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LIVE REPORT

Japanese

BREIMEN

Skream! マガジン 2024年08月号掲載

2024.06.28 @KT Zepp Yokohama

Writer : 石角 友香 Photographer:野口悟空

BREIMENがメジャー1stアルバム『AVEANTIN』のリリース・ツアー8本を6月7日の名古屋で終え、追加公演を6月28日にバンドの地元と言える横浜KT Zepp Yokohamaで開催した。4月に行われた初日の昭和女子大学 人見記念講堂でのライヴもすでに完成度は高かったが、ツアーを経た遊びの部分や、本編ツアーとは違う選曲を含むアルバム曲のセットリストの組み方や、横浜ならではの思い出を開陳する展示などに、二度と同じものを見せない気概や、シンプルに面白いほうへ舵を切るバンドのメンタリティも窺わせたのだった。

夕方まで大雨が襲った関東地方。だが開演まで十分な時間を残してファンは入場していた様子だ。それもそのはず、ホワイエの"裏AVEANTIN展"では、実際の制作に用いられたフライヤーや楽器などが散乱した"無礼ハイツ102"の再現、アートワークの企画書なども掲出されていたからだ。

ステージ背後には3カメによるリアルタイム映像が映し出されるモニターがしつらえられ、スタートは「a veantin」のライヴ・アレンジ・バージョンから。全ての楽器から繰り出されるパーカッシヴな音が身体に当たる感覚がすごい。So Kanno(Dr)がタフにフィニッシュを決めると同時に、イレギュラーなリズムにぶん回される「乱痴気」に突入。ヴォーカルとベースの乖離具合に、レコーディング段階では不安しかなかったという高木祥太(Ba/Vo)の言葉が、すっかり過去のものに思えるほど、ピースの噛み合わせが抜群。オブリをジョージ林(Sax)のサックスで入れるのもこのバンドならでは。終盤はサトウカツシロ(Gt)と林がソロで掛け合いをし、いけだゆうた(Key)のシンセ・リフも相まって、2曲目とは思えない大団円ぶり。日々進化、変化、成長するツアーの醍醐味である。

なぜか関西弁のカタコトめいた、高木の"オレハシンデモタバコヲヤメナイゾー"の一声から、重いビートと、ファンク・ナンバーにしては壁のような厚いギターのアレンジがアグレッシヴな「LUCKY STRIKE」で、フロアは狂喜。サトウが咥えタバコで弾くソロで沸きに沸き、さらに"プカプカプカ"と大きなシンガロングが起こる。シームレスに繋いで、一転、クリーン・トーンのギターや'80s感たっぷりなシンセ・リフで、今のライヴ・アレンジに転換した「IWBYL」を盛り込んでくるのもいい。高木の"ジャンプ! ジャンプ!"の発声を凌駕するがごとく跳ねるオーディエンスの爆発するムードも素晴らしい。そこから同じく『TITY』からの選曲「ODORANAI」に繋ぐのもいい流れだ。ギターとベースがパスを出し合うようなプレイが耳にも目にも楽しくて仕方がない。まぁ、それを言えば5人が出している音全てに完全にロック・オンされているし、目は1人分では全然足りないのだが。

「寿限無」の入りのドラムをこともなげに(こともなげに?)3回やり直すKanno。そしてオーディエンスは"寿限無"の名前を自分が唱えることについて準備万端だ。さすがにツアー9本目ともなると、高木がフロアに降りてマイクを向けられてもスムーズに唱える人が多いのだが、高木のジャッジも厳しい。3組目の大学生でようやくOKを出し、ラストは会場全員で唱和するという、他のどんなライヴでもありえない光景が展開した。スーパーハイテンションなフロアに、ライヴ人気も上昇中の「ラブコメディ」のイントロが、長めのセッションにアレンジされ投入されると、もはや笑顔とグルーヴがとめどなく溢れる。いくらでも食べられる、いい材料の、火力の強い料理が思い浮かんでしまった。それぐらいBREIMENのアンサンブルは官能に近い。

MCタイムでは高木がメンバー紹介をしようとすると、誰もが定位置を離れるというミラクル(?)が起き、いけだが業務的に現在残っている物販の紹介をし、サトウが"ツアーっていうのは全国をブラブラする旅行とは言いませんが"と言い、ひと笑い起こったところで、秋のツーマン・ツアー開催の旨が告知された。ファンの脳裏はもはや対バンの妄想に飛躍していたに違いない。

そして高木が次の曲のアレンジを"どうしようかな。俺とだーいけ(いけだ)スタートにしようか"と、その場で決定。しばし歌を聴かせるアレンジで進行し、他の3人の音が入った後もジャズ要素の濃いアンサンブルで前半からの空気を入れ換えた。さらに「魔法がとけるまで」の名作映画のサントラ調のいけだのフレーズに始まり、生バンドで作り出すトラックメイキングめいた――例えば一定したシンバルだったり、ベースだったりに窺える正確さ、フルートの音色に感じるハウス・トラックの名曲感だったりに凄みを感じる。そこから繋がった「チャプター」のプログレッシヴな展開や、「A・T・M」でのアウトロに向かうセッションの中で、何度も大きな搏動を繰り返しつつ組み上げられていったKannoのドラム・ソロには、理屈を超えて感極まってしまった。この3曲のタームは追加公演で新たに書き加えられた側面でもあり、バンドの現在進行形を伝えるクライマックスと言えるだろう。

ゲスト・アーティストのフィーチャリングのやり方も、同じことを繰り返さない彼ららしく、ODD Foot WorksのPecori(Rap)が乱入(!?)する「T・P・P」では、"悲しいお知らせがあります。Zeppワンマンの今日、Pecori君は来れません"とフェイントをかまし、さらに林がラップし驚きをもたらした挙句、フロアからPecoriが登場するという周到さだった。さらに横浜開催の肝とも言える展開が、「眼差し」での高木の母親である通称"キャッサバ"、プロのフルーティストとの共演。演奏に入る前、高木が「眼差し」の歌詞の情景がまさに横浜の実家付近の記憶であることを語ったことで、より楽曲の解像度が上がったことは間違いない。

演奏後も"山一(山一ハイツ)"での思い出を話し、関わった仲間だけでなく、リスナーも含めたこのライヴの意味を共有していたように思う。その発言からの「Play time isn't over」の腹落ち感は相当なもので、一生命懸けで遊ぶであろう5人のマインドに、会場中が嬉々として巻き込まれていくのが見て取れた。さらに輪を掛けるように、"革命って訳じゃない/解放したいだけ"と歌う「ブレイクスルー」が、メジャー・デビューという新たなチャプターを開いた、BREIMENを象徴するアンセムとして響いた。そして本編のみ130分のラスト・ナンバーはアルバム同様「L・G・O」。微かな光のようないけだのオルガン、タッチに全てが表れているようなサトウのアコギなど、一人一人が独立しつつ高木のパーソナルな物語に歩調を合わせる真摯なアンサンブルだ。演出も5人のシルエットが映えるシンプルなもので、砂漠を旅する楽団のように幻視してしまった。そして続く道の果てしなさと情熱を表すような激しく長い林渾身のサックス・ソロ。5人全員がキーマンであるBREIMENというバンドの、果てしなさを再確認した追加公演だった。

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