Overseas
YUCK
2011.09.15 @渋谷Duo Music Exchange
Writer 沖 さやこ
YUCK待望の初来日ライヴは、ほぼ定刻通りに暗転。紫のぼんやりとした光に照らされた舞台にメンバーが1人ずつ登場。ヴォーカル&ギターのDanielはステージ下手側、ベースのMarikoがセンターで、ギターのMaxは上手側にスタンバイ。この配置、完全に90年代のオルタナ・バンドの基本スタイルだ。
1曲目「Holing out」。Danielはひょろっとした体型を前に倒し(というか極度の猫背?)、か細い少年のような声で歌い、淡々とギターを鳴らす。ヘア・スタイルと同様に、ふんわりとした佇まいだ。そんな彼とは相反するように、Marikoのベースはクールかつなめらかに会場を舞い、Jonnyのドラムはパワフルな安定感を生む。Maxのギターはけだるくノイジーに響き、4人は一気に会場を90年代のアメリカに染め上げてしまった。間髪入れず「The Wall」へ流れ込み心地良いノイズの浮遊感にうっとりしていると、「Shock Down」ではクリアな音に様変わり。Danielの歌を包むように音が柔らかく染み込んでゆく。
静かに音が滲み、ロマンチックに彩られる「Suicide Policeman」。消え入りそうな声で呟くように歌うDaniel。エフェクターを巧みに操りギターの音色を千変万化させるMaxは、パフォーマーと言うよりギターおたくと言った方が良いかもしれない。ひたすら4人は音に没頭し続ける。それは非常にプライベートで、自然体の彼らのようにも思えた。DanielとMaxが以前組んでいたCAJUN DANCE PARTYというバンドはどことなく不健康で、人を寄せ付けない危うい雰囲気があった。だが、健全で晴れやかに鳴り響くYUCKの音は“幸せだ”と叫んでいるような気がしてならなかった。
“カバーをやろうかな……”とMaxが言い披露されたのは、日本盤のボーナス・トラックに収録されているはっぴぃえんどの「夏なんです」。Marikoがヴォーカルを務めている。太陽がじりじり照り付け、汗ばんだ肌すらも美しく爽やかに彩るようなサウンドだ。「Suck」も同様、彼らは物事をスロー・モーションで見せるように、丁寧に音を重ねてゆく。音のひとつひとつに彼らの細やかな愛情が通っているのだ。
ラストは「Rubber」。高く高くどこまでも昇っていくような、強く淡く美しいノイズの洪水。終盤ではJonnyとMarikoの姿は消え、DanielとMaxのフィードバック・ノイズがせめぎ合う。その音は緊張感だけではなく、歓喜の感情に溢れていた。ふたりのギターはこのバンドのシンボルと言っても良いだろう。轟音だけが残されたステージに、観衆からのあたたかい拍手が重なった。1時間強という短めのライヴだったが、淡く芯の強い不思議な空間に、胸ときめいた一夜だった。
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