INTERVIEW
Japanese
小林太郎
2013年01月号掲載
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-2008年に“THE STREET FIGHTERS”主催の“H ジェネ祭り’08”にバンドで参加して最優秀賞を獲得し、2010年のインディーズ・デビュー後、同年2枚のアルバムをリリースなさって。2011年は“小林太郎とYE$MAN”名義のバンドとして活動をなさって。今年はまたソロ名義に戻り、夏に1st EP『MILESTONE』をリリースし、2013年の幕開けが今作の『tremolo』となるわけですが。活動的にはかなり怒涛ですよね。
ギリギリな感じでしたね(笑)。18歳の夏、思い出作りにみんなでわいわいやりたいと思って大会に出たんですけど、そこでグランプリを頂いて。予想外だったなぁって感じで。その大会がキッカケで環境はぐっと変わったかな。それまでバンドだったのが小林太郎というソロになって。バンドでがっつりやられてた人たちがソロになりましたよ、っていうのはよく聞くじゃないですか。でも俺はソロ経験もゼロで、頭からソロで。うまくやっていけるか、自分の曲にどんな反応があるのかっていう不安があって。2010年はスケジュールも結構タイトだったんで、体力的にも精神的にも不安は大きかったです。
-インディーズ・デビューをなさった2010年は悩んでらっしゃったようですね。
19くらいの若僧が、ベテランの人たちについてもらって音楽を作って。その若僧にどんなに才能があって、自分のイメージ通りの音でも、そのベテランの人たちに何かを言われたらできないわけで(笑)。音楽をする環境で悩んで、純粋に音楽でも悩んで。バンドを組んでたときは“バンド組んでライヴしてお金もらえて飯が食えて、それだけでいいじゃねぇか”って思ったから、音楽をやるのは好きだからっていう理由くらいしかなくて。1stアルバム『Orkonpood』を出すくらいから“何で俺は音楽をしているんだろう”っていう悩みとかが、いろいろスタートし始めまして。そっから2年ばかしバンバン悩んだって感じですね。
-インディーズでアルバムを作るにあたり、そういうものに向き合わなければいけない状況になったということですね。
そうですね、歌詞を書かなきゃいけなかったんで。日本語はどんな歌詞でもメッセージ性が宿るじゃないですか。メッセージ性がないならないで全然いいんですけど、自分がないと思ってやってるのか、あると思っているのかが分からなかったんですよね。どっちなんだろう、どうしたらわかるだろうか……っていろいろごねごね考えながらアルバム作ったりライヴしたりしてましたね。
-2011年のバンド活動はいかがでしたか?
俺の場合は曲を制作する形として、ソロよりバンドのほうが親近感あったんですよね。“俺は何で音楽をやってるんだろう”っていうのが分からないまま、ソロを取り敢えずやってみていろいろ勉強できたから、“この状態でバンドやったらいい音楽作れるのかな”って思ってやってみたんです。ソロとかバンドとか音楽の形態は勉強できた。全部じゃないけど、同い年の音楽やってる奴らより運よくいろいろ経験できて。でも、ソロになればいい曲できる、バンドになればいい曲できるってわけじゃなくて、俺が曲を書くならどっちでも書かなきゃいけない。じゃあ俺は何で音楽をしているのか……ってまた最初に戻っちゃったんですよね。
-2011年に起こった東日本大震災も小林さんに大きな影響をもたらしたようですね。
そうですね。ミュージシャンっていろんなメッセージを発信したり、意識しないところで発信することもあったりして。でも俺は自分が何で音楽をしてるかわからなかったから、何を発信していいかもわからなかったんです。それは申し訳なかった。わからないままかもしれないけど、それなりにもっと向き合わないとなぁって強く思って、それを探しに行こうと。本気で勉強してみようっていう感じで、そっから本を読み始めたんです。中古屋とか行ったら、こんなに分厚くて情報量のある本が100円とか200円じゃないですか。文字が頭に入ると、頭も活性化する。だから本がいいこと尽くめだったんですよね。何かを吸収したいからこそ、小説じゃなくて歴史書や、誰かの考えが色濃く出てる本にハマってたって感じですね。
-本を読んでいくなかで出た答えはどういうものでしたか?
