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LIVE REPORT

Japanese

離婚伝説

Skream! マガジン 2024年10月号掲載

2024.07.30 @恵比寿LIQUIDROOM

Writer : 高梁 渚 Photographer:Kyohei Hattori / Kazuma Iwano

2024年7月30日、2人組バンド 離婚伝説が7月12日から開催していた初のワンマン・ツアー"1st ONEMAN TOUR「渚のランデブー」"の追加公演として東京は恵比寿LIQUIDROOMにて大千秋楽公演を開催した。

開演10分前、平日火曜日にもかかわらず老若男女幅広いミュージック・ラバーズでフロアはまさに"すし詰め"状態。エントランスにはファンの有志からもフラワー・スタンドが並べられており、バンドの注目度やファンの熱量を窺うことができた。

ステージにサポート・メンバーが登場、イエローのシャツに身を包んだギター 別府 純が登場するや否やフロアからは待ってましたと言わんばかりの"フー!"という歓声が飛び出し、彼の"お待たせ"という言葉で公演はスタート。

1曲目はツアー・タイトルにもある"渚のランデブー"という言葉を含んだ「眩しい、眩しすぎる」。離婚伝説特有とも言えるJ-POPには稀有なグルーヴにフロアは徐々に揺れ始める。パープルのジャケットに身を包んだヴォーカル 松田 歩の放つきれいすぎるクリアな高音、ポップな服装、往年のポップスやファンクのような要素を感じるグルーヴ、スモークのかかったスポットライトがちょっぴりレトロな雰囲気も漂わせ、会場は一気に離婚伝説の世界観に引き込まれる。
2曲目「スパンコールの女」では松田と別府がサビ部分で同じ方向にステップを踏むのが印象的。続く「ファニーとファンキー」も同様にフロアはギターのカッティングやビートに合わせて縦に身体が揺れる。松田が艶っぽく「ファニーとファンキー」と言えばフロアの熱気は都度上昇、曲中のクラップも合わせてフロアを巻き込む演出でさらに熱気は高まっていく「また旅に誘われて」では慣れてきたオーディエンスが、音に身体を委ねて笑顔で目をキラキラさせながら左右に揺れていたのが印象的だった。

「また旅に誘われて」明けのMCでは"調子どうですか? (イエーイ)"、"東京帰ってきたね~(おかえり!)"とフロアとの対話からスタート。この日、東京は夕方から大雨に見舞われていたが別府は"(離婚伝説は)雨も晴らすようなバンドに"と言い掛けていた。シックな印象が強いバンドだがMCは想像を遥かに超えるカジュアルさ。パフォーマンスからは想像できない"ほっこり"、"にっこり"するトークが繰り広げられた。新曲「本日のおすすめ」がエンディング・テーマを務めるアニメ"ラーメン赤猫"の話題からラーメンの話になると、"何ラーメンが好きか"、"(ラーメン)二郎にはにんにくを入れるか、生姜を入れるか(松田はにんにく派、別府は生姜派だそうだ)"をフロアに尋ねたりする場面も。十分にほぐれた後、2人は"離婚伝説を始めて2年半、こんなことになるなんてね"、"ありがとう"と続け、脅威のスピードでシーンを上り続けることで変わる環境や景色に感謝した。

MC明けはトークの途中で触れたアニメ"ラーメン赤猫"のエンディング・テーマ「本日のおすすめ」を披露。"だからね"とサビ始まりの本楽曲は会場の雰囲気がポップなままパリッと変わるようで、途中のギター・ソロでは歓声があちこちで上がっていた。パフォーマンスとトークのギャップが凄まじい、これも離婚伝説の魅力の1つと言えよう。

続けて、YouTubeチャンネル"THE FIRST TAKE"でも話題になった、離婚伝説のステージをグッと引き上げた代表曲の1つ「愛が一層メロウ」を披露。フル・バンド・セットの本公演は'80sの洋ロックをも彷彿とさせるイントロのアレンジから始まる。各々のノリ方で楽しむオーディエンスも増えてきていたところで、サビは全員で手を挙げてから"愛が一層メロウ"が続くところはシンガロング。ラストのカッティング前、松田は"みんなありがとう、サイコー"と笑顔で溢した。

続く「あらわれないで」、これもまた離婚伝説の代表曲の1つであることは言うまでもない。松田のファルセットはこの空間に漂う空気をキラキラとさせ、空を舞うそれをオーディエンスはうっとりと見つめていたのが印象的だった。ちょっぴりセンチメンタルな雰囲気を纏ったサウンドがまたそれを引き立てる。別府のギター・ソロはここでも大歓声が起こっていた。ライヴならではのアレンジとして、ラストはクッとしばらく止まり全員の焦点が定まったところで最後まで歌い切る松田。フロアの感情も昂り大きな拍手が湧き起こった。

音はピアノ、ギター、ドラム、アコースティック・ギター、ベースと順に増えていき、センセーショナルな雰囲気に会場はガラリと変わる。「追憶のフロマージュ」のイントロがとても映えるアレンジだ。ライトとスモークで松田の顔が序盤は見えにくかったが、楽曲が後半に続くに連れて徐々に見えてくる......Aメロ、Bメロと突き刺さるような高音も聴かせながらも、"そんな表情で歌っていたんだな"そう思えるほど優しく温かく包み込んでくれるサビのきれいな高音。アウトロの松田は凛とした出立ちでそれは美しいものだった。

