
Japanese
GRAPEVINE
Skream! マガジン 2011年05月号掲載

2011.04.23 @新木場STUDIO COAST
Writer 道明 利友
「他のライヴを観ても感じますからね。自分らのライヴ、全然雰囲気違うなって(笑)」
終演後に会った田中和将は、さっきまでの白熱のステージの余韻をまといつつそんなことを言っていた。というのも、ライヴ中の田中のこんなMCが個人的にすごく興味深くて、それについて話を聞いてみたところ返ってきたのが、その言葉だったというわけである。
「アルバムを聴いていただけると分かるとおり、もはや、盛り上がるとか盛り上がらないとかそういう感じでやってませんので(会場笑)。もちろん“盛り上がるな!”と言ってるわけではないので、僕らが良い演奏をしてたら“ウワアァーッ!”ってやって下さいね」
最近のライヴ会場でよく目にするものといえば、例えば“盛り上がっていこうぜ!”的なMCやコール&レスポンス、さらにはダイヴが連発されたり……。という風景は当たり前のものになっているが、現在の彼らのライヴの雰囲気はそんな感じとは明らかに違っていた。それはもちろん、良い意味で!
この日のセット・リストの中心は、新作『真昼のストレンジランド』収録の新曲群。艶やかなキーボードとともに一体のグルーヴを作り、そこへ田中の歌声が叙情的なメロディを重ねる「This Town」。「ミランダ(Miranda warning)」は、アコースティック・ギターとスライド・ギターがフォーキーな音色を奏でたかと思えば、濃い色彩の照明の中で低音のメロディが響きTHE DOORSのような濃厚な空気を演出する。「Dry November」では闇に包まれるステージでアコースティック・ギターとアップライト・ベースが絡み合い、「風の歌」の叙情的なメロディはたまらなく胸に染みる、etc……。ディープなムードでライヴ会場を満たす聴き応え重厚なナンバーや、情緒が心の琴線に触れる味わい深いナンバーが、この日のライヴでは輝きを放った。
「今日は、色んな映像が見えるような、一人ひとり違う思いが膨らむようなライヴになればいいなと思っておりますので――」
田中はMCでそんな言葉も言っていた。音一つひとつを、そして、言葉一つひとつを聴き手の中に深く染み渡らせるかのように贈ったこの日のライヴ。その曲たちをファンは、ひとつたりとも聴き逃したくないといった雰囲気でステージを見つめ、かみ締めていた。GRAPEVINEの楽曲に登場する主人公の感情、そこで描かれる風景、リスナーの中にある心情や思い出……その両者がリンクして一体感で包まれたこの日の新木場スタジオコーストは、直情的な盛り上がりとは一味違うライヴの醍醐味があった。大勢の仲間とワーッとテンション高く盛り上がるライヴは、もちろん楽しい。と同時に、自分だけの空間でじっくり味わって心をふるわせ、感動できる音楽も素晴らしい。今回のツアーでは、その後者、アーティストとリスナーが音楽を通して繋がる強い絆が間違いなくあった。
そして、最後に追記を……。彼らのライヴにはもちろん、田中いわく“ウワアァーッ!”と盛り上がる曲もガッツリあるのもお忘れなく! ストーンズばりに豪快なギター・リフがクールな「R&Rニアラズ」などは、“これで盛り上がらなかったら何で盛り上がるの!?”と言いたくなる問答無用のアッパー・チューン。一音一音を身体の芯まで染み渡らせ、映像や風景を喚起され、かと思えば全身にガツーンと巨大なパワーの塊を音で叩きつけられる。そんな芸当は、そんじょそこらの若者連中じゃ出来るわけが無い。バンド結成から、今年で18年――。円熟味を年々増していきながら衝動的な感覚も失っていないGRAPEVINE、やっぱり凄いバンドだ。
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