いくら考えてもわかんねぇから、それならそれでいいやって思ったんです。分かんないなりに今まで必死にああじゃねえかこうじゃねぇかってやってきて、少なからずそれがいいって言ってもらえることもあったんですよね。だからきっと“いいものを作って喜んでもらいたい”が1番にあって。そう考え始めたら、音楽の才能、感性、センスっていうものはもらいもので、それはもらいものだから自分じゃわかんない。だけど、俺は器でそれを受け止めて、零れそうになったらそれをひっくり返して、地面にばーって零しちゃう、みたいな。それは、誰か人に聴いてもらう、自分以外の何かに返すっていうこと。自分で何か作り出したものを誰かに与えるんじゃなくて、自分がもらったものをそのまんま自分のなかで肥やして、そのまま返す。理由がわかんなくても、返す作業ができればいいなって。
-“返す作業”とは。
変に論理的にならないで、曲を書いてるときにすっと言葉やフレーズが素直に出てくるっていうこと。……それ以前もそういうことはあったんですけど“こんなに簡単に書いてしまっていいものだろうか”って罪悪感もあって、これでいいのかも不安で。でも考えてもどうせわかんないんだから、すっと出てきたほうがいいんじゃないかって思って。そもそも自分に、それをよくする能力がないってことに気付いたんです。だからタイミングとかを邪魔しないで、もらうときにもらって出すときに出す、みたいな。いいものであったら、変に自分でこねくり回すよりも、そのまんまがいいなって。音楽ってそんなもののように思えたんですよね。そっから凄くラクになって。そういう気持ちで考えられたら、もっと曲が出てくるんじゃないかなって思えたんですよね。
-そしてメジャー・デビューEPである『MILESTONE』ができあがったと。
『MILESTONE』では音楽の才能とは別の音楽の部分の、ミックスや機材とか、勉強しなきゃ絶対にわからない部分の知識もある程度ついてきて、やっと俺の頭のなかのイメージがそのまんま形にできそうだっていう感じ。今まで成長過程とはいえ中途半端に終わってたものがこれからはより完全な形でCDにできる、ライヴができるって思い始めたのが『MILESTONE』だったんですよね。やっと歯車が合い始めたぞ、と。で、その考え方が合ってるかどうかわからないけど、『MILESTONE』のときはそれでいい気がして。そっから半年ライヴもやって『tremolo』も作るぞ! ってなったときも変わらなかったから。じゃあ合ってるかどうか試してみよう! っておんなじ気持ちで作ったのが『tremolo』。
-『tremolo』の制作期間はどれくらいだったんですか?
『tremolo』は『MILESTONE』より制作期間が短いんです。『MILESTONE』がまるまる2ヶ月で、『tremolo』が2ヶ月弱くらい。そのときにばっちり『MILESTONE』の東名阪ツアーがあったから、精神的な余裕は全然なかった(笑)。トライアスロンやってるみたいでしたね。でもそれでもできたっていうのは、自分のイメージをそのままやればいいんだっていう、ラクな気持ちで、更に『MILESTONE』で勉強できたことも摺り寄せられた。ミックス、レコーディング、マスタリング、機材面。で、ギターも……そこまでうまくなってないけど(笑)、コツを掴んだ部分もあって。自分のイメージと、イメージ以外の自分のスキルが、『tremolo』でやっと同じくらいに追いついた。また俺が持ってるイメージを、『tremolo』を作ったときのスタッフさん全員に理解してもらって、みんなにそこをフォローしてもらったんですよね。俺は歌とギターしかできないから、何かを入れるって言ったら全部やってもらわなきゃいけないんです。自分のイメージ、スキル、自分の周りの人たちの絶大なるフォロー、同じくらい絡み合って、奇跡的に短期間でいいアルバムができたなって感じでした。ソロだからこそ他の人の力が必要ですね。……本当にいろんな人に助けてもらって、イメージ通りのアルバムを作ることができたなって。感謝の気持ちが耐えない感じです。
-小林さんはいい意味で若者らしくない無骨なロックのイメージが世間的には強いと思うんですけど、『tremolo』は曲の振り幅がとても広いですね。
