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LIVE REPORT

Japanese

宮下 遊

Skream! マガジン 2019年05月号掲載

2019.03.31 @新宿ReNY

Writer 石角 友香

動画共有サイトで活躍する歌い手シーンに詳しい人には説明不要なほどオリジナリティ溢れる表現手法で、ソロ・アルバムも2作リリースしている宮下 遊。今回は昨年12月にリリースした2ndアルバム『青に歩く』収録曲を軸に据え、初のワンマン・ライヴを敢行した。見事ソールド・アウトさせ、すでに追加公演も決定している。

ファンが手にしたペンライトのブルーとシャンデリアのブルーが揺らめき、緞帳が下がったステージの奥にいる主役を息を潜めて待っているような期待感がひしひしと伝わる。そこに「テレストテレス」のイントロのギター・リフが響き、同時に緞帳が上がると、そこに存在する宮下に向けて悲鳴と歓声が起こった。架空の国の王子風のフォークロアな衣装の宮下は、本格的な生バンドとマニピュレータを入れたアンサンブルの中で、話し声に近い地メロからどすの利いたフックまで自在に歌っていく。新作収録曲を一気に披露して、ヘヴィ・ロックの要素が強い「コウカツ」や、ファンクネスを軸に持ちながら猫の目のように変化する「アイアルの勘違い」など、初期からのファンにはたまらない選曲でアグレッシヴな側面も見せる。

緻密で変則的なアレンジを支えるバンド・メンバーは、自身もボカロPで最近はギタリストとして様々な歌い手を支えるマロン菩薩(Gt)、様々なミュージシャンのライヴ・サポートを務めるほか、プレーヤー育成も行う松ヶ谷一樹(Ba)、杉崎尚道(Dr)という辣腕揃い。鍵盤や上モノは打ち込みだが、四つ打ちにジャズ・ピアノ、杉崎のウッド・ベースが映える「ONE OFF MIND」では、転調と早口で言葉数の多いヴォーカルに驚きを隠せない。続いてメジャー1stアルバム『紡ぎの樹』から、エキゾチックなラガ風の「Fool Definition」を披露。さらに、ワンマンならではの選曲と言える「JINGO JUNGLE」では、ハンマー・ビートを思わせる荒涼とした音楽性も表現していく。ここまでジャンルの幅が広く、しかも1曲の中で場面転換が頻繁に起こるのは歌い手シーンの特徴でもあるだろうが、宮下 遊という歌い手は歌であらゆる人格を立体化できることが強い。特に音数が少なめの「愛して愛して愛して」では、5人以上の人格が登場したように聴こえたし、アヴァンギャルドなシャンソンと呼べそうな「舞台性ナニカ」は人格はひとつだが、一編の物語を聞くような表現で飽きさせない。コアファン以外にもリーチできる可能性は音楽的なレンジの広さが物語っている。

ブロックごとに明快さを表明し、終盤は著名ボカロP曲である「ロキ」や「アンノウン・マザーグース」を熱唱。高音が完全体になればジャンル問わず誰もが射抜かれることになるだろう。ラストは新作同様、「青へ向かう」。R&Bのテイストもあるコード感の上を忍び足で歩くような繊細な符割りとブレス成分多めの歌唱は、あらゆる歌を絵を描くようにイメージで拡張する彼のレパートリーの中でも音域的にナチュラルで表現したいことが確実に伝わった。少女も少年も、彼らを俯瞰で見る視点の声も、大人の女性のような声も操る彼。演じるということともちょっと違う、声で聴く人の中にいい違和感を残し、五感に訴える表現方法。ステージ上でのアクションや演出など足せる要素も多いが、逆に歌の技巧的な部分がむき出しになる編成でも聴いてみたい。短くないキャリアを持つ彼だが、まだまだ大きな可能性を感じずにいられない初ワンマンだった。


[Setlist]
1. テレストテレス
2. 青年よ、疑問を抱け
3. 少女レイ
4. コウカツ
5. VORACITY
6. アイアルの勘違い
7. ONE OFF MIND
8. Fool Definition
9. JINGO JUNGLE
10. 愛して愛して愛して
11. 舞台性ナニカ
12. ロキ
13. メルティランドナイトメア
14. アンノウン・マザーグース
15. 炎
16. Fading ghost
17. 青へ向かう
en. 夜の反芻は空白を待つ

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