多彩なアーティストを擁したレーベルが贈る自主イベント『felicity live 2011』の2日目をレポートする。
トップバッターは多摩美の学生同士で結成された4人組、快速東京。昨年はFUJI ROCK FESTIVALのROOKIE A GO-GOに出演し話題となり、今年1月には1stアルバム『ミュージック・ステーション』を発表している。持ち味はBLACK FLAGやMINOR THREATの80’sハードコアをほんの～りメロコアのエッセンスで中和したような、とにもかくにもスピーディーに突っ走るパンク・サウンドだが、まさに快速！って感じで、いまノリにノっている新人バンドを象徴するような勢いがあった。矢継ぎ早に繰り出す楽曲の数々に、少々オーディンスは置いてけぼりポカ～ン状態。途中のMCでヴォーカル福田哲丸が「いま5曲やりましたが」なんてつぶやくと「え!?」って感じで笑いが起こっていたが、ほとんど理解できた人はいなかったようだ（このやり取りも毎回テッパンみたい）。だが、そんな状況に臆することなく激しいプレイを繰り出し続けていく。とくに福田の甲本ヒロトを彷彿とさせるアクションから、意味があるのかないのか分からない衝動的な言葉をハイトーン・ヴォイスで吐き出す自然児な姿は最高にかっこよかった。これから徐々に知名度も増し、どんな現場でもモッシュ＆ダイヴの嵐を生み出すバンドとして成長してもらいたい。
2組目はこの日のラインナップで最も特異な印象を受けるHIP HOP界の異端児、というかジャンルレスなパーティー野郎！“HIP HOPミーツallグッド何か”を座右の銘にしたサイプレス上野とロベルト吉野の登場だ。ロック・ファンの比率が高いフロアを睨んでは“それがどうした”とアジテーションする姿勢は、個人的にこの日のハイライトと呼びたい最高のエンターテイメントがあった。快速東京が一方通行的にオーディエンスを押したようであれば、彼らはヒップ・ホップの自由な感性を活かし自分のフィールドに引っ張り上げてしまう魅力がある。その強引さに不快感や反発が起こらなかったのは、サ上とロ吉が生み出す極上でありどうしようもない“笑い”があったから。彼らが先日のフェスで出演時間を押してしまい“SISTER JETに迷惑を掛けた”とバンドのファンにしきりに直接詫びを入れたり、「バウンス祭」の最中ではジャンプしないオーディエンスに“これなら好きだろ”と無理矢理HOUSE OF PAINの「Jump Around」を流したり、“お前らクリーミーだ！恐竜の卵が×○△◇”とロ吉が意味不明に叫んだりと、終始笑いの絶えないステージとなった。後半の「HIP HOP体操」ではすでに空間がひとつになり、笑顔の体操タイム。そしてラストは名曲「Wonder Wheel」！レペゼン横浜のストリート感あるフロウとリリック、メロディアスなサウンドには普遍的な力がある。ヒップ・ホップの枠を超えた強力なポップ・ソングに、オーディエンスが心地良く身を委ね、ピースフルな瞬間を生んでいた。エンターティナーの真骨頂はアウェーで発揮される、そんな姿を披露してくれた最高のステージだった。
続いてはカジヒデキ＋ヒダカトオル。前身レーベルのトラットリアから数えて最古参なカジヒデキが、今回はバックにFED MUSICを従え、ロック界のパーティー野郎ヒダカトオルとのコラボを実現させた。カジとヒダカの関係が千葉出身の先輩後輩ということもあり、“カジ先輩を意識してYシャツ短パン、マーチンで来ました”と出て来るなりさっそくヒダカが笑いを誘っていた。しかしこのカジ先輩、いつ見ても若々しい容姿には驚かされる。デビュー時から時間が止まっているんじゃないか!? なんて思ったりして。そしてこの組み合わせで披露されたのはお馴染みのナンバーから意外なカヴァーまでチョイスした、まさにこの日だけのスペシャルなパフォーマンス。「亜熱帯ガール」や「甘い恋人」でカジヒデキの優しいポップが響けば、ヒダカトオルがビークル時代の「Hit In The USA」で祭を盛り上げ、ニューロティカの「…to be HARLEM」になんとBECK「Loser」のカヴァーまで飛び出したのだ！ レア感満載のパフォーマンスにオーディエンスもノリノリ！ 最後はカジヒデキが思い出深い1曲として挙げたYOUR SONG IS GOOD×ビークルの「Fool Groove」。手拍子からジャンプと天井知らずにフロアを盛り上げ、このスペシャルなイベントに花を添えた。
最後は3ピースのロックンロール・ロマンチスト、SISTER JET。あれ？なんか印象が違うなぁと思っていたら、ヴォーカルのワタルくん、キノコ・ヘアーから髪型変えたんだ。なんだかベンジーみたいでかっこいいな（「Young Pretender」のPVでチェック！）……OOPS！ どうでもいいことをつぶやいてしまったが、肝心のパフォーマンスと来れば、これはもう現在の人気がそのまま反映されたような、圧倒的で貫禄ある素晴らしいものだった。MCもなく、「To You」から先月リリースされた『ロックンロール発電所』に収録されたロック・スタンダードとも言えるChuck Berryの「Johnny B.Goode」、「さよならポケット」に「8ビートはパンク少年のもの」とクールに、鉄壁のアンサンブルから繰り出していく。ダンサブルなビートと、蒼き言葉の叙情性が満ちた甘い歌声に酔いしれるように、オーディエンスが躍っている。「Young Pretender」や「恋してクレイジー」でも女の子は失神しちゃうんじゃないかと思うほどかっこいいロックンロールを披露し、本編が終了した。アンコールではカジヒデキにヒダカトオル、FED MUSICの面々も交え大団円となったが、そこでワタルがカジに「felicityとは？」と質問をぶつけてみたところ、印象的な答えが返ってきた。“混沌と調和”……そう、この言葉こそfelicityの本質を捉えたものだと思う。ジャンル・レスなアーティストを擁する混沌がありながら、音楽を愛する想いで調和している。信頼されたレーベルとして不動の地位を築けたのは、その意志にブレがないから。今回レーベルとしては初の自主イベントが2日間行われたが、両日ともその言葉通りの幸福に溢れていた。もうすぐ設立から10周年を迎えるfelicityだが、今後もその意志のまま、愛する音楽を提供してくれるだろう。本当に素晴らしいイベントだった。