Overseas
MEW
2010.02.20 @Shibuya AX
Writer 伊藤 洋輔
ほんのりと春の予感を感じさせる風を感じつつ会場に足を運ぶと、フロアは開演前なのに夏のような熱気に包まれている。それもそのはず、連日ソールド・アウトとなっただけに、後方までぎゅうぎゅう状態のオーディエンスだ。それだけで会場の温度を上げているが、同時に待望の単独公演ということもあり、個々の期待と興奮がさらに上乗せされた濃密な熱気なのだ。SUMMER SONIC09以来の来日となるデンマークの耽美主義者、MEWのジャパン・ツアー初日。開演前には「本公演は大音量に加え、照明効果でフラッシュを多用しますので気を付けください」というようなアナウンスが流れにわかにざわめきが起こる。うんうん、そんなこと言われたらこっちは逆にテンション上がっちゃうよね(笑)。
1stアルバムは若さ溢れる想いを前面に押し出した、というかデビュー時特有の、純粋無垢な感情でそのまま描き切ってしまうような疾走感が印象的だった。「Am I Wry? No」に象徴されるどこまでも突き抜けるエモーショナルは、妖艶であり、繊細ながらも力強い、MEWというバンド独自の“しなやかな美意識”で構築されている。加えてヴォーカル、Jonasの幼児性帯びた愛くるしい容姿から発せられるファルセット・ヴォイスもまた、美意識をさらに高める素晴らしい魅力だ。
そんな世界にエッジーな要素を取り込み、アンセミックな広がりをみせた2ndアルバムで着実な成長を記しながらも、昨年リリースされた3rdアルバムでは、これまでとは一味違う世界を提示したものだった。どこかそれまでの構築された世界を一旦壊し、新たな方向性として大胆にバラバラなピースを紡いだ印象を受けた。メロディやリズム・パターンはより複雑化し、結果としてそれまでのストレートとは違った、1曲1曲が単体の物語のような存在として読み聴かせる短編集のような、叙情感たっぷりの新境地を示してくれた。そこには2nd後での定方向的な進化を見出せない、いわば壁にぶつかった迷いや葛藤が反映されているのかもしれない。そう考えると複雑に変化するのは納得だが、ライヴ空間を揺るがす強靭なグルーヴを目の当たりにすると、MEWは壁を乗り越えた先にある新たな何かを掴むことができたのではないか、と感慨深い想いが何度も過った。結果的に言ってしまえば、やはりこのバンドの美学は圧倒的だったのだ。
お馴染みの演出だが、背景の巨大スクリーンにはさまざまな映像が流れていく。神秘的な情景から、可愛らしくもユーモラスを感じるキャラが登場したり、逆にホラー・テイストのダークでちょっとグロテスクなものと、それだけでMEWの多用な世界観を存分に伝えてくれるが、なにより空間を激変させる相乗効果として、曲とリンクした映像の効果は絶大だ。Jonasの歌声には始め少しぎこちなさがあったものの、映像とリンクしながら徐々に調子を上げていくようだった。幽玄な「Reprise」で抱擁するように幕を開け、かの地の大空へ誘うような開放感を描いた「Hawaii」、爆発的に温度を上昇させた「Am I Wry? No」、この瞬間の幸福を全身で感じるようにオーディエンスが舞った「Sometimes Life isn’t Easy」、牙を突き出した狼の群れをバックに歌った「Apocalypso」は、まさにそんな襲いかかるような勢いと鋭さがあった。新旧の楽曲をバランス良く配置させ、終始オーディエンスの反応も良く、2度のアンコールを含め、バンド側と距離が離れない濃厚な1時間半だった。
安易に壁を乗り越えた、新たな境地に達したとは言いたくないが、やはり現在のMEWは3rdアルバム以降で大きく飛躍したと思う。その証明のように、アルバムの世界観同様、叙情感たっぷりのパフォーマンスを繰り広げてくれた。強固な美意識を突き詰める歩みはどこまでいくのか?ふと、そんな想いを終演後感じたが、自分の想像を超えるところに達してくれるだろうと思う。だってデビュー時から不変のエモーショナルは、ちょっとやそっとでは壊れない“しなやか”なものだから。
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