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LIVE REPORT

Japanese

秋山黄色

Skream! マガジン 2022年11月号掲載

2022.10.13 @中野サンプラザ

Writer 石角 友香 Photo by Ayumu Kosugi

こうすることでしか何も対象に刻めない――そんなライヴを久々に観た。ファンにとっては何を今さらな感想かも知れないが、それほど秋山黄色は音楽でしか刻めない何かを求め、自分がぶっ壊れる寸前まで肉体と精神を総動員し、言葉ではファンに対して"みなさま"と丁寧に表現したかと思えば、熱いリアクションに"うるせぇな! 黙っとけ!"と笑いながら嬉しそうに荒い言葉を放つ。それは"あなたの感じるままに楽しんでくれることを望む。そこに異論を挟む余地を与えない"という愛情表現でもあると思った。

初のホール・ツアーとなった今回は、アルバム・リリースを伴わないタイミングなだけにむしろセットリストが気になるところ。マシンで作られたシャッター音とストロボが激しく点滅するなか、その演出を受けて「シャッターチャンス」でスタートした。秋山のラップ調のトーキング・ヴォーカルは、終盤に向かって振り絞るようなスクリームに変貌し、ポスト・パンク的な「Bottoms call」へ。リズム隊は藤本ひかり(Ba/ex-赤い公園)と鈴木 敬(Dr/Bentham)で、ソリッドなビートからねちっこいグルーヴまで、このふたりが秋山の表現をフリーク・アウトすれすれのテンションへ引き上げている。ギタリストとしての破格ぶりをイントロで見せつけた「やさぐれカイドー」まで、すでにエネルギー残量は半分以下なのでは? と思しき全力のプレイで飛ばす。しかも秋山と井手上 誠(Gt)のソロの応酬で冒頭からバチバチに火花を散らしている。

本人も頭から無茶をしすぎたことは自覚していたようだが、それでも"破壊に破壊を重ねて、みなさんの常識を塗り替えられたら。人の目を気にしたやつからぶっ飛ばしていくのでよろしく!"と飴と鞭戦法でさらに煽っていく。2本のギターの抜き差しがインスト・ジャム・バンドを思わせるイントロからの、「クラッカー・シャドー」の言葉数の多さと淡々とした歌唱がむしろ刺さる。"明日になったら変わるなら/とうとう希望はなくなるよ"という、無責任な常套句の真逆を行くフレーズが明確に聴こえた。トロピカルなピアノやシンセ・リフ、空間系のSEとマシンのバグのようなギターが交錯する「ソーイングボックス」と、ストーリーテリングの上手さが際立つ曲が続いたあとは、ユニークな譜割のラップと藤本のコーラスが印象に残る新曲「年始のTwilight」も披露。深いブルーのライトが複数のミラーボールに反射して、ステージというより客席が夜の中にあるようだった。サンプラー・メインのバウンシーな「Night park」も、藤本の重低音が蠢くベースでライヴならではのカタルシスを生んでいた。

セット・チェンジしている間に"うわすげぇ! すごくね? 平日でしょ? 僕は365日連休だけど"と、満場の中野サンプラザに素直に感激している様子の秋山。アコースティック・セットが準備できると、秋山がアコギのボディを叩いてループを作る。音源のバージョンより音数が少ないぶん、ジャンル感が後退し、シンプルな音の抜き差しで効かせた「夕暮れに映して」はなかなかスリリングだったし、大人と子供についての逆説的な歌詞が冴えている「エニーワン・ノスタルジー」も、言葉がスッと伝わった。明日全身筋肉痛で動けないほど振り切ったアクションを見せたかと思うと、"こんな楽しみ方も自分の音楽にはある"という表現も同じライヴに惜しげもなく投入し、しかもおびただしい量のMCでたった今思ったことを話す。こんなアーティストというか、人間を生で見ることはあるだろうか。

藤本のベースが場を支配するなか、秋山は"僕は何人(なんぴと)に対しても優しくできる人間じゃないんですけど、音楽で伝えることを良しとしています。この世の終わりみたいな気分になったりするときもあると思うので、僕は遊ぶように歌って、時々叫ぶようにステップを踏みますので、せいぜいお付き合いください"と、独特な言い回しで彼なりの寛容を示し、この4人だからこそ鳴らせるオルタナティヴ・ロック「Drown in Twinkle」を鳴らす。メロディのファルセットに耳を奪われる「見て呉れ」、獰猛なファンクと呼ぶべきテンポ・チェンジも鋭利な「PUPA」と、グゥの音も出ない迫真の演奏ににやついている自分に気づいた。人はとんでもないものを経験すると笑うしかないというやつである。

秋山の弾くピアノ・インストからラテンを換骨奪胎したリズムを持つ「アク」。言葉数の多いメロディだけでもスリリングだが、正義も人やシチュエーションによっては狂気であることを伝える歌詞の真心に打たれる。真逆にストレートな8ビートの「サーチライト」が放たれると、その振り幅自体もカタルシスに転じた。生きづらさを最終的には肯定する歌だが、うまく生きているように見える誰かを否定もしない。鈍感なのは論外だが、生きていればどうしたって傷つくということが大前提なのだ。続く「アイデンティティ」も生き方そのままだった。そして傷を咎めも称揚もしない。それを体現するためにぶっ壊れるまで自分を使い切るのだ。いわく"どうしたらもっと楽しくなるんだろうとか、とにかくやってるとガス欠になる、自分がどんなにクール・ビューティだったとか思い出せないぐらいです"と、泣き笑いしそうになる言葉が自然に出てくるのが秋山という人である。本編ラストはブルージーなハード・ロックのリフと、静謐ですらあるAメロ、堂々と届けるサビへと上り詰めていくドラマチックな展開を持つ「モノローグ」。ここでもやはり"傷"は何かと関わったからこそつくものとして描かれていて、それが変化をもたらしてくれるようにと、心から渾身の歌や演奏に昇華しているように見えた。

本編で出し切った感のある4人がアンコールでは"列車ごっこ"スタイルで登場したのも、この4人の相性の良さが伝わる。そこから強烈な漫画オタクである秋山の漫画愛に始まり、TVアニメ"僕のヒーローアカデミア"第6期のエンディング・テーマを手掛けることになった歓喜が爆発。これまでも自分が手掛けたアニメの主題歌などがテレビから流れたのちに、非現実感に包まれてきたと語っていた。そんな愛情満載の新曲「SKETCH」はアリア的なAメロのファルセット、オーケストレーションのように展開していく複雑なアレンジもバチッと決めてみせた。これは生で何度も聴いてみたい。正真正銘のラストはひとりひとりに対して歌うように、時に声がひっくり返りそうになるテンションで「Caffeine」を演奏。ギターの轟音を存分に響かせ、エフェクトを自分で切ってステージをあとにした。この人は、いったいどれだけの試行錯誤とインスピレーションをひとりで形にしてきたのだろう。だからこそ、ライヴでは他者との感情の交歓がよりかけがえのないものに感じられた。秋山黄色、さらに多くの人に発見されて然るべきだと思う。


[Setlist]
1. シャッターチャンス
2. Bottoms call
3. やさぐれカイドー
4. クラッカー・シャドー
5. ソーイングボックス
6. 年始のTwilight
7. Night park
8. 夕暮れに映して
9. エニーワン・ノスタルジー
10. Drown in Twinkle
11. 見て呉れ
12. PUPA
13. アク
14. サーチライト
15. アイデンティティ
16. モノローグ
En1. SKETCH
En2. Caffeine

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