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LIVE REPORT

Japanese

灰色ロジック

Skream! マガジン 2022年01月号掲載

2021.12.17 @下北沢SHELTER

Writer 稲垣 遥 Photo by 稲垣ルリコ

灰色ロジックが1stフル・アルバム『see the sea』を引っ提げ、10月から回ってきたリリース・ツアーのファイナルが下北沢SHELTERで開催された。灰色ロジックの結成は2013年。地元茨城はつくばを拠点にライヴを重ねてきた彼らだが、ワンマン・ライヴはこの日が初めて。今やネットやSNSで知名度を上げるアーティストも多いなか、彼らが泥臭く、ここまでライヴでがっちりとファンとの絆を紡いできたことがしっかりと見えた、待望の一夜だった。

"灰色ロジックです。よろしく、いい夜にしよう"。半田修土(Vo/Gt)がひと言挨拶すると、『see the sea』のオープニング・チューン「predawn」からライヴはスタート。半田と深谷雅博(Dr)、そしてサポート・ベーシストの3人が、ノイズ交じりのミドル・バラードで、まさに"夜明け"のように会場をじわじわと取り込んでいく。半田の歌声は、ハスキーでありながら、言葉を不思議とくっきり届けるのが魅力だ。そこから8ビートの「Hemingway」でテンポを上げていくと、続く「yellowtail」ではイントロからフロアが揺れる。最新アルバム『see the sea』は、サブスク配信はされておらず、CDのみでのリリースだった。でありながらにして、収録曲が十分にリスナーに浸透していることを実感させたひと幕だ。

"迎えにゆくと決めたのに"というフレーズが印象的なノスタルジックな1曲「8月1日」は、葛藤を歌った曲にもかかわらず、拳がフロアの方々でパワフルに上がるのが興味深かった。彼らの楽曲は力強いメッセージを直接的に放つものではない。だが、生活に根ざした情景描写や、端的には言い表せないぐちゃっとした心の中を、飾らずに、包み隠さず曝け出す言葉の節々は、同じ気持ちを抱えた者たちの中にある熱いものを解き放つのだ。

3人のバンド・サウンドで勝負する曲が多い中、「eve」では幻想的にループするSEや、打ち込みっぽいベース&ドラムの音色の上に、空間を感じさせるギターの音色を響かせ、自分と遠いところで無機質に回り続けるように思える"世界"への想いを表現。そこから続けた「海よりもまだ深く」は弾き語りで始め、徐々に重なる3つの楽器のシンプルな音色で、まっすぐに優しい歌を届ける。そして、半田の歌とギター・ソロが高らかに突き抜けた「モーニング」は、様々な表情を見せた中盤のハイライトだろう。そもそも彼らは昨今の3ピース編成にしては、比較的ギター・ソロが多いバンドだと思うが、そのソロは曲に盛り上がりをつけるだけではなく、歌と同じくらいに感情が乗せられているように感じられる。ひとつひとつの音が聴き手の胸に意志をもって訴え掛けてくるような、まさに泣きのギターも含め、清々しさと温もりと寂しさが同居するこの曲は灰色ロジックの真骨頂だと実感させたのだった。

10曲続けて演奏したあと、"ワンマンめちゃくちゃ楽しいっすね"と口を開いた半田。渾身のアルバムは、数字としてはぎりぎりチャートインしたくらいだったが、それでも半田は"いい曲いっぱい作るだけだな"と改めて感じたと語る。また、この日のライヴについても、"まっとうにいい歌といい演奏して帰りてーな"と今の気持ちを伝え、「生活の空」を披露した。ロマンチックで切ないコードに乗せて、自分を見失いそうな瞬間を繊細な筆致で描くこの曲も秀逸だった。誰もが記憶しながら心の隙間にしまっているような想いや景色をキャッチして、聴き手の脳内にありありとそれを映し出させる。"僕でいさせてくれる人 ずっとそこにいてよ"という切実な詞は、半田がこの日までついてきてくれたオーディエンスに向けて歌ったようにも思えた。

昨年末に、現在所属するレーベル、Paddy fieldから本格的に一緒にやらないかと声を掛けられてから、制作途中で行き詰まっていた「see the sea」という曲ができて、自信作と言えるアルバムをリリースし、人に突き動かされた1年だったと振り返る半田。"終わりたくないな。......終わってもいいんだけど。終わりに向かってるって最高じゃん?"と、楽曲にもたびたび"終わり"を意識させるフレーズを入れる彼らしい発言に、メンバーもフロアも微笑みながら頷く。そして、最後にアルバム表題曲「see the sea」と「sea」を投下した。こちらは海の雄大さを彷彿させる音作りで、深さを表現するようなリバーブのかかったギター、寄せては返す波の如き、ゆっくりとしていて、大きくダイナミックな深谷のドラム、水面に反射する日差しさながらのきらきらとしたミラーボールの光......派手な演出はなくとも、トータルで曲の世界観にしっとりと浸らせる。"いつか終わる旅を 君と二人歩いてく/それがいい"――声をからしながら歌いあげた半田に大きな拍手が贈られた。

アンコールでは、"こういう景色を見て作った曲"と「はなさない」を投下。仲間を、音楽を大事に思う気持ちに溢れたナンバーでまたフロアの熱を高めると、さらにクラップが鳴りやまない事態に。それを受けダメ押しで再度登場し、ピュアな自分に思いを巡らせる人気曲「僕のこと」でライヴハウスを包み込み、記念すべき夜を締めくくったのだった。
また、アンコールでは、ツアー延長線"see the sea tour 2022"が1月16日、TSUKUBA PARKDINERからスタートすることが発表された。今までで一番いいアルバムができたと豪語する彼らが、"もっとアルバムを聴いてほしい"という想いから行われる本ツアー。美しさとリアルな人間らしさが絶妙に同居する灰色ロジックの曲たちは、2022年、より多くの人たちの心に染み渡っていくはずだ。


[Setlist]
1. predawn
2. ビューティフルスランバー
3. Hemingway
4. yellowtail
5. 知らない街
6. ピース
7. 8月1日
8. eve
9. 海よりもまだ深く
10. モーニング
11. ジュース
12. 海岸線
13. ナイトトレイン
14. 愛せ
15. 生活の空
16. 夜明けと雨
17. 未明
18. see the sea
19. sea
En. はなさない
W En. 僕のこと

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