとした姿で歌うたびに、その勢いに刺激を受け、開き直ったパワーに身体中が満たされる。"急に行きたくなくなる"や"体操座りが落ち着く"などのセリフのパートでは、メンバーの声と掛け合うように、フロアから"俺もー!!"の声も飛び交っていた。彼女たちは"そんなワイらの詰みゲーライフ!"と歌っていたが、人生に生きづらさを覚える人たちにとってこの歌は、最高の自己肯定ソング。オーディエンスが彼女たちと一緒に、日々の不満をぶつけるように声を上げて全力ではしゃぐのも納得だ。
降りしきる雨の音。背景にも雨の降る映像が映し出される。2階ステージ上で、それぞれに手にした担当カラーの傘をくるくると回しだす。「TEIKIATSU」だ。女の子は特に、気圧に体調や感情が左右されがち。ちょっとナーバスな低気圧の感情を、君(ファン)たちと一緒に楽しく過ごすことで沈んだ心を吹き飛ばそうと、6人は甘えた素振りも見せながら観客へアプローチ。フロアで騒ぐ人たちに刺激を受けた6人も、気持ちを晴れた青空のように染め上げる勢いで、舞台の上ではしゃぎだす。女の子の揺れ動く感情を、急変する天気のように映し出す様がいつしか眩しく見えていた。低気圧を吹き飛ばす勢いではしゃぐ彼女たちの姿が、とても初々しい。
"Hello 調子はどうだい?"。彼女たちの誘いに合わせて、フロアがクラップをしだす。「インキャミュージック」でも、メンバーは愛らしいポーズも示しながら舞台の上ではしゃぎ続けていた。チープ・スリルなテクノ音と躍動したビートに身を寄り添え、少し甘えた声を響かせながら、"疲れたら逃げちゃっていいじゃん"と、自分たちの生き方を讃えるようにリズムに乗っていた。決してわがままではない。彼女たちは自分に無理をしない生き方を肯定しながら、元気いっぱいに歌い踊り続ける。だから観ている側も、同じように思いを重ね合わせ、自分たちの楽しみたい気持ちを舞台の上の6人へ素直にぶつけていた。
MCでは、2階後方までびっしりと埋まった客席を観て、めっちゃ感激し、声を上げてはしゃぐメンバーの姿があった。デビュー公演からたった1年間でKT Zepp Yokohamaをソールド・アウトさせる、その勢いを語るに相応しいライヴを6人は早くも見せていた。フロア中に輝く6色のペンライトの光を、"お星様に見える"と語るメンバーも。でもその言葉が、次の物語への合図だった。
"見上げたらいつもそこにあるように、わたしたちがみんなの光り続ける星になります。終点なしの星の旅へ、ここから一緒に出かけてみませんか!?"。その言葉に続いて歌ったのが「ケンタウロスの夜」。ミディアム・メロウな楽曲の上で6人は軽快にステップを踏み、歌詞の世界へ気持ちを投影しながら歌っていた。ゆったりとした、淡く、甘い歌声に触れていたら、6人と一緒に銀河旅行をしている気分に心が染まっていた。メンバーが舞台上を左へ右へと元気いっぱいに移動するたび、一緒に銀河を巡る素敵な旅をしている気分を覚える。例えそれが僅かな時間でもいい。彼女たちと一緒に現実を忘れ、ドキドキときめく気持ちを胸に幸せを探す旅をしてゆくこの時間こそが至福の時。このまま心地よく軽やかな気分に心を染めながら、一緒に夢の旅を続けようか。
場内に流れだした波の音。ファンタジックでドリーミーな音世界が、会場いっぱいに広がりだす。メンバーたちはこの場を夏の水族館へと塗り変え「JELLY FISH」に乗せて、一緒に甘いひと夏のアバンチュールを描こうと誘い掛けてきた。少し抜いた歌声と、どこか甘えたムードで恋する想いを投げ掛けるメンバーたち。まるでクラゲになったようなかわいらしいパフォーマンスも見どころだ。どこか切なさも漂わせつつ、彼女たちはこの曲を通して淡い恋物語を綴りながら、この場にいるひとりひとりの心へひと夏の素敵な思い出を残していった。
ソフィスティケイトでソウルフルな曲調に乗せ、彼女たちがウィスパーな声で言葉を呟きだした。これぞNANIMONO流のシティ・ポップ/渋谷系ポップ調サウンドの「CHEWING GUM」に乗せ、6人は甘酸っぱい恋心を伝えてきた。ただセンチメンタルに歌うだけではなく、そこに浪漫を覚えるのは、切ない感情へ、6人がドラマチックでドリーミーな思いを振り掛けてゆくから? 甘酸っぱい世界に心地よく気持ちを浸らせていたのも、そこに消えない甘さがずーっと残っていたからだ。
ここで、メンバーらがこの日の感想を述べた。メンバーを代表し、地元が横浜の柊真ミフユの言葉を記したい。
