Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

LIVE REPORT

Japanese

秀吉

Skream! マガジン 2016年10月号掲載

2016.08.20 @新代田FEVER

Writer 秦 理絵

1曲1曲を歌い始めるごとに、曲についての想いを語り掛けてから演奏に入るという秀吉のスタイルは、とても誠実で、実直で、何よりもライヴを終えたあとにもあたたかい余韻を残してくれるものだった。8月3日にリリースした3rdフル・アルバム『ロックンロール』を引っ提げた全国20ヶ所を回るツアー"秀吉のロックンロールツアー"の初日となる新代田LIVE HOUSE FEVER。"今日この場所を選んでくれたあなたに、200パーセントのロックンロールを楽しんでもらいたいと思います!"と、挨拶代わりに言い放った柿澤秀吉(Vo/Gt)。この日は夏休みも終盤となる8月の第3土曜日ということもあり、全国で多くのイベントが開催されていたことを意識した言葉だろう。そんなライヴは町田龍哉(Ba)、神保哲也(Dr)が繰り出す軽やかなリズム隊の演奏に乗せて「まっくらやみの中で」からスタートした。

今回のツアーの中心となった最新アルバム『ロックンロール』は、秀吉が初めてクラウドファンディングを用いて作り上げた、かつてないほど思い入れの強い作品だ。そのタイトルどおりロックンロールへの純情と衝動を詰め込んだ1枚は、まだまだ秀吉というバンドには無限の可能性があることを再確認する作品でもあったと思う。誰もが内に秘める弱い自分を肯定してくれるような「叫び」、決して戻ることのできない過去と決別する「潮騒」。その想いの強さに比例するように、アルバムにはエモーショナルな楽曲も多い。"アルバムを聴いてもらえるとわかるけど、今回は疲れる曲が多くて......。おっさんたちの醜態を曝していくんですけど、それもロックンロールだと思って見てもらえるとありがたいです(笑)"と、柿澤。"ロック・バンドはよく「歓声が足りない!」とか言うけど、俺らの場合は休憩が足りない(笑)"なんて町田も冗談を言っていたけれど、秀吉がそんなにやわなバンドじゃないことは会場の誰もが知っている。

レゲエを取り入れた黒いグルーヴでフロアを踊らせた「ヌル」では、町田のファンキーなベースが強い存在感を放っていた。そしてテクテクと歩くようなテンポでゆったりと聴かせた「歩こう」。たとえ目的地すら見えない歩みでも、決して前に進むことを止めなければ、いずれ答えになる。そんな優しいエールの送り方が秀吉にはよく似合う。"背中を押すとか無責任な歌は歌いたくない、この先も一緒に歩いていけるような歌を作りたい"と、秀吉が言って繰り出したヒップホップ調のナンバー「明けない夜」では、お客さんが自由に身体を揺らしながら音楽に身を委ねていた。

中盤で"今あなたが見ている夢は叶いません"と、ショッキングに語り掛けたのは「かなわないゆめ」。他人に"叶わない"と言われて諦めてしまう程度の夢なんて叶わないのだと、夢への真剣さを問う鋭いロック・ナンバーがザクザクとオーディエンスの心に切り込んできた。「はなればなれのそのあとで」では、新代田FEVERに集まったお客さんが一体となる"ラララ"のシンガロングを巻き起こして、ライヴはクライマックスへと向かっていく。

神保が刻む8ビートに町田がアグレッシヴなベースを乗せ、柿澤のギター・リフが歌うようにメロディを奏でた、ひと際強いエネルギーを放ったのが「ロックンロール」。全力で今を謳歌するためのミディアム・バラード「道草の唄」で涙を誘い、タムが打ち鳴らす大きなリズムが生命力を感じさせた「メリーゴーランド」を経て、ドラマチックなラスト・ソング「明日はない」へと繋がっていった。この曲では"明日やればいいやって、捨ててきたことがたくさんありました。そのたびに後悔しました。だからもうそんな無駄なことはしたくない。ここには明日なんてあるわけがなくて、あるのは今この瞬間だけなんで"と、語り掛けた柿澤。私たちが生きているのは過去や未来ではなく、今であるということ。アルバム『ロックンロール』で、秀吉が最も伝えかった想いをしっかりと受け止めるように、お客さんは小さく頷きながらじっとステージを見つめていた。

フロアからの鳴りやまないアンコールに応えて、再びステージに現れたメンバー。"この空間に僕とあなたがいて、その瞬間を本気で楽しむことをずっとやっていきたい"。柿澤がライヴ・バンドとしてのブレない姿勢を改めて伝えると、「花よ」を語り掛けるように届けた。"まっすぐなあなたはいつも/がんばりすぎて迷ってしまう"。その歌い出しは、どんなときも聴き手の人生に寄り添う秀吉らしい優しいメロディだった。今年でバンド結成12年。メンバーは"小学6年生だ"と言っていたが、年月を重ねるほどに秀吉はかっこいいロック・バンドになっていく。決して偉ぶらず、かっこつけず、謙虚なまま。私たちと一緒に迷いながら、どう生きるかを導いてくれる。その姿がとてもかっこいいのだ。

  • 1