Japanese
Dr.DOWNER
2013.12.06 @新代田FEVER
Writer 天野 史彬
もし"ロックンロールとは思春期の産物である"と言う人がいたら......まぁ、納得はできる。何故なら、ロックンロールが鳴らしてきた主題の多くは、ティーンエイジャーである少年少女たちの自意識の問題と密接に結びついてきたからだ。では、「さよならティーンエイジ」という、言わば10代への決別とも取れるタイトルの曲を名刺代わりに掲げてシーンの表舞台に登場したDr.DOWNERの場合はどうだろうか。「さよならティーンエイジ」でヴォーカルの猪股ヨウスケは歌う。"誰がなんと言おうと、日々が続くだけ さっきまで見た幻想は気づいちまえば消えている"――ここには、刹那的に生きることを特権のように許される10代の瑞々しさはない。あるいは、幻想に胸を膨らませるピュアネスもない。ここにあるのは、続く日々のリアリティだ。Dr.DOWNERの音楽とは、THE WHOが"Teenage Wasteland"、つまり"10代の荒野"と呼んだ場所の、そこがさらに焼け野原になったあとの場所から立ち昇る煙のようなものなのかもしれない。しかし、先に引用した歌詞のあとに続いて猪股は歌う。"思えばあの時ティーンエイジャー そこから抜け出せないでいる"――その煙は、時に何よりも温度の高い熱をおびながら、いまだ10代の荒野を彷徨っている。
この日は2ndアルバム『幻想のマボロシ』のリリース・ツアー"『燃えろマボロシ』TOUR"のファイナル、新代田FEVER公演。対バンには、Dr.DOWNERと昔からのつき合いだというSEVENTEEN AGAiNとWiennersの2バンドが招かれた。まずトップバッターとして登場したのはSEVENTEEN AGAiN。音楽的にはGOING STEADYなどを思わせる、シンガロングできるキャッチーなメロディと、時に破壊的なまでの疾走感を持ったパンク・ロック。ヴォーカルのヤブソンはMCで特定秘密保護法に対する怒りを露にしていて、最初は明確な政治的スタンスを露にするバンドなのかと思ったのだが、途中で彼が語った"別にラヴ&ピースとかが言いたいわけじゃないんですよ。ただ、これ以上俺の目の前で不快なことをしてくれるなって、それだけなんですよ"という言葉はとても印象に残った。大言壮語を語りたいわけじゃない。ただ、あの娘を泣かせるな。そのためだったら何だってやってやる――そんな根源的なパンクの反抗心を感じさせる彼らの音は、とても痛快で、感動的ですらあった。
続く2番手はWienners。彼らの放つパンク・ロックは、彼らの音楽が流れるその時間、その空間を、現実を超越したとても神秘的なものへと変化させる。Wiennersのライヴを観るたびに、自分が今、特別な空間にいるのだと実感できるのはこのためだ。多ジャンルを網羅しながらもそれを見事に圧縮・編集し、再現してみせる音楽的素養の豊富さと高いプレイヤビリティ。ライヴハウスに集うキッズを鼓舞しながら、時に彼らを置き去りにするほどの疾走感を持つビートと、まるで祭囃子のようなメロディ。この日の演奏も、街とライヴハウス、そこで出会う人々の親密な関係性を愛おしむような優しさで聴く人を包み込みながら、時にソリッドに突き刺すように、会場の熱を極限まで高めていた。
そして最後に登場したDr.DOWNER。アルバム『幻想のマボロシ』と同じく、「幻想のマボロシ」~「悲しい歌が鳴り響く前に」の流れでスタート。"消えちまった日々と分からない明日 失った何かは取り戻せ"(「幻想のマボロシ」)――ノイジーにバーストするギター・サウンドに乗せて、搾り出すように、しかしどこかぶっきらぼうに猪股は歌う。最初にも書いたように、もはや10代の頃のように向こう見ずにはいられないというリアリティをその世界観の根底に持つDr.DOWNERの音楽はしかし、常に"分からない明日"に戸惑い、"失った何か"を探し続けている。もはやティーンエイジではなくとも、過去と未来に板ばさみにされた、足掻き続ける"今"が常にある。きっとそれが、彼らにとって何よりも重要なことなのだ。そこから「どうだっけ」、「砂漠のサーカス」、「ロストホープ」と新作から立て続けに披露。諦念と達観、そして焦燥がない交ぜになったそのサウンドは、ブレーキの壊れた車のように、狂騒的に駆け抜けていく。オーディエンスも、まるで忘れていた何かを思い出したように、もしくはこの先にある未来を見せつけられたかのように、その音をしっかりと受け止め、熱狂で返す。この日のハイライトは本編終盤に演奏された「ライジング」~「暴走列車」の流れだった。夕焼け空の下、去っていったあの娘の後姿を思い出しながら浮かべる泣き笑いのような、切なくも陽気なメロディがノイズにまみれて会場を包む。"何も変わりはしないよ 相変わらず君はいないよ それでも日々は続く"(「ライジング」)――失ったものも、続く日々も。全てを抱きしめながら、それでも残り続けるロックンロールの熱がジリジリと焼きつくように胸に迫る。フロアへ降り立った高橋ケイタによる、ロックの"無意味"のカタルシスだけを突き詰めたような最高のギター・パフォーマンスも、「暴走列車」の悲しみの果てにある力強さも、すべてが10代の荒野の中で、焦げた匂いを発しながら、それでも美しく咲き誇っていた。
【Dr.DOWNERセットリスト】
1.幻想のマボロシ
2.悲しい歌が鳴り響く前に
3.どうだっけ
4.砂漠のサーカス
5.ロストホープ
6.刹那のガール
7.10月
8.バビロンタウン
9.レインボー
10.池子ライトニングサンダー
11.ライジング
12.ギターソロ
13.暴走列車
14.絶望はとっくに飽きたのさ
15.ドクターダウナーのテーマ
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2.ドクターダウナーのテーマ
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