Japanese
Vaundy
Skream! マガジン 2023年05月号掲載
2023.03.25 @東京ガーデンシアター
Writer : 真貝 聡 Photographer:日吉"JP"純平
ライヴが終わって客席の明かりがついたとき、周囲の観客が"......あ、あぁ"と声を漏らし、呆然と場内を見渡した。まるで、今までここではないどこかへ行っていたかのように。まるで夢から覚めたかのように。あれはいったい、なんだったのだろう?
3月25日、Vaundyのワンマン・ライヴ・ツアー[Vaundy one man live tour "replica"]が開催された。この日披露した18曲中14曲が2020年以降のドラマ、CM、アニメなどに起用されたタイアップ曲。今の音楽シーンならびにカルチャーを語るうえで、いかに彼が最重要人物であるかがわかる。会場は最大収容人数8,000人の東京ガーデンシアターで、客席フロア4層まで満席。開演時間になり、客席の明かりが落ち、ステージ上でゆらゆらと揺れる青い光の中からVaundyが現れて、コツコツと歩きマイク・スタンドの前へ。大きな歓声と拍手に包まれる。彼はマイクに口を近づけて浅く息を吸って歌った。"あなたが今も/口をはにかみ、涙流すから/放つ言葉も/血が滲んでる"。今年1月より放送した、月9ドラマ"女神の教室~リーガル青春白書~"の主題歌「まぶた」である。スコーンと天井を突き破るようなパワフルな歌声。演奏が終わると寸時の静寂が起こり、ドン! と会場全体が沸いた。続いて「灯火」を歌うと"さぁ、準備はできてるかい? まずは歌おうか"と「踊り子」へ。歌い出しは薄い青色に染まったステージが、サビでぐわーっと白い世界に包まれていく。周囲の観客みんなが恍惚の表情を浮かべていた。
"今日は人が多いね、いっぱいだ。(客席上部を見て)そこからじゃ見えないっしょ?"と言葉を投げ掛けると、"見えてるよー!"とレスポンスがあり"見える? イケるね、じゃあ。もしも見えなかったら耳を澄ましてくれたらいいよ"と言ってエレキ・ギターを手に持ち、ロック・ナンバー・パートへ突入。「置き手紙」、「benefits」、「HERO」と一発一発ヘヴィなパンチを連打した。曲が終わるたびに"......うぉぉおおー!"と地鳴りのような歓声が飛ぶ。8曲を披露したところで、改めて客席を展望するVaundy。"どんな顔をしてるかまではわからないけど、どんな動きをしてるかは見えてるから。頼むぜ、俺を楽しませてくれ"。そう言って、膝を深く曲げて思いっきりジャンプ。その瞬間「瞳惚れ」の演奏が始まって、その音と呼応するようにミラーボールが回りだした。トロピカルに染まる場内は、トキメキと興奮を誘うクラブと化す。そのまま「融解sink」、「恋風邪にのせて」とダンス・ナンバー・パートへ。
"いやぁ、いいね。でも、気を抜いたら終わっちゃうから、全力で楽しんでください。......頼むぜ"と不敵に笑って「mabataki」でまたもや景色は一変。この日、個人的に堪らなかったのが「しわあわせ」だ。真っ暗なステージで、一灯のスポットライトがVaundyを照らした。まるでひとりひとりの耳もとで話し掛けるように、優しく澄んだ歌声が流れる。そして"重なるひびを僕達は/流るるひびも僕達は/思い出すこともなくなって/しまうんだろう/しまうんだろうって"の大コーラスとVaundyの歌が重なれば、天井から光のカーテンが現れて、そこは真っ白な世界になった。神々しい。ここが天国に一番近い場所なのかもしれない、と思えるほど神秘的だった。"いい汗かいたぜ。いけるかお前ら? 俺が先を走るからついてこいや"と発し「不可幸力」からの「CHAINSAW BLOOD」もまた強烈だ。サイレンのように激しく点灯する赤いステージと、歌うたびに何度もピークを更新する演奏。「泣き地蔵」、「soramimi」を叩き込んで"はぁ、疲れた。なんだ、お前ら元気そうじゃないか?"と話し掛けると"フゥ~!"と声が返ってきた。"フゥ~じゃねぇぜ。俺はもう疲れた。改めて、今日はどうもありがとうございました"と言って、ラストは去年の"NHK紅白歌合戦"でも披露した「怪獣の花唄」で幕を閉じる。歌も演奏も構成も照明も、それはいわゆるライヴと言うより、すべてが完璧なエンターテイメント・ショーだった。
――終演後、会場を出て駅に向かう途中、前を歩いていた女性が"まだ、ふわふわする"と言った。あの日、僕らはライヴ以上の何かを観た気がする。
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