INTERVIEW
Overseas
CLAP YOUR HANDS SAY YEAH
2012年02月号掲載
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-日本に着いたのは?
Alec Ounsworth(Vo&Gt):え~っと、昨日だよ。だからちょっと時差ボケが酷いかな?……でも大丈夫。もう4回も来てるからね。このちょっとした疲労感も、また素晴らしい日本に来れたんだからなんてことないよ(笑)。メンバー全員この国が大好きだから。
-良かった(笑)。では、4年の沈黙を破り素晴らしいアルバム『Hysterical』を届けてくれたことを嬉しく思います。今現在アルバム制作を振り返りどのような思いが浮かぶか、聞かせてください。
興味深かった、というのはちょっと変に聞こえるかな? 今振り返るとそんな思いが浮かぶんだよね。いつもは僕ひとりで引きこもって曲作りをしていくんだけど、今回はメンバー全員で作っていくプロセスを行なったんだ。だから時間も掛かってしまって、意見をまとめたりするのに大変な場面があったことは確かだけど、とても価値ある時間だったよ。新たな発見の連続でもあったからね。
-サウンドはダイナミックで生々しく、それでいてポジティヴなフィーリングに満ちたバンド・アンサンブルの楽しさが伝わってくるアルバムとなっていますが、この要因はなんだったのでしょうか?
ああ、ポジティヴなフィーリング、そう感じてもらえると嬉しいな。要因としては4年という間にそれぞれ思うままにあらゆる活動ができたからじゃないかなぁ。僕はソロ活動をしたし、他のメンバーも自由にプロジェクトを進めていたし。何もしないで休んでいた時間もあったからそれも良かったと思うね。そうした時間でリフレッシュして、再び全員集まったんだ。新たにバンドを見つめ直して、お互いの人間関係も見つめ直して新作に取り組むことができたよ。極端なことを言ってしまうとバンドとして必要な妥協さえもうまく受け入れることができるようになったんだ。そう考える休止期間はとても意義ある時間だった。絆がより深まったんだからね。
-なるほど。そもそもCLAP YOUR HANDS SAY YEAH(以下CYHSY)の活動を休止し、それぞれの時間を必要としたきっかけは何だったんですか?
単純な理由だけど、バンド以外の人と音楽を作ってみたくなったというのはあるね。ひとつのスタイルに囚われたくなかったし、新たな可能性を模索したい欲求からこの流れになったんだ。CYHSYというひとつのバンドだけど、メンバーそれぞれ音楽嗜好は違うわけだし、そこを刺激する時間は大切だと思うし個人の成長にも繋がるよね。この時間にメンバーが誰も発言してないのに解散の噂が出てしまったのは予想外だったけど(笑)、新作の出来には満足しているし、結果的に有意義な時間を持てたことは間違いではなかったと思うよ。
-ではタイトルついて伺いますが、『Hysterical(狂乱状態)』とは何を表わしているのでしょうか?
このアルバムのコンセプトと言えるものなんだけど、人間って時々取り返しのつかないことに流されてしまって、自分の居場所を見失ってしまう瞬間がある。そういう人たちを僕は見てきて、その1歩寸前でステップ・バックするような、冷静でなくてはいけないんだという意味が込められているんだ。その助言というか、ステップ・バックを促がす楽曲集とも呼べるかな?
-繊細なメロディで奏でられる「Misspent Youth」は、詩世界が感動的でとても美しいものですね。これはどのようなイメージで作られていったか、エピソードを聞かせてください。
実はこれ僕の知り合いの女性から影響を受けて作った楽曲なんだけど、彼女はいまだに過去の過ちを引きずっている状態なんだ。この曲は過去を受け入れて今の自分を前向きに生きれるかどうか、という問い掛けなんだ。彼女はものすごく葛藤を抱えながら生きているけど、僕は過去を清算し受け入れることは可能だと信じているよ。歌詞の一節、“オフィーリア(戯曲『ハムレット』の登場人物)は溺れはしない”とはまさにそういうこと。さっきの繰り返しになっちゃうけど、この「Misspent Youth」だけじゃなくアルバムすべてにおいて人間の闇に落ち込んだ“Hysterical”にならないようにするにはどうしたらいいか、というのが一貫しているんだ。その表現はさまざまだけど、直接的なメッセージではなくヒントのように詩的な言葉の数々で伝えるのが僕は好きなんだ。あまりにも直接的だと受け入れ難いような気もするしね。
-うんうん。CYHSYの歌詞、つまりAlecの詩世界は非常に抽象的で理知的なものとなっていますが、これには何か影響された作家や詩人などいるのでしょうか?