実は「星わたり」はインディー時代の1st『Orkonpood』に入ってる曲よりも古い、何よりも最初にできた曲なんです。歌詞も構成も全て、最初のシンセからメロディまで全部が俺の頭のなかに鳴ってて、それを録り直しただけくらいの勢い。でも鍵盤って自分が弾けたらいいんだけど弾けないし、入れることでそれ自体が意味を持ってしまうことがあるじゃないですか。だからちょっと慎重になりたくて。まず俺はバンド上がりだからインディー2枚でバンド・サウンドを勉強して、『MILESTONE』は久し振りのソロのアルバムだったんで、小林太郎の名刺代わり的な、俺をもう1回そのまんま出すようなアルバムを作って勉強できて。やっと今回、いろんなものを素直に、デモの段階から書いてみようと思ったんですよね。『MILESTONE』も手がけてくれたアレンジャーさんと今回も一緒に仕事させてもらって、鍵盤のイメージもいろいろ相談して、素晴らしいものをいっぱい入れられたんですよ。俺の頭のなかで鳴ってたフレーズがようやく、イメージ通りにやっとできたなと思ってます。今までは“こういうことがやりたいけどまだできない”っていう感じでしたね。
-じゃあ、最初からこういうアルバムが作りたかったということなんですね。
そうですね。バンドをやる前は僕、CHEMISTRYやチャゲアス、サザン、ゴスペラーズみたいな歌モノが好きで。BUMP OF CHICKENを中学のときに知って“バンドもかっこいいな”と思って。BUMP OF CHICKENもロックだけど、歌が映えてるから俺も引っかかったのかもしれない。それから洋楽を知って、NIRVANAを好きになって。Kurt Cobainはみんな歌が下手っていうけど、ものすごいかっこいいと思うんです。人にかっこいいと思わせる声を出すのって難しい、この人はすごく歌がうまいなぁって。だから曲を作る上で別にロックであるとかそういうことはどうでもよかったんです。ロックも好きっちゃ好きだけど、歌モノが好き。やっとそういう方向に振り切れたかなーって感じですね。
-ヴォーカルが曲によってまったく違う光り方をしているので、そういう多面性も面白いです。感情の込め方も1曲1曲違いますし。
例えば「INDUSTRIAL LADY」ではKurt Cobainが好き。「愛のうた」では藤原基央さんが好き。「艶花」では安全地帯が好き。「答えを消していけ」ではB'zの稲葉さんが好き。「輪舞曲」ではチバさんが好き。「目眩」ではチャゲアスが好き。「饒舌~interlude~」では洋楽が好きっていうのが出てて……全部違うんですよね。曲が自然と浮かんできたから。それ自体は俺はわからないんですよ。浮かんだから書いただけであって。もしかしたら無意識でバランスを見てるかもしれないけど……でも取り敢えず、すっと浮かんできたものを何も考えずに歌って、弾いてみようって。だからそれぞれの曲に合った歌い方をしていこうと思ったんですけど、そしたら今までのアルバムにないくらい、歌の表現を考えられたんですよね。それもすごく良かったなって。
-アルバムの中盤に収録されている「饒舌~interlude~」は毛色も違っていい場面転換になっていると思います。
『MILESTONE』のときも俺が作ったデモまんまのインタールードを入れさせてもらって。『tremolo』も『MILESTONE』とぐっと変えるんじゃなくって、いろんな曲がありながらも俺自身がそのまま出るようにしたくて。作曲ソフトをフルに使って、いろんな音を入れたんです。他の曲は生感が宿ってるとけど、「饒舌」は逆でちょっと冷たい感じ。打ち込みで遊べたんで、そういう面もやっていきたいですね。
-コンポーザーの側面が色濃く出たものになっているんですね。歌がフィーチャーされた楽曲を多く作る小林さんのなかでは新しい風になっているのではないでしょうか。
もともと歌詞を書くのが大の苦手だったんで、だからこそ歌詞は悩んで悩んで。今は前よりかは全然スムーズなんですけど、それでも日本語は意味を持ちすぎるからこそ、音楽がそれに引っ張られるのは縛られる感じがして嫌だったんですよね。歌詞がある曲もいいけれど、純粋に音楽として楽しめるような。洋楽を聴くときに歌詞を聴く日本人ってあまりいないじゃないですか。でも何か、日本人でも音楽をしたいんだったら、歌詞なくてもいいんじゃね、っていう思いもあったので、(インタールードは)やれて良かったなって。
-でも小林さんの書かれる歌詞ってメッセージ性の強いものですよね。
そうですよね(笑)。その前までは、自分のなかで歌詞のフレーズが出て来ても、どんな歌詞の繋がりや物語にすればいいかわかんねえし、作るの大変だなーって思いながら何とか作ろうとして作れないっていう感じだったんですけど。最近はフレーズや単語が出てきたらそのまま書いて、あんまり繋がりとかも意識しないで、止まるまで書く。パッと出てるときに敢えて止めて“本当にこれでいいんだろうか?”って思うことをなくしたんですよ。そしたら結構すらすら出てきて。だから考えてこういうことを書いたわけではなくて。インディーズの2枚って自分で布をかぶせてた部分があったからわかりづらかったけど、『MILESTONE』からはそのときの自分の心情がそのまんま出てるのかなーって。
-歌詞に込められたメッセージは一貫していると思います。