"わたしは、アイドルになる前はただの学生でした。学校に行けなかったし、学校に行っても、みんなよりも少し早い時間に家に帰る生活をしていました。ここ(KT Zepp Yokohama)は、学校帰りに横目で見ているだけの、地元の大きなライヴハウスという印象でした。そこへ、まさか自分が立っているなんて、まだ信じられません。活動から1年経ちましたが、わたしはまだまだ未熟で、自分に自信がなくて、負けそうになるときもいっぱいあって。今もどうしていいのかわからなくなっているけど、こんなにもたくさんの人たちが私たちに会うために来てくれて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。わたし、こんなに汗だくになってでも頑張りたいと思ったことは人生で初めてです。わたしはこの景色をもっと大きくしていきたいし、この特別がもっと増えていったらいいなと思っています。わたしは今もまだ弱いけど、もっともっと弱かったあのときの自分よりも、今の自分が好きなりました。ここからもっともっと大きくなっていくので、よろしくお願いします"(柊真ミフユ)
メンバーは日本武道館を目指して走り続けたいとも語っていた。彼女たちにとってKT Zepp Yokohamaも、掴みたい夢の舞台へ立つための過程の場。でも簡単に掴んだ場所ではない現実も強く実感している。だからこそ、この経験を大きな糧にし、そのうえで、日本武道館という夢に描いた場を掴み取ろうと、それぞれが新たな決意を胸にしていた。
"この景色が私たちにとってのキラキラだよ。もっともっと一緒に光っていこうね"。ひなたゆまの言葉を合図に、会場から温かいクラップが響きだす。NANIMONOは甘い歌声を魅力に「KIRA KIRA」を歌唱。"なんにもないけど どうでもいいや"、"ほしいのはキラキラだけ"と、手を左右に大きく振りながら歌っていた。オーディエンスも彼女たちと同じ動きを真似てゆく。6人がここにいるTAKARAMONOと一緒にキラキラとした輝きを掴もうと歌う姿に素直に魅了された。
「どーぱみん!」が始まった途端、フロアから熱いミックスが飛び交う。勢い良く弾けた楽曲に乗せ、メンバーたちも感情のフェーダーをグッと上げ、身体中からドーパミンを放出しながら舞台上で思い切りはしゃいでいた。"キミはメンタルの安定剤"の歌詞ではないが、6人がステージ上でアドレナリンを爆発させて騒ぐ姿こそ、最高にメンタルを騒がせ、高ぶらせる刺激剤だ。
その勢いを胸に、NANIMONOが最後に届けたのが「インキャ・オブ・ファイヤー」。メンバーたちの"みんなの本気見せてよー!"の煽りも熱い。激しく華やかに爆裂したトランス系のダンス・ビートに乗せ、メンバーひとりひとりがテンション高い歌声を投げ飛ばし、観客の身体を踊らせるどころか、エクササイズさせていた。"バカになって踊ってみようよ"の歌詞ではないが、メンバーとフロアが同じ動きをしながら一体化して騒ぐ景色が胸に熱い。この会場を巨大なダンス・ホールへ染め上げるように、6人は身体中から沸き立つエナジーをフロアへ降り注ぐ勢いで煽っていた。インキャたちが本気になったときのパワーは本当に凄まじい!
アンコールで歌ったのは、自分たちが何者なのかを探し求める旅を続けている、今の彼女たちの姿を投影した「Hello, world」。まだまだ悩み葛藤しながら日々を過ごしている今の気持ちを、6人はこの曲に詰め込んで歌う。ミラーボールに反射して降り注いだ光の雨のなか、彼女たちは"アイデンティティ探して/がむしゃらに走り出したんだ"と、自分たちの未来をカラフルに色づけようと歌っていた。この曲の歌詞はこれまでNANIMONOが歌ってきた曲たちの歌詞やタイトルをさりげなく組み込む形で表現している。だから、歌詞を耳にするたびにニヤッとしてしまう。ここまでの自分たちの歩みをしっかりと噛み締めたうえで、ここからさらに駆け上がろうとしてゆく今の自分たちの思いと、その先へと進む道標を「Hello, world」は示していた。彼女たちは口にしていた、"『何者でもないボクらの物語』を"と。その言葉が、とても印象的だった。
歌い終わり、最後にメンバーが語った"まだ何者でもない私たちだけど、ここからまた一緒に始めようね"の言葉も印象深く胸に残った。彼女たちがこれから何者になってゆくのか、その物語をこれからも追いかけ続けたい。
[Setlist]
1. アイデンティティー
2. ジャージは戦闘服★
3. TEIKIATSU
4. インキャミュージック
5. ケンタウロスの夜
6. JELLY FISH
7. CHEWING GUM
8. KIRA KIRA
8. どーぱみん!
10. インキャ・オブ・ファイヤー
En. Hello, world
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