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2008年にアメリカのケンタッキー州で結成された、まだ10代のメンバーも在籍しているという6人組ガレージ・ロック・バンドのデビュー・アルバム。60’sや70’sのガールズ・ポップを髣髴とさせる甘いメロディを、青さを隠し切れないラフなガレージ・サウンドに乗せて走り抜けていく。近年のバンドだとTRIBES辺りとリンクするのは間違いないが、この若きバンドのメロディ・センスはTHE CRIBSすら凌いじゃうんじゃないの!?ってくらい突き抜けたキャッチーさを持っている。クソ生意気そうにクールに歌うAlex嬢と、頼りないJack Whiteみたいなヴォーカルを披露するTonyのツイン・ヴォーカルのバランスも最高。是非邦楽ファンにも聴いていただきたいバンドだ。(伊藤 啓太)
●初回限定デジパック仕様
●日本盤ボーナス・トラック2曲収録
●日本オリジナル・ジャケット仕様
[SONY MUSIC JAPAN]
SICP-3668
\2,310(税込)
Alex "Kidd" Kandel (Vo)
Tony "Tutone" Smith (Gt/Vo)
Justin "Keyser" Wilson (Dr)
Lee "Grizzlee" Williams (Ba)
Scott "Saga" Gardner (Key/Synth)
Josh "Junior" Martin (Gt)
またひとつ、心踊るバンドの登場である。アメリカはケンタッキー州ボーリング・グリーンにて結成された6ピース・バンド、SLEEPER AGENT。彼らの1stアルバム『Celabrasion』に収められた12曲のガレージ・ロック・トラックには、若さゆえの苛立ち、悲しみ、衝動、そして、ロックンロールというアート・フォームを手に入れたことに対する無上の喜びが溢れている。まだまだ拙さはあるものの、1音1音に自信が漲り、そして何より、若さが自分たちの現時点での最大の武器であることを自覚しながらも、そこに甘んじることなく、ロックンロールの深淵に手を伸ばさんとする気概も沸々と感じさせる。これはいいバンドだ、絶対に。

この6人組が結成されたのは2008年。メンバーの現在の年齢が10代後半~20代前半ということから、結成当初はまだ高校生くらいの年齢だったと推測できる。だが、彼らにとってバンド活動が青春時代の一過性の思い出作りに留まらず、自分たちの考えや思いを放出することのできる、本気で向き合うべき表現ツールとなったことは、今、こうして彼らの作品に耳を傾けることができる事実からも明らかだ。去年の夏に本作『Celabrasion』がリリースされるやいなや、バンドは米ローリング・ストーン誌において“ルーキー・オブ・ザ・イヤー2011”に選出され、同誌の読者投票による“2011年ベスト・ニュー・アーティスト”においても第2位に選ばれるという高評価を獲得。去年の暮れには同郷の先輩バンドであるCAGE THE ELEPHANTとのツアーを行い、今年に入ってからもBen Kwellerや、今をときめくFUN.、そして御大WEEZERなどとの競演を経て、急速に、その存在感を大きくしている。

そして今年、満を持して『Celabrasion』が日本でもリリースされることとなった。PIXIESやBLACK LIPS、そしてCAGE THE ELEPHANTなどを影響元として挙げる彼らの音楽性は、一聴すればオーソドックスなガレージ・ロック。ただ、曲毎に表情を変える多彩なリズム・パターンや、60年代ガールズ・グループからの影響も時折垣間見せる甘いメロディを伴った優れたソング・ライティング、そして、紅一点ヴォーカリストのAlex Kandel(美人!)とギター兼ヴォーカルのTony Smithによる男女混声ツイン・ヴォーカルが、曲に一介のガレージ・ロックを越えたキャッチーさを注入することに成功している。その精練としたメロディ・センスにAlexの華のある存在感も手伝って、“ガレージ・ロック”という言葉にイメージとしてつきまとう密室感や汗臭さは皆無。若さゆえの泥臭さはあっても、むしろ全体的には瑞々しく爽やかな印象を与えていると言えるだろう。とりあえず、シングル曲である「Get It Daddy」と「Get Burned」の2曲を聴いてもらえれば、彼らのポップ・ポテンシャルの高さを理解してもらえると思う。だが、そうして楽曲全体を耳さわりよくまとめている分、前述したTHE PIXESやBLACK LIPSといった先たちほどのアクの強さはまだ持っておらず、アルバム全体としてはさらっと聴けてしまうのも確か。そこにもの足りなさを感じる人もいるかもしれない。しかし、そうしたバンドの未熟な部分を差し引いてでも、このアルバムを一聴の価値のあるものにしているのは、ソング・ライティングやヴォーカルの力は勿論だが、何よりも、疾走感のあるパンク調ナンバーからミディアム・バラードまで、様々な音楽性に野心的に挑戦し昇華せんとする、バンドの無邪気な野心と無防備な才能である。ここ数年、様々な完成度の高い1stアルバムを耳にしたが、ここまで“未来”を明るく感じさせる1stアルバムはなかなかない。数年後には世間をあっと言わせる傑作をものにする可能性を十二分に感じさせる、とても魅力的な若者たちの登場だ。
(天野 史彬)