『tremolo』の歌詞には自分が出てる。逆にいえば、自分を出さなきゃいけないんだなって思ったんです。俺と会ってもいない人も俺の曲を聴くと、俺の一部分がわかりやすく伝わる気がする。歌詞の単語とかフレーズとか文章とかで、こんなこと考えてるんだっていう印象でもいいし。いろんな曲やってるから、いろんなこと考えてるんだろうなでもいいし。俺は曲にはまるように歌ってるんだけど、粗があったり、クセがあったり、そういうものを歌で感じてくれてもいいし。何でもいいけど、アルバム1枚、ライヴ1曲1曲で、自分をわかってもらわなきゃいけないんじゃないかなって思ったんですよね。それこそが役目であって、『MILESTONE』のときに感じた器の中身を自分以外の人に返すこと。使命とは思わないけど、それぐらいしかすることがない。そう強く感じることができました。
-ソロ・アーティストである小林さんが“自分を出さなきゃいけない”と思うことが意外です。自分を出したい人がソロをやっていくイメージもあったので。
みんな強く自分を出しますからね。でも俺が音楽を始めたキッカケが親に褒められたからなんですよ。ポルノグラフィティの「アゲハ蝶」を歌ってたら“うまいね!”なんて(笑)。それが嬉しかったんですよね。それから練習するようになって、今も人に褒められること、誰かに喜んでもらえるためにやっているんです。あのとき褒められてなければ、こんな人前に出て緊張するような仕事、やれてなかったと思うんですよね。俺は本当に緊張しぃだから人前に立つと頭の中真っ白なんです。汗びっしょりかくし、何を好んでこんな場所に立たなきゃいけないんだって(笑)。でもそれ以上に喜んでもらえるのが嬉しくて。だから俺はいい音楽を作って喜んでもらいたいなと思うんですよね。ソロ・アーティストっていう方法がいま1番いい方法だからやってるだけであって。
-ご自分の音楽が1番映える方法で音楽をやってらっしゃるってことですね。
まあ当たり前ですけどね(笑)。俺が受身みたいになるのは、単純に疲れるからなんです。だから、他のソロ・アーティストさんとは根本的に違うとかではなく、人とぶつかることがあっても音楽作れるから体力あるなぁと思うんですよ。俺は音楽を作る体力を削がれることにすごい腹立っちゃうから、そんなに出さなくてもいいやって。でもそれでいい状態で音楽作れるから、それはそれでいいんだなぁって思ったらすごくラクになった。また、ロックって自己顕示欲のかたまりの面もある。というか逆に、そっちに偏りすぎている人もいるから、気をつけないといけなかったんですよね。“俺がやりたいのはこれだから”って人の言うことを聞かなくなると、自分が広がらないし、自分の器も理解しない、小さい人間になっちゃう気がして。音楽だけじゃないかもしれないですけど、自分を省みないとだめなんだなって思ったんです。自分でごねごね考えることが多いんですけど、基本的には受身で。ただ“もらったものを返す”ことだけに集中して、それ以外はラクに保ったほうが、いい音楽が作りやすくなる。それだけで充分だなって。
-ソロという形態は小林さんの音楽を表現するのにぴったりなんですね。
デメリットがあるとすれば、俺が未熟なところ。ソロ・アーティストの能力に周りの人も左右されすぎるところなんですよね。でもそこがクリアにできると、徐々にいろんな歯車が回っていって、いろんな人が必要以上の負担を抱えないですむ。みんなが各々の仕事に集中できる環境になる気がするんです。俺はデモを作ることに専念して、ギターを選ぶ人はデモをできるだけ聴いて、その人の経験を照らし合わせて“これがいいんじゃないか”って選んでくれて。そういった環境作りがみんなしやすくて、すごくいいなぁって思うんですよね。ライヴもレコーディングも然り。
-なるほど。2012年で歯車が回りだし、『tremolo』で2013年のスタートを切って。ミュージシャンとしても充実した活動ができそうですね。
『MILESTONE』を2012年の年始から作って、『MILESTONE』で心の面が整って、『tremolo』で技術の面が整って、やっとこの1年で2つが合わさって。歯車が合い始めたぞっていう嬉しい気持ちと、ていうことは動き続けるわけだからあんまり休む暇がないかもなぁっていう(笑)。恐る恐るスタート・ラインに立って、更にその同じ年に1歩目を『tremolo』で踏み出せた。2012年は出発の年だったなと思います。あとはこの仕組みでどこまで行けるか。『MILESTONE』や『tremolo』と同じように、変に考えずに、2013年も同じように出発の年になればいいなと思います。これからですね。
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