2009年07月13日

EMMY THE GREAT

今年9月2日に発売されるファースト・アルバム『First Love』での日本デビューに先駆けて行われたイギリスの女性SSW、EMMY THE GREATのプレミアムライヴ。THE BPAの「Seatle」やLightspeed Championの「Galaxy Of The Lost」にゲスト参加するなど、注目度が高まっているだけに彼女の声を耳にしたことがある方も多いはず。

今回はそのEMMY THE GREAT一人での弾き語りのショウケース。会場の恵比寿リキッドロフトは、後方のバー・カウンターまで人で溢れかえっていた。

「Easter Parade」「First Love」「MIA」「Everything Reminds Me Of You Live」など、8曲ほどを披露。MCでは多少緊張している様子も伺えたが、30分と短いながらも彼女の可愛らしい声とクラシカルでノスタルジックなソングライティングが楽しめる内容。 彼女のPVに見られるような日常のサウンドトラックのような楽曲と歌声の可愛らしさ、素朴さという彼女の魅力の一端を感じられるライヴだった。

アルバム『First Love』を全て自己資金で完成させ、自主レーベルより発売するなど自立したスタンスを持つ彼女。 その音楽性はKate Nashに続くような存在とも言えるが、その声やメロディからは想像できないような赤裸々で残酷な告白の如き歌詞をダイレクトに理解できれば、きっとまた違う感触になるだろう。 また、10月には来日も決定しており、今回の弾き語りというシンプルなスタイルでは見ることができなかった彼女の遊び心のあるポップ・センスも見ることができるだろう。アルバムとともに楽しみにしたい。


version 21.1(サカナクション/OGRE YOU ASSHOLE/the telephones)

 このイベントは2009年3月12日、金沢にあるライブハウスで対バンを終えたサカナクション、OGRE YOU ASSHOLE、the telephonesの3バンドのヴォーカルによる打ち上げでの話しをきっかけに行われたそうだ。2010年の主役になるであろうこの3バンドによるこのイベントを皮きりに、2010年の音楽界を更に盛り上げていこうという主旨のもと、ここ新木場Studio Coastには音楽を愛する若者がつめかけた。

〈サカナクション〉

 6月の蒸した空気以上に熱気で溢れた会場のフロアは開演10分前にはびっしりと人で埋め尽くされた。とてもじゃないけどライヴ・レポートのメモを取ることなんてできそうにない。自分の立つ場所を陣取るので精一杯だ。天井には直径1.5~2mはある特大ミラーボールが設置されており、新木場Studio Coastは今日も巨大なディスコのように見えている。

 DJのプレイする曲が消え、会場は真っ暗になった。「Ame(B)」が流れ、拍手と歓声の沸き起こった会場のステージにキラキラ光るネオンに照らされメンバーが入場。ヴォーカルの山口がジャンプし会場を一層盛りたてる。一旦曲が止むところでは会場は拍手で包まれ、そんなことはないとわかってはいたものの、ライヴの雰囲気に呑まれ、今日はもしかしたらここで終演なのではないかと錯覚させられた。
 ジャンプする客で会場は揺れ、そのまま2曲目、「ライトダンス」に突入。<♪明日が見えなくて>のサビの部分では客席とメンバーが一体となり大合唱となった。

 「みなさん、最後まで楽しんでいって下さい!」と山口が言い、「インナーワールド」へ。観客は会場の床を抜く気なのではないかと思うほど飛び上がっていたが、その後の「サンプル」ではさっきとは一変し、ステージを見守っている。まるで合図が出るのを待っているかのようだ。山口が手をあげタイミングを教える。「ここだ!!」と言わんばかりに再び会場は熱気を増した。
 会場が暗くなり、「minnanouta」のバスドラとシンセサイザーが会場に響く。山口がジャンプして手を挙げて盛り上げ、メンバーを紹介していく。「いくぞ~!!」の掛け声と共に会場の空気も一気に最高潮へと達していく。その勢いのまま「ナイトフィッシングイズグッド」。ジャンプしていない人はいないんじゃないかというくらい会場は一つの巨大な力を発していた。

