Overseas
WILD NOTHING
Skream! マガジン 2013年05月号掲載
2013.03.15 @原宿アストロホール
Writer 石角 友香
WILD NOTHINGの音楽性はトレンドとしてのドリーム・ポップに括れない、Jack Tatumの個人的音楽史がブレない軸を通していると思う。それはよく言われることだが、THE SMITHや80年代後半のクリエイション、4ADといった光と影を感じるサウンド、そうしたポップ・ミュージックを単なるエレメントとしてではなく、普遍的な今のポップ・ミュージックに昇華している点にある。
この日はオープニング・アクトがTHE NOVEMBERS。そうした音楽がDNAレベルに侵入している異なるバンドの邂逅に接することができたことにも感謝したい。“はじめまして、THE NOVEMBERSです”と小林祐介(Vo/Gt)が恐らく大半が初見のWILD NOTHINGのファンに向け、ニュートラルな挨拶をし、開かれた印象の昨年のアルバム『GIFT』から「Harem」「Reunion with Marr」と、WNファンにもすんなり受け入れられそうな2曲を続ける。2曲目なんてタイトルも示唆するように、まさにTHE NOVEMBERS流のTHE SMITHの今日的解釈である。そのまま清冽にしてイノセントな楽曲が続くかと思いきや、テリブルでホラーな趣きすらある空間的なギターが響きわたり、その後は「永遠の複製」、5月リリースの新作『Fourth wall』収録曲と思しき、小林のスクリームがヒリヒリした緊張感の圧を高める新曲、そして冷たく耽美的ですらある「彼岸に散る青」と、わずか5曲のセットリストに彼らのあらゆる体験的なギター・ロックを凝縮してみせた。
高揚を内に秘めた面持ちで、しかしながらじわじわ前方に集まるオーディエンスが待望する中、ついに初めて我々の前に登場してくれたWILD NOTHINGは意外とカジュアルな佇まいでまるでカレッジ・バンドのよう。このあたり、ネット上で曲単位で評価や話題が拡散する今という時代背景を感じてしまう。4リズムにシンセのというオーソドックスな編成。最初に流れ込んできた1曲目は全世界で絶賛された2ndアルバム『Nocturne』同様、透明な儚さと憂いを湛えた「Shadow」。が、音源に比べるとよくうたうベース・ラインや、輝度の高いギターのフレージングが躍動しているのが分かる。“Hazeっていう曲をやるよ”とJackが告げると大きな歓声が。そう。80'sのネオ・サイケ感すらある「Golden Haze」のギター・オリエンテッドでしかも夢見るような曲の世界観はライヴで再現以上の広がりを見せた。続く「Only Heather」は、孤独感なのか違和感なのか、恐らく両方なのだろう。あの剣が身体を貫いたまま街を放蕩するミュージック・ビデオを思い出しつつこうしてライヴを見ると、ずいぶん印象が違い、ハウシーなムードを醸すシンセも相まって、意外とフィジカルに訴求してくる。意外と言えばアルバムのタイトル・チューンでのJackのヴォーカルがなかなかエモーショナルで音源とまた違うニュアンスで、男子ファンの歓声を誘っていたのも印象的。澄んだトーンのギター・アンサンブルと時にはベタなぐらい80's感たっぷりな手弾きシンセが特徴的な楽曲が続くが、どの曲もとにかくメロディが美しい。
最初は余りにも淡々とケレン味のケの字もない演奏に若干、単調な印象も持ったのだが、ステージが進行するに連れそんなことは忘れていた。が、ファンクネスすら感じる「Paradise」でこのバンドのタフネスに驚き、平熱感を保ち、囁きにも近いごくパーソナルなヴォーカルをライヴでも実現するJackの曲に対する真摯さが伝わった「Rheya」、そして本編ラストの「The Blue Dress」。やはりJack Tatumという今年まだ24歳の青年が80'sポップから受けた影響は絶対、表層的なものではないと確信した。もちろん時代は10年代。商業主義を拒み、純粋であろうとするゆえに厭世的でもあった当時のインディー・ポップのような頑なさは感じない。それでもやはり、WILD NOTHINGの音楽は心のどこかに柔らかで誰にも触れさせたくない何かを持つ人間をどうやら時空を超えて繋いでしまったようなのだ。意外と層の厚いオーディエンスにもそれは見てとれた。THE GO-BETWEENSのカバーなんてある程度の年齢のリスナーしか分からないレパートリーもアンコールに盛り込んでくれたことだし……。1曲ごとに温かなリアクションを送るファンに対し、シャイというか器用とは言いがたいJackはひたすら“サンキュー”“アリガトウ、I Love Tokyo!”と控えめに感謝を表していたが、最後にはメンバー全員がひとりずつ“アリガトウ”をオンマイクで伝えた様子が実に素朴で、清々しかった。5月にはミニ・アルバム『Empty Estate』のリリースも控えているので、次回はさらにメニューも多彩になるんじゃないだろうか?って、気が早すぎるか。
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