Overseas
FOUNTAINS OF WAYNE
2012.03.30 @恵比寿LIQUIDROOM
Writer 山口 智男
会場に一歩足を踏み入れ、ふと立ち止まってしまった。
むむ。お客さんの数が思っていたより少ないぞ。なんだか、客席フロアーが閑散としている。確かにLIQUIDROOM 2デイズとは言え、FOUNTAINS OF WAYNE(以下FOW)の日本における人気ってこんなものだったっけ?! そうこうしているうちにサポート・アクトのMike Violaの演奏がスタート。エレキ・ギター/キーボードの弾き語りながら楽しいステージを披露。その後、徐々にお客さんの数は増え、結局のところ、FOWのライヴが始まる頃には会場はいっぱいになり、なぜかホッと一安心。
つまりはMike Violaのステージはスキップした人が多かったということなんだろうか? しかし、いや、よけいなお世話ではあるけれど“FOWだけを観られればいいや”と考え、遅れてきた人はMikeとFOWのAdam Schlesinger(Ba)が一緒に演奏した「That Thing You Do!」(※Adamが曲を書きMikeが歌った、映画『すべてをあなたに』の主題歌)を観られず惜しいことをしたと思う。
それにしてもである。FOWのファンならFOWとMikeの盟友とも言える関係については熟知しているはずだから、Mikeのステージをスキップするなんてことはせず、併せて楽しむと思うんだけれど、そうしなかった人が思いの外、多かったということはそれだけFOWに新しいファンが増えたということなのかしら。それはそれでいいこともかしれない。もっとも時間の都合でサポート・アクトは止むを得ずあきらめたという人もいるかもしれないから、一概にはそうとも言えないけれど……なんて、ロートル(死語)の呟きはどうでもいいですね。
パワー・ポップ職人、Adam Schlesingerを擁するFOWは96年結成のニュー・ヨークの4人組。いわゆる90年代の新世代パワー・ポップを代表するバンドの一つである。Adamと大学時代の友人、Chris Collingwood(Vo, Gt)が結成。96年、セルフ・タイトルのアルバムでデビュー。99年発表の2ndアルバム『Utopia Parkway』で日本における人気を決定づけた。
東京公演の第1日目となるこの日は、いきなりアップ・テンポの「Little Red Light」とダンサブルなビートを忍ばせた「Someone To Love」をたたみかけ、彼らの来日を心待ちにしていたファンの気持ちをガチッと掴むと、早くも代表曲中の代表曲「Denise」「Mexican Wine」、バンドを歓迎したお客さんにプレゼント。「Denise」では手拍子が自然に起き、美しいハーモニーを聴かせた哀愁の「Mexican Wine」では、そのホロリとした曲調に誰もがため息をついていたはず。
最新アルバム『Sky Full of Holes』からの「The Summer Place」「Richie And Ruben」に加え、これまた人気の高いネオアコ・カントリー・ナンバー「Troubled Times」を演奏した中盤では、Chrisがエレキをアコースティック・ギターに持ち替え、『Sky Full of Holes』で印象づけたフォーク&カントリーの影響がFOWの持ち味の一つであることを改めてアピールした。フォークだとかカントリーだとかはさておき、そういう和み系のレパートリーを多めに持っていることも日本におけるFOWの人気の理由。「Hey Julie」ではお客さん3人をステージに上げ、マラカスを振らせるというFOWには珍しい(?)演出も飛び出した。
Chrisが再びエレキに持ち替えた終盤は、キラキラしたギターの音色がTHE BYRDSを連想させる「A Dip In The Ocean」「Leave The Biker」「Bought For A Song」とロック色濃いナンバーをたたみかけ、ラストに向かって一気に加速。「Bought For A Song」ではギタリストのJody Porterがギターを弾きながらAdamの足下にスライディングするという熱演を見せた。ロンゲのいかにもロックンロール然としたJodyのちょっとナルシシストぶりもFOWのライヴの見どころの一つと思うのは僕だけか。
本編ラストの「Radiation Vibe」ではハード・ロッキンな演奏とともに途中の長いインプロが気づけば、PAUL McCARTNEY & WINGSの「Jet」に変わっているという遊び心でも楽しませた。アンコールは3曲。最後の2曲「Stacy’s Mom」と「Sink To The Storm」にお客さんが合唱で応えたとき、会場全体が幸福感に包まれていることに気づいた。
この日、久しぶりにFOWのライヴを観て、感じたのは、彼らは日本のファンから本当に愛されているんだなということだった。
決してセンセーショナルな存在ではないし、誰もが知っているような大ヒット曲を持っているわけでもない。しかし、FOWはマスコミを賑わせるような話題に頼らず、自分たちの音楽を通してファンとの関係を築いてきた。それがいかに強いものであるかを実感。ライヴ終演後、“あー、久しぶり”“久しぶり。元気だった?”と言い合っているグループがいた。FOWが結んで友人関係。なんだか微笑ましいその様子がFOWの音楽の魅力を物語っているような気がしたのだった。
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