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LIVE REPORT

Japanese

椿屋四重奏

2010.10.16 @日比谷野外大音楽堂

Writer 沖 さやこ

椿屋四重奏5年振り2度目の日比谷野音公演。この日は清々しい秋晴れに恵まれた。ステージの上には膨らみを帯びた半月が浮かぶ。絶好のシチュエーションだ。

最新アルバム『孤独のカンパネラを鳴らせ』1曲目に収録された「ロンサム」で幕を開ける。バック・コーラス、ギター、キーボード、3人のサポートを迎え入れた6人で彩られるステージ。丁寧にひとつひとつ音がはじきだされ、その音は徐々にひとつにかたまってゆく。

「いばらのみち」で中田裕二は右手にマイクを持ち、ステージを舞うように動き回る。何かが憑依したように歌の色ががらりと変わり、夜空へと突き抜けてゆく。やはり彼には“シンガー”という言葉が相応しい。ピアノ・ソロから「共犯」のイントロ・ギターが流れた瞬間、客席からは歓声が。観衆を椿屋四重奏の世界へどんどん引き込んでゆく。名の通り優しく包むような「ブランケット」、深海を感じさせる切なさを帯びた「playroom」、「漂流」、抜群の高揚感を持つ「ジャーニー」とドラマティックに展開してゆくステージ。否が応でも全身の力を全て奪われてしまうような、恋にも似た感情を抱いてしまう。

中田が“生きることはマテリアルの集合体だと思っている”と語り披露された11月24日リリースの「マテリアル」。その言葉の通り、彼の29年の人生が詰まった、等身大の曲だ。都会に憧れていた少年が大人になった東京という場所が、この曲を更に強く心に響かせる。


初期の名曲「導火線」に続いて演奏された「red blues」。このイントロが鳴った瞬間、まるで口を塞がれるような感覚に陥った。手数の多いドラムが催眠状態に取り込むように炸裂し、中田も操られるように曲に入り込む。シャウト交じりに歌い、ステージに倒れ込む場面も。まさに彼の内に潜むもうひとつの顔が覚醒した瞬間だった。危険な香りと熱情が心を奮い立たせる。

大人の色気と奔放な少年性。ロックという概念に囚われなくなってからの椿屋四重奏の自由度の高さは極上のロマンチックを生み、都会を美しい世界に昇華する。終盤やアンコールでは電子音を大胆に取り入れた新曲「ロスト・チルドレン」、インディーズ時代の人気曲「踊り子」「小春日和」「螺旋階段」などを披露。椿屋四重奏は10年の活動で作り上げたものを大事にしながらも、新たな側面を貪欲に開拓していく。そうだ、椿屋四重奏というバンドは昔からそういうバンドじゃないか。その心意気を再確認した一夜だった。

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