本編最後のMCではバンドの原点を振り返る。2022年に結成された離婚伝説は公演時点では結成2年半。結成当時は流行病が蔓延り、音楽シーンは危機に直面していた。活動が多角的に制限されるなか、彼らはYouTube等でエンターテイメントを発信し続けていた。それが今、制限も緩和され超満員のライヴハウスを東名阪と行脚しているのだ。"早いねー"と振り返るがそれもそのはずである。2人は"離婚伝説はどんなバンドなのか?"を振り返り、それは"愛"であると断言した。松田は"愛ってステキじゃない?"愛は気付かないうちに与えていたり、与えられていたりするものとし、"離婚伝説に出会ってくれたみんなは、どうかその愛に気付ける人であってほしい"と続けた。別府は"言ったことないシリーズ"と前置きをし、"君は君 我は我也 されど仲良き"と明治から昭和にかけて活躍した小説家で劇作家の武者小路実篤の名言を引用。"結局人って別じゃん。みんな一人一人なんだけど、でも仲良くいようぜ"と続け、近くの人と仲良くしてほしい、というメッセージを続けた。

"愛"を語った2人は続けて"愛"を謳う。続いて披露した「萌」は離婚伝説の楽曲の中でも屈指のバラード・ナンバー。しっとりと優しく温かく歌い上げる松田の歌声をフロアはしっかり聴き入っていた。ラスサビにかけて涙を拭うファンの姿も。照明は「萌」というタイトルのごとく緑や青、黄で彩られ、芽吹きを感じるような温かい拍手に包まれた。

すると馴染みのある楽曲が続いた。1975年にリリースされた太田裕美「木綿のハンカチーフ」である。まさに往年の名曲の令和的解釈、モダンな「木綿のハンカチーフ」である。「萌」とは似て非なるベクトルから"愛"を描いたストーリーテリングな楽曲は松田のまっすぐで流麗な歌声がとてもハマっている。

ハイハットが3回大きく響けば未発表の新曲を披露。この音像が描く日差しに反射するジュエリーのようなキラキラした煌めきは、'80s~の日本のロック・バンドの夏ソングを彷彿とさせる。それでいて重低音もどっしりとしていて、2人の音楽のルーツをも感じることができる。

"ありがとう、離婚伝説でした"と「メルヘンを捨てないで」に続ける。リリース当時、音楽性だけでなくワンカットで且つ逆再生で制作されたミュージック・ビデオまでも界隈では話題になっていた印象が強い。松田はフロアを見渡しながら端から端まで全員にその声を届けていた。"ここは君と僕だけのユートピア"と歌う松田の表情と声色は幸福に満ちていた。歌い終わるとアウトロの別府のギターにステージを託して退場。地響きのようなギターとフラッシュ・ライトで演出されたセンセーショナルな雰囲気で本編は終了。

メンバーが全員ステージからはけて間もなくフロアからは手拍子が起こり始める。バラバラだったそれもすぐにまとまり、何度も何度も繰り返されていた。

"このツアーで一番早く戻ってきた"と茶目っ気たっぷりな松田のMCでアンコールがスタート。フロアを労う2人の言葉でオーディエンスのテンションはすっかり元通りに。この日の別府の衣装のテーマは"おしゃれピコ太郎"だったようで、本編ラストの雰囲気はすっかり解けていた。このMCでは「木綿のハンカチーフ」に続けて披露した楽曲がそのうち出る新曲であること、ファンクラブがオープンしたこと、10月から全国6都市ワンマン・ツアーを開催することを知らせていた。早速スケールアップしたツアーは"そっと強く抱きしめて"という"離婚伝説らしい"ツアー・タイトルだが、それに準えて"俺らが抱きしめにいきます"とファンの気持ちを昂らせた。"いっつもありがとう"とにこやかに放つとフロアと"ありがとう"のコール&レスポンスも発生。別府に"最後に言い残したことは?"と振られると松田は"愛してる"と会場を沸かせた。

アンコール1曲目は「You Should Know Your Love」。サビの"I love you"を繰り返すパートでは、オーディエンスのほとんどがそれを口ずさんでおり、それぞれが愛を放ち、愛を浴びる、まさに"愛に溢れた空間"そのものであった。きっとその場にいた誰もが、誰かを、何かを、愛したくなっただろう。

アンコール2曲目、オーラスは「さらまっぽ」。タガログ語で"ありがとう"を意味する言葉をタイトルに冠した楽曲。ラスサビ前の"綺麗な瞳に"から入るライヴならではのスタートに"ありがとう!"と続けて楽曲がスタート。フロアは手が挙がり、リズムに合わせて左右に振ってこの時間との別れを惜しむ。松田はステージ前方を歩きフロアにコンタクトを取りながら歌う。"隣に居てくれる君と"で別府と肩を組むなど微笑ましい場面もあった。"イエーイ!"と大きな拍手で楽曲が締めくくられ、"またね!"と2人はフロアに手を振って本公演は幕を閉じた。

終わってからしばらくフロアは誰も動けなかった。筆者も同様だ。きっと多幸感で動けなかったのだ。ほとんどのオーディエンスが優しい表情でステージをしばらく見つめたままだった。およそ90分の公演はまるで魔法に掛けられたようで、日常からは感じ得ない愛と幸福に包まれた時間だった。2人の音楽のルーツ、好きなアルバム、影響を受けたアーティスト、クリエイティヴ・センス、何よりも音楽への愛――それは"離婚伝説"というバンド名の由来を知れば納得だ。それでいて令和の要素としてなのか一曲一曲が比較的コンパクト。濃密な3分前後の各楽曲は聴き終わる頃にはもっと欲しくなっている。それは日本人のDNAに最も近い浸透圧のようなものだと筆者は感じる。

"離婚伝説"というバンド名だけ聞くと"何者!?"となるだろう。だがその印象をどうにか押し切って離婚伝説が纏う独特の雰囲気や彼らの音楽、その人間性に触れてほしい。そこにはきっと底なしのありったけの"愛"しかないだろう。これから世に放たれるだろう新曲、秋から始まるツアー、これからのすべてが見逃せない。

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