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LIVE REPORT

Overseas

THE GOSSIP

2010.02.08 @恵比寿LIQUIDROOM

Writer 佐々木 健治

1月に国内盤が発売されたTHE GOSSIPのメジャー・デビュー・アルバム『Music For Men』は、2009年の個人的ベスト・アルバムの一つ。巨漢ディーヴァBethの歌とリズムに拘り、徹底的に無駄な音を削ぎ落としたソリッドなアルバムは、正真正銘のソウル・ミュージックだった。一見クールそうに見えて、その向こうに煮えたぎるような熱さを秘めたこのアルバムが国内盤を機に多くの人に届くことを心から願っている。そして、この日のライヴを見てさらにその思いは強まった。
はっきり言って、一大キャンペーンを張りたいくらいだ。

バンドが先に登場し、「Dimestore Diamond」を演奏し始めると、Bethの歌声が響きだす。そして、彼女が歌いながら登場すると会場は大歓声。こういうところから既に、掴み方を心得ている。
あの巨体で、レズビアンであることを公言する彼女。小さなパブ・レストランで演奏を始めたこのバンドは、どうやったら人に自分を認知してもらえるのか、どうやったら自分を認めてもらえるのかということと常に闘ってきたのだと思う。
彼女の道化になることで自分を保っているようなエンターテイメントには、ここで自分を認めさせないと、ここで自分達のショウを楽しんでもらえないと、もうここでショウをできなくなるかもしれない。もっと言えば、存在そのものが否定されてしまう。そんな緊張感が漲っていた。恐らく経験の上で染み付いているのだろう。
2曲目にバウンシーなビートの「Pop Goes The World」(途中で歌詞が飛んでいたけど。)をやった後には、「A Whole You World」をアカペラで歌ってみせる。その遊び心がなんとも言えず、素晴らしい。

特に、最初は少し音も小さく感じたし、Bethも声が出きっていなかったので、それでも観客を離さないそのエンターテイメントになおさら感服する。
ただ、音量に関しては、このアルバムの路線を考えれば、ちょうど良かったのだろう。荒々しいガレージ・ロックではなく、洗練されたグルーヴに向かった新作の歌とバンド・アンサンブルにとって、爆音のカタルシスは逆に邪魔になりかねないからだ。
例えばディスコティックなキーボードが印象的な「Love Long Distance」のようにクールで抑制された楽曲の中で、Bethのシャウトがピークに達する瞬間は、Bethの生々しく、業の深い精神までも突きつけられているような緊張感がある。まさに魂の解放=ソウル・ミュージックの根幹と言ってもいい。

『Music For Men』はある意味、メジャー・フィールドに立つ為の変化とも言えるが、むしろBethという女性の業はより強く滲み出ているように思う。『Music For Men』の楽曲でほぼ構成されたこの日のライヴはまさにそういうものだった。シンプルだからこそ、剥き出しの彼女の本質が感じられるのだ。
そして、そういう楽曲の合間合間に、ゲップもすれば、フロアに喋りかける。「Men In Love」の前には「ゲイって日本語で何て言うの?」と観客に教わり「オカマー!!!」と絶叫してみせる。「かんぱーい!」と音頭をとり、またもやその場で覚えた日本語で「いっしょにー」とコール&レスポンスを促す。LADY GAGAのフレーズまで曲にちゃっかり忍ばせる。
そんな彼女のエンターテイメントは、“One More Song?(もう一曲歌ってもいい?)”と言った直後に、DAFT PUNK「One More Time」を「One More Song」ともじってアカペラで歌いだしたところで頂点を向かえた。あの声で、「One More Time」を歌うのだから、そんなの最高に決まっている。会場もすぐさまコール&レスポンスで応える。
この時点でフロアの興奮は沸点に達し「Heavy Cross」のイントロへとなだれ込んだ瞬間、全身に鳥肌が立った。
はっきり言ってこの日のライヴは、この瞬間の為にあった。お互いがこういうことか、こういう人なのかと理解し、共有しながら、徐々にその場所を作り上げていく物語のようなライヴ。そのクライマックスとなる瞬間は、もちろんほんの数分でしかないのだが、そこに到達して、ああ、こういうことかと感じた時の快感は何ものにも代えがたい。

アンコールでは、こういうライヴをやった後だし、やらないかもと思っていた「Standing In The Way Of Control」を披露し、会場はこの日一番の盛り上がりを見せたが、それは正直おまけでしかない。Bethにはもしかしたらおまけであって欲しいという思いがあるのではないだろうか。この日のライヴはある意味もう終っていて、その夜を締めくくる為のプレゼントのような一曲。途中からNIRVANAの「Smells Like Teen Spirit」に変わったことが、それを示しているように思う。
とは言っても、この演奏がまた抜群にかっこよかったし、素晴らしいおまけだったことは間違いないのだけど。最後までエンターテイメントを貫く、本当の意味でのアンコールだったと思う。
急遽、大阪公演がスケジュール変更の為にキャンセルになってしまったことは残念だが、この日のライヴはとにかく素晴らしいショウだった。

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