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sleepy.ab「二度寝する奴ぁ三度寝る」【第14回】

2013年07月号掲載

sleepy.ab「二度寝する奴ぁ三度寝る」【第14回】

前回は初めてのアルバイトという事で羅臼での昆布漁について書かせてもらいました。考えてみればその昆布漁を経た以降、高校生の時だけで地元根室で色んなアルバイトを経験した事を思い出したのでここに書きたいと思います。
昆布漁の後、高校1年生の冬くらいから酒屋で働くことになった。
というのも先に働いていて友達が辞めるという事で紹介という形で入れただけだった。で、これがまたタフな仕事であの瓶ビール20本入りケースを3つおんぶして5階のスナックまで運んだりと、現在の俺には無理なんじゃないかという荒技をやってのけてた。俺は、あの時の輝いていた俺自身を決して忘れない。
しかし栄光の日々は長く続かなかった。仕事も慣れてきたかなというある日、配達の車からお酒を運び終わり、車の後ろのバックドアを勢い良く閉めたら隣に違う場所に配達し終わり丁度戻って来ていた店長がいて、そのバックドアが頭にガーンといってしまった。店長はすごい勢いで「お前殺す気か!わざとだろ!」と頭から流血した状態で迫ってきました。その流血した姿に俺もびっくりして「わざとなわけないじゃないですか!」となぜか謝るところを間違って反抗してしまったのです。
これはめちゃくちゃ怒られました。本当に申し訳ない事をしたものです。
高校2年の夏休みには工事現場で働く仕事なんかもやった。これは全くといって向いてなかった、というのも初日に「とりあえず土でも掘ってろ」と言われ、土をがむしゃらに掘ってたら見事に水道管? を突き破って噴水状態、そこら一帯の家屋の水道をストップさせたことで全く信用を失ってしまった。
一躍現場では有名人になった。こいつか? 初日から破裂させたの、と鬼みたいな人達に詰められた。しかもその後も色々やってしまったのを憶えている。がここでは俺の為を思ってこれ以上は書かないでおく。
3年の夏休みにサンマを発泡スチロールに詰める冷凍会社のアルバイトってのもやった(けっこう色々やってんな)。この仕事はすごく楽しかった。
しかし仕事以外のところで事件はやっぱり起こった。
ある日、バイトの何人かを連れて社長がご飯に連れて行ってくれた時の事だ。
定食屋さんみたいな所だったと記憶している。その店の生姜焼き定食の味がとても濃かったのでライスがとてもすすんだ。なのでライスをおかわりした。その時、社長は「おっ!もっと食え。成山は小柄だけどよく食うな!がっはっは!」と、とても上機嫌になった。思わぬところで褒められた俺は何だか子供の頃こんなことあったなと昔の記憶とのリンクに嬉しくなった。それを見ていた他のバイト達もそれに習ってみんなライスをおかわりした。おかわりが必要のない者までおかわりした。「がっはっは!よしよし」社長の上機嫌は続く。みんなが我先にと次のおかわりを目指していた。褒められたい一心で早食い競争と様相を変えていく。肉とライスの比率などもはや関係なかった。先ほど、いち早くおかわりをしていた俺がやはり少しの差で二杯目のライスを平らげた。瞬時に、「おかわり!!」と今日一の声で手を挙げた。真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに伸ばしたその腕は耳に垂直にぴったりとくっ付いてたとかいないとか。他のバイト達は成山なんかにやられたと肩を落とした。そして羨望の眼差しをこちらに向けている(多分)。
さあ! 社長さん! 妾を褒めてつかっさいと他のバイト達へとドヤ顔を向けた。ところがそのバイト達の顔にはさっきまであった羨望の眼差しは完全に消えていた。
誰もがこちらに目を背けている。なにが起こったのか瞬時には理解出来なかった。
恐る恐る社長の顔を上目遣いで覗き込む。さっきまでの顔はそこにはなかった。
眉毛が完全に片方上がっている。それはまるでBE-BOP-HIGHSCHOOLのガンを飛ばしている顔のような(年代的に分からなかったらごめんなさい)。
そうです、完全に調子に乗ったのです。いつかのワンマンでアンコール前の大事な時にうんこを踏んだ話をした時のように調子に乗り過ぎたのです(その時は袖のスタッフからディレクターが殺すとインカムで言ってますがと伝令が来ました)。
そして社長はゆっくりとぎりぎりに聞こえるか聞こえないかの低い声でぼそっと俺に向かって言った「おべ、ぐえんのがっ」。
どうやら「おまえ、食えんのか?」と言ってるらしい事はそこの誰もが理解した。みんなが食べ終わった頃にようやく空気を読めずに3杯目のライスが届く。もはや生姜焼きなどは残ってはいない。あるのは少しのキャベツの残骸。その張りつめた空気の中で1人ライスのみを食べる。その長過ぎる時間といったらなかった。この世には永遠はあるのかもしれないと思ったりした。それからしばらくして夏休みも終わったのでバイトを辞めることになる。続ける事も出来たが辞める事にした。やはりあの突然変異の鬼の形相が脳裏から離れなかった。社長に辞める理由を聞かれた。その時、咄嗟になんか魚の目が怖くなってきて、、というよく分からない事を言ってしまった。
未だになんでそんな事を言ったのかは、わからない。
こうして高校3年間のバイト生活は幕を閉じる。
何だか振り返ってみると、やはりというかとても駄目な感じですね。
その後の自分に全く期待が出来ないエピソードしかない。
そして、そんな俺は高校を卒業し札幌で一人暮らしを始めるのです。
しかし、その札幌で101回くらい面接に落ちるとも知らずに。
それはまた違うお話で。