Japanese
THE NOVEMBERS
2011.11.26 @SHIBUYA-AX
Writer 山口 智男
ステージと言うよりも舞台という言葉がふさわしい照明の使い方も含め、THE NOVEMBERSが持っている世界観がディテールにまでこだわって再現された――と思わせるライヴだった。
思えば、開演前から彼らのライヴは始まっていたのだろう。開演を待っている間、クラシックなピアノの調べが流れる中、ステージ後方に映し出された水面で踊る光の揺らめきを思わせる映像を眺めながら、活動寫真が上映される大きな天幕の中にいるような気分を味わっていた僕は、すでにTHE NOVEMBERSの世界観の虜になっていたのかもしれない。
今年8月に同時リリースした3rdフルアルバム『To (melt into)』と1stシングル「(Two) into holy」をひっさげ、THE NOVEMBERSは全国をツアーしてきた。そのツアー・ファイナルとなるSHIBUYA-AX公演。
何かが零れ落ちるような音楽とともにメンバーがステージに現れ、フィードバック・ノイズに導かれるように演奏がスタートした。1曲目は『To (melt into)』のオープニングを飾る「永遠の複製」。低音で唸るベースがリードする演奏を聴きながら、観客はまるで金縛りにあったように、ただそこに立ち尽くしている。バンドが作り出す世界観を壊しちゃいけない――そこにいる誰もがそう思っているのか、曲が終わっても拍手も歓声も起こらない。異常な緊張が張り詰める中、バンドは「瓦礫の上で」をたたみかける。
緑、青、赤、黄と複数の色を使いわけながら、ほぼ1色のライトしか使わない照明がまるで水の底にいるような気分を味わわせる。3曲目に演奏した「はじまりの教会」が終わったところで、ためらいながらもようやく拍手が起こった。
大音量とか演奏が殊更に過激とかと言うわけではない。しかし、まさに圧倒的とはこういうことを言うのだろう。序盤の、どちらかと言うと淡々とした流れから一転、殺気と言う言葉さえ連想させる激しさをアピールした「こわれる」「ニールの灰に」以降は、観客も緊張から解放され(とは言っても、その緊張は決して嫌なものではない。むしろ心地いい)、曲が終わると、歓声を上げ、盛んに拍手を贈るようになったが、この夜、THE NOVEMBERSが作り出した圧倒的な世界観はわずかな綻びも見せず、最後の最後まで、観客の意識を捕え、離さなかった。
その意味では、観客もまた彼らが作り出す世界を構成する要素の一つだったことはまちがいないものの、そこには、たとえばバンドの呼びかけに観客が応える、いわゆるコール&レスポンスで作り上げるような和気藹々とした一体感とはちょっと違う、何と言うか、耽溺という表現がしっくり来るような濃密な関係性が感じられ、それがより一層、この夜のライヴを印象深いものにしていた。
UKロックやUSオルタナティヴへの共鳴を思わせるサウンドに加え、どこか感じさせる日本情緒が彼らの存在をユニークなものにしているメロウな曲を挟んだ後、エフェクティヴなギター・サウンドを放射した「日々の剥製」からの終盤の流れは、ただただ圧巻の一言だった。THE NOVEMBERS流のハードコア・ナンバーとでも言いたい「dysphoria」「dnim」の連打。そしてステージ後方からのフラッシュ・ライトの効果も加え、その性急さとともに観客の気持ちを掻きむしった「彼岸に散る青」、そしてラストの「holy」。安息を思わせるこのスロー・ナンバーを聴きながら、ライヴの序盤、水の底にいるような感覚を味わっていた僕は光に包まれた天上の世界にいた――。そのカタルシスたるや。
途中、残り続ける作品を作っているバンドに影響され、バンドを続けてきた自分たちも残りつづける作品を作りたいと語ったTHE NOVEMBERS。ライヴはその場限りの作品かもしれない。しかし、ライヴと言うよりは一つの“作品”を作り上げようというメンバーの気持ちさえ感じ取れた、この夜のライヴはこの夜、AXに集まった観客の体験、あるいは記憶としていつまでも残りつづけるにちがいない。少なくとも僕はこの夜の体験を忘れることはないだろう。
アンコールの2曲目に披露した「再生の朝」では、同曲のレコーディングに参加していたLOSTAGEの岩城智和(Dr)、そしてART-SCHOOLの戸高賢史(Gt)が客演。尊敬する先輩バンドのメンバーを迎えた6人で美しい轟音を奏で、THE NOVEMBERSは2時間に及ぶライヴを締めくくった。
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