Japanese
Aureole
Skream! マガジン 2015年08月号掲載
2015.07.02 @代官山UNIT
Writer 山元 翔一
2015年7月2日、Aureoleというインディー・バンドが代官山UNITでワンマン・ライヴを行った。インディペンデント且つDIYな活動をするバンドが、レコード会社やマネージメントといった大きな力を借りなくても代官山UNITという大きな舞台に立つことができたということ、もっと言うとその道筋までもを自力で作り上げることができたという事実をこの日、目の当たりにさせられた。そしてそこには、ある種の希望が、音楽の新しい未来を作り出そうとする6人の音楽家の意志がたしかに感じられた。この日は間違いなく彼らにとって、これまでの活動を総括するという意味でも、日本の音楽シーンに対してひとつの楔を打ち込むという意味においても非常に重要な一夜であったはずだ。
自主レーベル"kilk records"を主宰する森大地が、Aureoleや大宮にあるライヴハウス"hisomine(ヒソミネ)"を通して作り上げてきた、リアルな音楽の"場"というべきコミュニティ――この日の代官山UNIT公演は、彼が積み重ねてきたひとつひとつが結実していた成果であった。そこかしこで挨拶を交し合うさまざまな年齢層の人たちの姿を見ても、音楽を中心にして人々が集うという意味での"シーン"というものが日本でも形になりうるのだなと実感させられたのだった。
この日のライヴは、Aureoleが6月10日にリリースした4thアルバム『Spinal Reflex』のリリース・パーティーと銘打って行われたため、同アルバムの収録曲が全曲披露された。そして、この『Spinal Reflex』という作品が"内向的な音楽から外へと繋がる音楽へ"という命題の下に生み出されたものであったがゆえに、聴く者の精神に訴えかけるというよりももっと直感的でフィジカルな部分にアプローチする肉体的で"熱い"ライヴが繰り広げられた。それは、"Spinal Reflex=脊髄反射"という意味を掲げ、直感性と肉体性を追求した今作ために準備されたライヴとしては自然な着地点であったのだが、それでもやはり衝撃を覚えたということを記しておきたい。
まず第一に、この日のオープニング・ナンバーとして演奏された「I」の一発目の出音の音圧やそこに込められたであろう思いの大きさが何より特筆すべきことだろう。それはAureoleの6人がこの代官山UNITでのワンマン・ライヴというひとつの目標に向かって、何ヶ月もかけて音をそれぞれの重ねてきた成果がひとつの音となった放たれた瞬間であり、並々ならぬ思いとともに蓄積したエネルギーが一挙に弾けた刹那であった。そして閃光のように轟音が響き渡った後に、佐藤香(Vibs/Glocken)の流麗なマレット捌きから繰り出されるヴィブラフォンの複雑精緻な音、中澤卓巳(Dr)の肉体的且つメカニカルなビート、岡崎竜太(Ba)の荒々しく太いグルーヴ、中村敬治(Gt)の職人的なギター・ワーク、saiko(Fl/Pf)の限りなく解読不能な超絶技巧的フルート、そして森 大地(Vo/Gt/Prog)のサウンドと言葉が渾然一体となって溶け合うヴォーカルが重なり合い、代官山UNITをAureoleの色へと塗り替える。そして岡崎のうねりを上げるベース、中澤の硬質なビート、中村と森のファンクネスとポスト・パンク的サウンドのギターで紡がれる「Core」、BATTLES的なドラミングの冴える「Edit」、シアトリカルなsaikoのピアノと佐藤のグロッケンで幕を開ける「The House Of Wafers」を畳み掛けていった。6人の音楽的技巧の高さに舌を巻きつつ、新旧様々な楽曲を次々と披露していく。
緩やかに流れる大河の如き美しいメランコリアを湛えた「Miz」、オートチューンを使用したJames Blake的音像の1歩先を提示するかのような「Suicide」など森のソングライティングの光る楽曲たちも今日という日に相応しく響いていた。そして胸の奥底のゆらめき描き出したかのような、もしくはゆらゆらと光を反射させる水面を思わせるような映像演出もAureoleの音世界を拡張させる。中盤に披露され、この日のダイジェストと呼べるような瞬間を見せた「Last Step」では、RADIOHEADの「Motion Picture Soundtrack」のように美しくたゆたう音の静謐さがとても印象的であった。
後半戦に突入すると狂騒的ビートと執拗なまでに繰り返されるギター・リフで紡ぎ上げる「Ghostly Me」、崩壊気味の不穏さと一時訪れる平穏を行ったり来たりする心象世界を描いたかのような「Dell」。そして本編の最後に演奏された「Windfall」ではビートの移ろいやシアトリカルなシンセとヴィブラフォンのサウンド、中村のクールなギター・ワークでこの日のクライマックスを描き出していた。アンコールでは、中村のファンキーな高速カッティングやYMO的リリカルさのあるシンセのバッキングが効いた「Hercules」、オリエンタル且つ祝祭的な趣きのある「Live Again」が披露され、約2時間半に及ぶセットは幕を下ろした。
新旧様々な楽曲を全24曲。肉体性の追求という今のAureoleのモードでアウトプットしたこの日が、これから彼らが鳴らす音そのものにも、結果的に大きな作用をもたらすことなるのだろう。このライヴをひとつの区切りにして、6人の音楽家はこれからどのような地平を目指すのだろうか?終演後には、そんな次なるフェーズへと進むAureoleへの期待で満たされていた。そして、"意思は細胞を這う"という文字がこの日のライヴでは掲げられていたことを会場を後にする際に知り、妙に合点がいき、非常に軽やかな心持で帰路に着いたのだった。
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