Japanese
カミナリグモ
2015.02.19 @渋谷7th FLOOR
Writer 蜂須賀 ちなみ
会場限定EP『ゴー・トゥ・ザ・フューチャー』(3月11日リリースの『続きのブランクペーパー』のプロローグ盤)の販売開始を記念して行われたワンマン・ライヴ。観覧車や帆船のオブジェ、ランプ、白い窓枠......オシャレなインテリアが並ぶステージ上を見つつ、ドリンク片手に座席に座りながら開演を待つ人々。客席に入るとそこには穏やかな時間が流れていた。BGMとして流れていた映画"Back to the Future"の曲が止まって消灯。上野啓示(Gt/Vo)、ghoma(Key)が登場する。ふたりとも1月に公開されたアーティスト写真と同じ格好だ。1曲目は「あの虹」。始まりを告げるエレキ・ギターのカッティングが優しい。そこにキーボード、ドラムの同期音が重なって、やわらかい歌声で上野が唄うのは旅の始まりの昂揚感。多種多様な音色を繰り出すキーボードはまるで"音のおもちゃ箱"だ。"久しぶりだね。2015年、いい感じ?"と客席に笑いかける上野。"体調も万全なので元気に楽しいライヴにしていきます。新曲多めだけどリアクションを大きめにしてもらえるとやりやすいです(笑)"と言いながら新曲「Lightning Girl」へ......と思いきやふたりのタイミングが上手く合わない。"ツアーでは1発目にやるからそれまでに仕上げよう"なんてステージ上でネタバレしてしまう上野に、客席から笑いが起こった。
観客の顔を見て頷きながら唄う上野に、体をねじらせながら演奏するghoma。活き活きと音が弾む中、体をゆらめかせたり、膝のうえを指で叩いてリズムをとったりなど、思い思いに楽しむ観客たち。ソファ席ではカップルが肩を寄せ合っていて、何だか自宅兼アトリエに遊びに来たような空気感だ。「ローカル線」、「TOY BOX STORY」などの旧譜曲を終えたあとのMCでは、新曲「ゴー・トゥ・ザ・フューチャー」についての話題に。"タイムマシンがないから自分で未来を変えに行こう"という曲のテーマに関連して、"もしもタイムマシンがあったら何がしたい?"という話題に。(ghomaは"大学時代に戻る"、上野は"歌詞間違いしたライヴまで戻ってそのときの自分のためにカンペを出す"。)"ここからアップテンポの曲が続くから"と観客へスタンディングを促し、「ゴー・トゥ・ザ・フューチャー」を披露。ソフトなタッチのギターとサイケ色のあるキーボードとの音色の対比が楽しいこの曲では自然と手拍子が発生し、"リズム感がいいであろうカミナリグモファンのみなさまに難しいハンドクラップをお願いしたいと思います"と上野が言っていた「ミスター・トランポリンマン」でも会場一体となった手拍子がバッチリとキマった。そしてghomaがグランド・ピアノに移動し、上野がアコースティック・ギターに持ち替えたアコースティック・コーナーでは計4曲を演奏。ひと口にアコースティックといっても、ブルージーにスウィングする「フラッシュバック」、上野のその声こそが穏やかな風のようだった「春のうた」、3拍子でなめらかな円を描く「鳩とシャボン玉」......といった具合に、曲ごとに全然違う色をしているからすごい。彼らが鳴らす音楽はふたりぼっちの部屋を軽々と飛び出し、私たちをカラフルな世界へ連れ出してくれる。
アコースティック・アルバムのリリースやフタリグモでのライヴも今まで行ってきたが、今年からメンバー二人体制への本格移行を宣言しているカミナリグモ。上野曰く"デビューしたときのような気持ちに立ち返って、ここからまた始めよう、拡げて行こう、という気持ち"(カミナリグモの公式Facebookより引用)だというが、再出発の意味が込められつつ、肩肘張らずにナチュラルな状態のふたりがそこにいたのがとてもよかった。"カミナリグモとして活動して今年で13年目、ghomaちゃんがメンバーになって8年目です。続けているといろいろなことがあります。いいことも悪いこともある中で、こうしてリリースの機会をもらうことができたのは音楽の旅を続けてきたからだと思っています。新しい物語にみなさんが参加して関わってくれることはとても嬉しいことです。この続きの物語を楽しみにしていてください"。そんな上野の言葉のあと演奏されたのは、新曲「漂流記」。"君はすぐ僕の隣/それだけで僕は迷わない"、"今ここがどこかなんて分からなくても不安じゃないんだ"(筆者聞きとり)と唄うこの曲は紛れもなく、カミナリグモとファンの間の絆を言い表した曲であり、両者がともに呼吸をする空間でこのラヴ・ソングが共有される様子はじんわりと感慨深かった。「サバイバルナイフ」、「ブランクペーパー」と新曲を連続して本編を終えたあと、アンコールではアコースティック編成で「ゴー・トゥ・ザ・フューチャー」をリプレイしてライヴは終了。いつだって聴き手に寄り添う音楽を奏でているふたりにふさわしく、みんなで船出を祝う小さなパーティーのようなライヴだった。
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