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LIVE REPORT

Japanese

あらかじめ決められた恋人たちへ

2014.11.09 @東京キネマ倶楽部

Writer 岡本 貴之

2014年11月9日(日)東京キネマ倶楽部にて"あらかじめ決められた恋人たちへTOUR 2014 "Dubbing 07"記憶の旅"がおこなわれた。共演にworld's end girlfriendを迎えたこの日のライヴ。HPに掲載された池永正二(鍵盤ハーモニカ/Track)のコメントには"今回はキオクのリリース・ツアー、つまり「記憶の旅」です。記憶を巡り旅する事は空想に繋がり想像して創造していく原動力になり得ます。また「記憶」とは過去の事であり、結果が出た後の現象であり、オチから始まる映画のように何処をどうたぐり寄せ組み替えてみても終着はあらかじめ決められており、だから「記憶」とはなんだかとてもメランコリックな言葉で、その響きは"あらかじめ決められた恋人たちへ"でやろうとしている音楽にとても似ています。そして「記憶」とは思いを巡らすだけではなく、次に繋げてこその未来があるのだと思います。"と記されており、この日のライヴがキネマ倶楽部という音場に相応しいコンセプチュアルなものであることをうかがわせ期待が高まる。

まずは、あら恋とは10年以上ぶりの対バンとなるworld's end girlfriend のステージからスタート。物音ひとつ立てられないような張り詰めた空気が会場中に充満したまま、ストリングスを交えた演奏が進む。背後のスクリーンにはサウンドとリンクしながら森林やノイズ等、さまざまな映像が映し出されていく。この日のライヴはふたつのバンドが共に映像をフィーチャーしたライヴをおこなうということで注目されたが、world's end girlfriendは"主演"にまったく遠慮することなくたっぷり1時間のパッケージで完成度の高いライヴを敢行。ラストはあら恋にエールを送るかのような轟音でステージを降りた。

転換後、開演のブザーが鳴り響くと会場が暗転。スクリーンに都会の街を走る電車の映像が流れ、メンバーが次々と舞台に上がると「カナタ」からあら恋のライヴがスタート。ジャケットにネクタイ姿の池永正二が荒れ狂うように腕を振り上げる。キム(Dr)が叩き出す16ビートを引き戻すかのように劔樹人(Ba)が8ビートで低音を刻み、クリテツ(Theremin/Percussion)がピアニカを取り出して池永と二重奏を聴かせると、サポート・ギタリストの大竹康範がソリッドなギターをかきむしりながら、曲にコード感を与えている。「Going」では強烈なギター・ソロに続きシンセの音色が曲全体を大きく包み込み、池永のピアニカにつなぐ。ピアニカという楽器の音色は、日本人にとって郷愁感を誘う共通言語だ。

再びスクリーンに映像が流れ、「ヘヴン」へ。幻想的なダブ・サウンドに都会の街を望む車窓からの眺めが意外なほどマッチしている。歌心溢れるピアニカが吹くメロディに寄り添う演奏の優しさが観客の体を弛緩させたかと思えば、続いて赤い照明に照らされて始まった緊張感ある演奏は、バックにビルや陸橋などあらゆる建造物が爆破される映像と共に野太く不気味な音色に変化する。ド迫力の重たいビートの中から顔を覗かせる乾いたパーカッションの音が、太鼓に張られた皮の質感が伝わるほどに生々しい。

「キオク」~「Back」では逆回転を使った映像を見せながら静と動のコントラストを表現。ひときわ強く力の入った演奏に胸に熱いものが込み上げた。スクリーンに"あらかじめ決められた恋人たちへ NEVER ENDING STORY"と映し出されると、ドッと歓声が巻き起こった。続いて躍動感に満ちた「前日」の演奏でステージ前に身を乗り出す観客と一緒に池永も左右に身をくねらせて踊る。激しくスクリームしてラストのピアニカの演奏に入り、シンフォニックなテルミンの旋律と交わりながら曲を終えると、暗転したステージ袖から吉野寿 (eastern youth)が缶ビール片手に登場、一斉に沸く客席。

大歓声で迎える観客の声をいなすように吉野が朗読を始める。「Fly feat.吉野寿」だ。あら恋のキャリアの中でもターニング・ポイントになったであろうこの曲を、観客は固唾を飲んで身構えて聴いているかのようだ。後半、吉野の穏やかな歌声が叫びに変わったとき、そこにいたすべての者が圧倒され、心を打たれたに違いない。そして、その魂の叫びに応えながら熱い演奏を聴かせたあら恋と吉野に場内からは万雷の拍手が贈られた。アンコールは穏やかな日常を描き出した映像とともにゆっくりと始まった「翌日」。熱を冷ますかのように長く長く続く演奏は、抑えきれない高揚感を爆発させてエンディングを迎えた。MCの一切ないライヴだったが、何よりもその演奏が映像と共に雄弁にあら恋の世界観を語っており、ひとつの作品となっていた。普段あまり好んでインスト・バンドの音楽を聴かない人にこそ体感してもらいたくなる、感動的な夜だった。

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