 「ありがとう!」「どうも改めまして私たち、僕たちサカナクションです。」と、山口の挨拶でMCが始まった。この企画の始まりを話し始め、演奏の順番の話になった。「この順番ジャンケンで決めたんです。」というと会場からは驚きの声があがる。「勝って1番やらせてもらって。機材多いからさ、転換の時間待たせちゃうからさ。お客さんに楽しんでもらいたいと思って。」というと、細かいところまで配慮するサカナクションの愛情に歓喜した声が上がった。「この3バンドでやることはすごく意味のあることなんですよ。」とversion21.1の意義について語尾を強くし、「ここにいる人達はみんな、センスいいと思います。」とリスナーの大切さを語った。

 MC後は「ネイティブダンサー」、続いて「セントレイ」へと疾走した。サビに入る前などには山口が「ヘイ!!」と声を掛け、一層盛り上がる会場を引っ張っていく姿に、この企画の主旨通り、彼らが次世代を担うことを実に頼もしいと感じさせた。
 「次で最後の曲です。次もいいバンド出るんで皆さん最後まで楽しんでいって下さい!サカナクションでした!」こうして会場とサカナクションがしっかりと一つになるのを肌で感じ、最後は「アドベンチャー」で幕を閉じた。誰もが手を叩き、会場は拍手喝采に包まれた。

〈OGRE YOU ASSHOLE〉

 客電が落とされ会場が暗くなると、ステージ上から「コインランドリー」が始まった。まだステージと観客席の間を覆っていた薄いカーテンの開く前の話だ。その一瞬に観客は耳を凝らし、歓声を上げた。カーテンが開いてOGRE YOU ASSHOLEのメンバーが顔を表す。観客は縦に体を揺すって応える。目を瞑っていても、彼らの動きに目をやっても、確かなグルーヴを感じた。私自身、心地よくて心がうっとりし始めた。気が付くと、始まったばかりなのに、すでにOGRE YOU ASSHOLE が作り出す統一された空気の一員となっている。

 「フラッグ」「しらない合図しらせる子」と続き、観客は“ノル”というよりも、1つ1つを“噛みしめて”聴いている。ドラムの勝浦はタムを中心に落ちついたリズムを生み出し、そこへ平出のベースラインが加わり、道を切り開いていく。その道に、ギターの馬渕が花を咲かせ、出戸がその道を歩く。見ている側の頭にはいつの間にか情景が浮かび、心にはこれ以上ないくらいの愛しさが溢れる。それに応えるこのように、OGRE YOU ASSHOLE は4人のバランスをとって全てに徹した演奏を魅せる。
 4曲目の「J.N」では照明が暗い青に照らされ、それぞれが深いところからメロディを運び、勝浦がロールでアップテンポへと一気に導く。ステージの上の4人に、そして彼らによって生み出されたメロディを目の当たりにし、誰もが皆釘付けになっていた。

 「どうもありがとう。」という出戸に盛大な拍手が贈られる。「え~こんばんは。OGRE YOU ASSHOLEです。」の言葉に続き、このイベントの発端について話し始めると、先ほどのサカナクションの山口のMCですでに周知になっている客の反応の薄さに、「もう、みんな知ってんのか!(笑)」と笑いを誘う場面もあった。フロントマン3人での打ち上げの際、このイベントを6月にやろうとなったが、レコーディングと重なるため、当初は時期を変更して欲しかったと明かした。しかし「ここでOGRE YOU ASSHOLE がやらなきゃ僕らもやらない。」と山口、石毛に熱く諭され、「僕らどんだけ愛されてんだ。レコーディングで断念しようとしてたけど、死んでもやるしかないなと、やってやろうじゃないかという気持ちで来ました。」というと会場からはそれを受けた観客から拍手と声援が飛んだ。「今日はうまくしゃべれたよ僕も。」そういって締めた出戸のMCは今回このイベントへのOGRE YOU ASSHOLE 自身の意気込みを強く語った。

