Japanese
有村竜太朗
Skream! マガジン 2025年11月号掲載
2025.08.15 @新宿LOFT
Writer : 石角 友香 Photographer:冨田味我
久々のオリジナル新曲「春光呪文 / shunkōjumon」が誕生したことを機に、新たなソロ・ワークのフェーズに突入した有村竜太朗が、"有村竜太朗+DEMONSTRATIONs SUMMER TOUR 2025「巡光呪文/junkōjumon」"の追加公演且つファイナル・ライヴを、8月15日、新宿LOFTで開催した。もともと2023年のアルバム『≒demo』では、有村とhiro(te'/Gt)が作ってきた音楽の内省的な側面と、外側に向かう初期衝動的なパワーを表現し、曲が持つ二面性の両方を明らかにした流れがある。さらに今回の「春光呪文 / shunkōjumon」は、cinema staffの三島想平(Ba)がアレンジで参加していて、直近の新曲「共犯遊戯 / kyōhanyūgi」は、サポート・メンバーでもある悠介(lynch./健康/Gt)の作曲曲であり、有村が人と音楽を作る面白さをソロでも再び獲得している印象が強いのだ。さらに今回のサポート・メンバーは悠介をはじめ、鳥石遼太(Ba)、高垣良介(Dr)とhiroと有村が作ってきた音楽への理解度の高いメンバーであり、精神的にはもうバンドと言って差し支えない印象を持った。音源では内省と外に向かうパワーの両極に振っていた2種類のアウトプットが、セットリストに混在する面白さ。だが、実際は極端に対照的なアレンジではなく、今のメンバーで育ててきた異なる2種のライヴ・アレンジという印象だ。2023年のツアーとは全然印象の違う、一曲一曲がさらに濃度を高めた表現だったように感じた。
ファンが息を詰めて待ち構えるなか古いヨーロッパ映画のようなSEが流れ悠介、鳥石、高垣、そしてSYUTO(3470.mon/Mani/Key)が登場。少し遅れて有村が現れる。そのまま生演奏に繋がり、「共犯遊戯 / kyōhanyūgi」の精神をかき乱すノイジーなアンサンブルに突入。SYUTOのピアノや3拍子へのリズム・チェンジも特徴的だ。近いトーンの「≒rentogen」のサビで一気にハンズ・アップが起こり、エンディングから間髪入れず鳥石の重いベースが「猫夢/nekoyume」のネオ・サイケな世界観へ誘う。悠介の作る幻惑的なギター・サウンドがシンプルな5ピースのポテンシャルを拡張した。彼等に対してART-SCHOOLとの対バンが時々要望されるのが理解できる、本気のオルタナティヴ・ロックである。
黙々と演奏を続ける有村のニュートラルな曲への没入も素晴らしく、このメンバーでのアンサンブルが相当楽しいのだろうと容易に想像が付く。間髪入れずに80年代UK的な硬質なサウンド感の「≒tsukikagetotsukikaze」、映画的なSEに続き、荒涼としたギター・サウンドのイントロに歓声が上がった「≒sikirei」。ブルージーですらある曲のトーンが、締めの"何の涙?"のリフレインを際立たせる。そしてネオ・サイケに日本的な懐かしさのあるメロディが交ざる「≒kuruoshibana」まで、ほぼノンストップで届けられた。序盤から感じていたことだが、有村の囁くようなヴォーカルもヴィヴィッドに伝わるアンサンブルの抜けの良さ、シンプルに外音のバランスの良さが一曲一曲の聴き応えを確かなものにしていた。
追加公演を思い出のある新宿LOFTで開催できたこと、ファンが足を運んでくれたことに、淡々とした調子ながら喜びを隠せない有村に、フロアの空気も温かなものになっていく。ソリッドで深い音楽を奏でながら、MCでは温かいムードで満たされるのはこのツアーの特徴かもしれない。
ミディアムやスローな曲が続くブロックは、さらにバンドの曲への理解度に唸らされることに。「鍵時計/kagidokei」での悠介のループ・フレーズやコーラスも効いていて、淡々と進む曲に表情を付ける。「魔似事/manegoto」で鳥石はアップライト・ベースに持ち替え、SYUTOのピアノと共に重要なアレンジを担い、歌に溢れるエレジーを見事に彩った。一曲一曲への没入感は、「ザジ待ち/zajimachi」での悠介が鳴らすオーロラのようなギターのエコー感、ギターで作り出すオーケストレーションのような「日没地区/nichibotsuchiku」で、ますます深まる。また、「恋ト幻/rentogen」では大切な記憶があやふやになる感覚を、大切に歌われるメロディをカオティックな音の壁が遮断する展開で生々しく表現。曲への理解の深さを実感させられる瞬間だった。
特に説明はなく、未発表の新曲「グレープ」が披露され、その後、再びセットリストは『≒demo』の中でもファストな曲にシフトしていく。ポップな曲調とシューゲイズな音像の「≒mata,otsukisama」でグッとギア・アップすると、"LOFT!"と有村が叫び、先程の深く内面に向かうようなアレンジと対照的に、有村のストロークと淡い光を感じる悠介のリフが交差するアレンジで、「≒nichibotsuchiku」が強い感情を伴うもう1つの景色を立ち上げる。さらにハンドマイクでフロアを煽り、タオル回しが発生したのは「≒jukyusai」。しかもOiコールとシンガロングも湧き上がった。だが、以前の『≒demo』リリース時のフリーク・アウトしていくようなパンク・サウンドとは、違う情感があったのも確かだ。
再度メンバーやライヴハウスのスタッフ、ファンに、急遽決定した追加公演を実現してくれたこと、それが盛況であることに謝辞を述べる有村。このメンバーで集まることそのものが楽しくて仕方ないことが伝わるいいテンションだ。終盤のオペラ風のイントロから3拍子のセクション、そして思い切り音の壁をぶっ立て、ブレイクからエンディングに向かう様は、ポストロック的な大曲「円劇 / engeki」でダイナミックな世界観を作る。そして本編ラストはこのツアーのきっかけとなった「春光呪文 / shunkōjumon」。季節は晩夏に向かうけれど、再び物語が動き出した春という季節の躍動が優しいピアノの旋律と歌に鮮明に現れ、ライヴ全編の中でも一際心に残る演奏になっていた。新曲を共有したバンドの演奏がいかに有機的なものになるのかを実感した本編でもあった。
アンコールはファイナルを成功裏に終えた祝杯が交わされ、今年後半から来年も、このメンバーでのツアーや対バン・イベントを精力的に行っていくことが告げられた。そして彼等に共通するルーツであろうTHE SMASHING PUMPKINSが再始動したこともあり、カバーで彼等の「Today」を披露してくれたことで、有村竜太朗+DEMONSTRATIONsの今のバンド感を堪能することができた。アンコールで4曲も演奏した上に5人の仲の良さが伝わるメンバー紹介のくだりもあり、これからのライヴや新曲に期待が止まらない。
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