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LIVE REPORT

Japanese

HEESEY

Skream! マガジン 2022年05月号掲載

2022.03.26 @仙台MACANA

Writer 増田勇一 Photo by 久保田尚永

去る3月3日に『33』(ダブルスリー)と題された3rdソロ・アルバムを発表したHEESEYの新たなツアーが3月26日、仙台で幕を開けた。仙台と言えば、この公演の10日前に発生した震度6に及ぶ地震の被害を受けたばかり。時折余震もあり、東北新幹線も完全復旧に至っていない状況下、なおかつコロナ感染防止対策上の理由から依然としてマスク着用を義務づけられ、大きな声を発することが厳禁とされたなかでのライヴ開催となったが、会場となったMACANAにはこの日を待ち焦がれてきた熱心なファンが集結。ポジティヴな空気に溢れたにぎやかな一夜となった。

通常、始まったばかりのツアーにおける演奏内容については、これから会場に足を運ぶことになる人たちにとってのいわゆるネタバレを避けるうえでも、具体的な記述を極力避けることが求められるはずだが、今回のツアーに限ってはそれが非常に難しい。というのもHEESEYはこのツアーにおいて『33』の収録曲すべてを披露するつもりだと前々から公言してきたからだ。もちろんこの夜の曲順については明かさずにおくが、実際、彼は公約通りこのアルバムの全曲を網羅したプログラムを用意していた。作品の冒頭を飾っていた「NEW DAYS」を狂宴の序曲としながら、今回のツアーのタイトルにも掲げられた「ROCK'N'ROLL SURVIVOR」に雪崩れ込んでいく序盤から、この上なく絶好調な流れが続き、随所に従来の2作品からのキラーチューンも仕掛けられている。踊れるロックンロールという共通項を持ちつつも実に多様な楽曲たちが、HEESEY自身の軽妙なお喋りと絡み合いながら転がり続けていった。

そこで特筆すべきは、真新しい楽曲主体の演奏内容でありながらオーディエンスがまったく乗り遅れることなく、むしろステージ上のHEESEYを焚きつけるくらいの熱をフロアから返していたことだろう。それは、来場者の多くがすでに『33』をじっくりと聴き込んでいたからこそ成立していたことであるはずだ。同時にこのアルバムには、初めて聴いた瞬間から、新鮮さと同時に長年愛聴してきた作品のような愛着を感じさせられるようなところがある。そう断定できるのは筆者自身がそう感じているからに他ならない。言い換えれば"新しい"と"らしい"が同居しているわけだが、そんな楽曲ばかりが繰り出されるからこそ身体は素直に反応し始めるし、仮にこの新作を未聴のまま会場に赴いたとしても、そのグルーヴに自然に同調することができるはずなのだ。しかも今回のツアーで彼の脇を固めているのは、菅 大助(Gt)、おおくぼけい(Key)、そして大山草平(Dr)という『33』の制作チームと同じ顔ぶれのサポート・メンバーたち。その演奏ぶりに過不足は一切ないし、ツアー初日にありがちな硬さともまるで無縁のパフォーマンスだった。

この日の仙台地方は午後からあいにくの雨に見舞われていたが、会場入りした時点ですでにHEESEYはいい手応えを感じていたようだ。というのも、会場であるMACANAのロゴは赤。この日の彼が想定していたのも赤いステージ衣装。それは別に『33』のテーマ・カラーというわけではないのだが、薔薇の花や浅草の雷門と所縁のある歌詞を伴った楽曲も収録されているだけに、間違いなくこのアルバムを象徴する色だとも言える。そしてご存知の読者も多いかもしれないが、この男には何かと縁起を担ぎがちな性質がある。この場では説明しきれないので詳しい話は割愛させていただくが、数秘術にまつわるあれこれが作品内容に繋がっている『33』にもそうした部分が多々ある。そんな彼だからこそ、MACANAのロゴを目にした瞬間に、頭の中ですべてがカチッと噛み合うような感覚を味わっていたのだろう。アンコール時にHEESEY自身が"真っ赤なMACANA!"といういかにも彼らしい駄洒落を発した際の満面の笑みが、それを物語っていた。

HEESEYの音楽人生において初挑戦だというジャジーな味わいの楽曲も飛び出せば、音楽で世界を旅するかのようにポルカやサンバ、レゲエのビートが繰り出される痛快な流れが組み込まれていたりもする極彩色のロックンロール・ショーは、気づけば2時間以上にも及んでいた。しかし退屈と無縁なのはもちろんのこと、時間経過を忘れさせるような軽快さがそこにはあった。彼はライヴの序盤、来場者たちに感謝の言葉を投げ掛けたうえで"来られなかった人たちのためにも、存分に楽しんでください"と語っていた。そうした気持ちの伴ったステージだったことも、熱が一切途切れずにいたことの一因だったのかもしれない。

"こうして初日を迎えられたのはみなさんのおかげです。気をつけて帰ってください。初日に「真っ赤なMACANA」でできて嬉しいです! また絶対にお会いしましょう!"

アンコール時のHEESEYは別れの言葉ではなく、再会を約束するメッセージを客席に告げていた。そして終演後の楽屋を訪ねてみると、彼の口からは次のような言葉が聞こえてきた。

"何しろこのご時世じゃないですか。コロナばかりじゃなく地震のこともあったし、何よりもこの日を迎えられて良かったなというのが本音です。まずはみなさんに来てもらわないと始まらないのに、交通の便にも支障が出ているわけじゃないですか。正直、ライヴ開催の可否については僕自身もいろいろ考えたしいろんな方の意見も聞いてきたんですけど、やれる可能性があるならばやったほうがいい、という判断に至ったんです。延期することで不安材料はいくぶん減らせるのかもしれないけど、時間が経っていくなかで自分自身のモードも変化してしまうかもしれないし、もしも観に来られない人がいるならば、むしろまた仙台に来ることを考えるべきじゃないかな、と。しかもお察しの通り、「そういえばMACANAのロゴって赤かったよね!」と気づいた時点でちょっとウキウキしちゃったところがあって(笑)、自分を鼓舞することができたというか、盛り上がった気分でこの初日を迎えることができたんです。本当にいい形でツアーをスタートすることができて、嬉しく思っています"

そう語るHEESEYと仲間たちによるツアーは翌27日には宇都宮で第2夜を迎え、この先、4月16日の東京公演(日本橋三井ホール)まで続いてくことになる。このロックンロールの旅を堪能するための資格や条件は一切ない。ただ、『33』を聴き込んでおくことでいっそう楽しみが増すのは確実なので、ぜひそれを推奨しておきたい。

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