う~ん、作家や詩人よりやっぱり過去の偉大なミュージシャンからの影響かな? Robert WyattとかBob DylanとかRoger Watersとか……ちょっと待って、好きな作家がいたなぁ(笑)。John Berryman(第2次大戦後に活躍したアメリカの詩人)にRaymond Carver(アメリカの小説家、詩人)の短編集なんて大好きだよ。とくにJohn Berrymanの詩はイマジネーションをすごく掻き立てられたから、影響されているかもね。いま挙げたミュージシャンも作家も古い時代の人たちだから、現在活躍している人たちからはあまり影響を受けていないと言えるよね。(skream!11月号の表紙を指差し)あ、Lou Reedは素晴らしいよ(笑)。過去の時代の混迷期や黎明期に宿したパワーは現代で持ち得ることは不可能だから、そういった背景が脈打っている作品が好きなんだろうね。それと……あまり種明かしはしたくないけど、『Hysterical』にはDelmore Schwartz(アメリカの作家、批評家。若き日のLou Reedに多大な影響を与えた人物)の短編「In Dreams Begin Responsibilities」の影響は大きいということは言っておこう。
-わかりました。アルバム・クレジットでJohn Paul Jonesに感謝の意を送っていますが、これはなぜに?
ああ、そうそう(笑)。それってLED ZEPPELINのベーシストだと思うかもしれないけど、たまたま同姓同名でNYにいる個人的な友人なんだ。彼もミュージシャンなんだけど、ややこしい名前だよね(笑)。
-あのアメリカ独立戦争の英雄でもなく?
……違うよ。
-……そ、そうですか(苦笑)。え~っと、では、インディペンデントな存在でCYHSYが登場したことは、レーベルに属さなくてもネット経由でブレイクしてしまう新たな道の開拓者となりましたが、あなたが想う音楽ビジネスの未来はどのように変化していくと考えますか?
Wow、難しい質問だな。(チラリとレーベル担当者を見て)ここじゃ答え難いことでもあるけど(笑)。まず、どの国でも“CDが売れない”って嘆いているけど、それは今の時代に生きる人が音楽離れを起こしていることとは違って、むしろネット環境で容易に聴きやすくなり、昔以上に音楽と密接な関係になってると思うよ。ただ、ネットではまるでシングル単位のようにちょっとずつ聴く人が多いと思うから、僕が子供の頃NIRVANAの『Nevermind』とかNick Caveの作品に夢中なったように、ひとつのアルバムにのめり込むという行為がだんだんなくなってきているのは寂しいね。だからそのバンドの価値を1曲で判断してほしくないよ。このシーン受け入れられなくて音楽活動を辞めていく人たちも多く見てきたし。この状態が続いていくのはあきらかだけど、ネットを通してアルバムという物語を読み解いてほしい。よりそのバンドが好きになるからさ、そう願うよ。
-最後に抽象的な質問をしますが、ズバリ、あなたが想う“素晴らしい歌”とは?
素晴らしい歌とはジャンルによって異なると思うけど、僕が言えるのはロックについてかな。だから素晴らしいロックについて言うけど、それは“自分のやりたいことをやっている”ということかな。さっきも挙げたLou ReedにBob Dylan、あとTom Waitsなんかもそうだけど、周りの批判とか気にせず自分の意志を貫いているだろ? 僕もその姿勢で音楽に取り組んでいるけど、『Hysterical』にもそれが反映されていると思うよ。振り返ると、僕らは1stアルバムですごく注目されてから、なんか周りから促がされるように2ndアルバムをリリースしてたんだ。それってなんか違うだろ?って悩んだこともあり、この3枚目(『Hysterical』)まで時間が掛かったんだ。でも自分に正直に音楽に取り組み、メンバー全員で意見をぶつけた。だからこそ素晴らしいアルバムになったと自信があるしね。自分に正直に、やりたいことをやるとは簡単なようで難しいことだけど、そのほうがきっと素晴らしい歌は生まれる。これは特に若いバンドの人たちに伝えたいことだね。
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