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LIVE REPORT

Japanese

イツエ

2015.04.19 @新宿LOFT

Writer 沖 さやこ

イツエが全国リリースをしているCDは3枚。2012年3月にリリースした1stミニ・アルバム『いくつもの絵』、同年12月にリリースした1stシングル『優しい四季たち』、そして今年1月にリリースされた『今夜絶対』。『優しい四季たち』と『今夜絶対』の間、4人はライヴ活動を主に行ってきた。たくさんの想いを感じ、たくさんの変化をもたらした大事な時期だったと思う。間違いなく『今夜絶対』というアルバムはその2年間がなければ完成しなかったものであるし、その2年間が過ごせたのも『いくつもの絵』と『優しい四季たち』という2枚のCDがあったからだ。

このライヴの前日、ベーシストの馬場義也がブログに『今夜絶対』を"完成させる"と書いていた。そのときはツアー・ファイナルの意気込みをそういう言葉で表現しているのだろうと思ったが、この言葉にもっと深い意味があることを当日思い知らされるのであった――。

ライヴは『いくつもの絵』のTrack.1「目次」を除けば実質上1曲目にあたる「青い鳥」で、緩やかに穏やかに幕を開ける。瑞葵はトレード・マークの黒髪を茶色に染め、ボブ・ヘアーも伸びてポニー・テールだった。彼女は白を基調とした服を身に纏い、男性メンバーも3人揃いのスーツを思い思いに着こなし、装いも新ただ。"東京ただいま!"と瑞葵が晴れやかに挨拶すると、「言葉は嘘をつく」、「侵緑」と、大事に大事に編み込んでいくように4人で音を重ねていく。ギターが1本と思えないほどにうわものが華やかなのは、久慈陽一朗のギターの効果的な音使いと、美しいメロディを的確に優雅に辿る瑞葵の歌唱力だろう。このときすでに気づいていた観客は多かったかもしれないが、ここまで3曲、『いくつもの絵』の曲順通りに進んでいる。MCを挟んで演奏されたのは「エンドオブソロウ」。やはりだ。リリース順に全曲を演奏しようとしているのだ。『今夜絶対』を完成させるためには過去曲の存在が不可欠だということを、彼らは伝えようとしている。そして観客も、その様子を冷静にあたたかく見守っていた。

赤いライトの中で感傷的なギターが響き、それを守るように吉田大祐のドラムと馬場のベースが優しく支える。メロウで繊細なパートと燃え盛る激情的な要素とでドラマティックな展開を見せる「ラブレターフロム」から、アルバムのラストを飾る「生活」への熱く冷たい空気感は身動きが取れず、ただただ聴き入った。泣きながら微笑んでいるような、孤独な旋律。遠くで輝く、手の届かない音楽。イツエは私にとってそんな存在だったな、と昔を思い出す。

家族のように飾らない仲の良さを感じさせるMCを挟み、『優しい四季たち』のTrack.1「海へ還る」。その場に海が一気に広がるような感覚に陥る、情景を隅々まで音で描く曲だ。グランジ的な爆音が楽器隊の本領発揮を見せる「時のゆらめき」も、去年ライヴを観たときよりもグルーヴがしなやかで、そのエモーショナルな空間に大歓声が沸いた。だがどうしても、今のイツエには昔の楽曲が少々窮屈にも見えた。今のイツエならもっと自分たちの気持ちをライヴで解放できるのではないだろうか。

そんなフラストレーションを解消してくれたのが後半戦。馬場は"今日の流れもこのあとの流れも予想ついてるかもしれないけど(笑)、イントロが鳴る前からどの曲が来るかわかると、イントロの1音目から聴き逃さないと思うんです。......だから今日『今夜絶対』というアルバムを完成させます"という言葉のあと、SEとして『今夜絶対』のTrack.1「エピソード」が流れ終わると、瑞葵が台詞の朗読を始め、Track.2「告白」へ。最後のサビで高く高く解き放たれていく様子に、"昔の曲になかったのはこの上へ突き抜けるエネルギーか"と欠けてたパズルのピースがはまった感覚がした。瑞葵のアカペラで幕を開けた「ネモフィラ」で広がる4人の音は、はっきりと前が見えていて迷いがない。そしてその視線の先に、大切な人の存在を感じる。孤独の中で鳴っていた音が今、人を抱きしめようとしていたのだ。言葉をひとつひとつ大事に歌う瑞葵は音程をはずしそうにもなるが、それが感情的でとてもあたたかく、何よりとても楽しそうで、完璧に旋律を辿っていたかつての姿よりも魅力的だった。『今夜絶対』の楽曲たちは表情豊かなだけでなく、演者の感情を奥底から引き出す力を持っている。4人の気持ちがダイレクトに耳に心に入ってくる、その感覚がとても幸せだった。

演奏曲を把握できる状態ということは、終わりが近づいていることもわかる。「10番目の月」のあと名残惜しそうにするメンバーに、フロアも無言ながら同調するようだった。久慈のソフトなギターに乗せて瑞葵が最後の朗読を大切に言い切ると、ギターがシューゲイズ的な爆音に姿を変えて、壮大なラヴソング「名前のない花束」。"花束を贈るため生まれてきた"という歌詞を、瑞葵はここにいたすべての人に、イツエを愛するすべての人に、この言葉を届けていた。

アンコールで瑞葵は"イツエは、五つ重なる、でイツエなんだけど、(私たちは)4人でしょう? だからここにいるみんな、ひとりが加わってイツエです。今日はイツエのみんな、ありがとう!"と笑顔で語る。セルフ・タイトルとも言える"君と五重奏"という全国20ヶ所を回ったツアーは、2013年12月18日のワンマン・ライヴにて限定無料配布された『すべての朝へ』から「さよなら、まぼろし」で幕を閉じた。すべてがこの日のために用意されたんじゃないか、そんな気さえ起こる、過去と現在を繋いだ集大成的ライヴだった。

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