 MC後は「サカサマ」「アドバンテージ」「かたっぽ」「ピンホール」と続き、照明が初めて全開に照らされた会場、そしてOGRE YOU ASSHOLE 自身も最高潮へと達していった。
 「どうもありがとう!またこの3バンドでやりたいね!今度は僕ら以外がレコーディングの時にやりましょう!(笑)」そのままドラムの重く深いエイトビートでひとり乗りが始まり、今まで以上にステージの上も下も高揚していく。「ネクタイ」ではエフェクターの拡張音に誘われて会場の雰囲気は引き立てられ、ステージの上は夢幻のように幻想的になった。最後という獲物に向かって、OGRE YOU ASSHOLE は音を空気を、そこに居合わせた全てのものを追い込んでいく。
 OGRE YOU ASSHOLEはそれぞれが音を生み出すことにストイックであり、彼らによって生み出された音楽は何にも劣ることなどない。世の中に完璧というものなんて、ないのかもしれない。しかし、その言葉はOGRE YOU ASSHOLEに向けて使うのに相応しい。彼らは本当に音楽と目の前にいるリスナーを愛していた。

〈the telephones〉

 2つのバンドが演奏を終え、会場はこれまでにない熱気に包まれていた。DJブースの前には興奮冷めやらぬ客達がそれを囲むようにして、今か今かとトリの登場に心と体を躍らせていた。
 DJの曲が止み、ステージ上のスクリーンには大きいミラーボールを後ろにして「the telephones」の文字が映し出される。それを目にした会場は一気に冷静さを失った。薄いカーテンが開き、白いミラーボールが映し出され、キラキラと回る。そこへ、黄色、青、赤といったアフロヘアでthe telephonesは登場し、観客の前にいくと手を挙げて挨拶をする。会場は始まったばかりとは思えないほど、全ての人が手を叩いて応える。

 「Oh!yeah~!」「We are the telephones!!」「最後まで楽しんでいきましょう!「Love&DISCO」の演奏開始と共に会場も、トップギアの状態でスタートした。「踊れ~!!!」という石毛の指示を受け、会場は今までにないくらいの盛り上がりをみせた。ジャンプし地面が揺れ、モッシュが起こる。最初からテンションがマックスなのはthe telephonesも観客もお互い様だ。最初から飛ばしすぎではないか、いや、これが彼らなのだ。彼らに飛ばしているなんて感覚はきっと微塵もないだろう。石毛が歌詞の合間に「新木場~!」と叫びを入れる。新木場バージョンのthe telephones、楽しすぎる!キーボードのノブも演奏の間ごとに大暴れし、華奢の体でこんなに暴れて大丈夫なのかという不安もすぐに掻き消される程、その動きは止まらない。今、この会場の勢いは誰も止まらなければ、誰にも止められない。気が付くと、2曲目の「RIOT!!!」から一気に「Monkey Discooooooo」まで突っ切っていった。
 次の「Beautiful Bitch」ではギター・サウンドがアグレッシヴさを増した雰囲気の中、客との掛け合いやコーラスが始まる。途中、「ストップ!!」という合図で会場は一瞬静止したり、また、手を挙げた石毛が「新木場そんなもんじゃね~だろう!」「オー!エヴリバディ・カモーーン!!!」というと会場は狂ったかのようにモッシュやダイヴで揺れた。次の「electric girl」へと続くが、the telephonesはこれだけの観客とこれだけの会場のテンションを止めることなく上げ続ける。彼らはまさにモンスター・バンドだ。

 「こんばんは。埼玉の北浦から来ました、the telephonesです。」という自己紹介からMCがスタート。やはり石毛もこのイベントの主旨を訴え、「必要なのは、ここに来てるみんなの力が必要だと思うんですよ。一郎さんも言ってたけど、ここにいるみんなは本当にセンス良いですよ。」とお互いの必要性と感謝を述べた。「2010年代を担ってよと、アホかと思う次第です。でもみんな音楽大好きだし、いっちょやっちゃおうかなと思います。」とversion21.1から先へ広がる未来への意気込みも話した。また、7月にアルバムを出すことを発表すると会場からは歓喜の声が沸き上がった。

 「新曲です。」と言って始まった「Jabberwocky」で再び会場を熱気の渦へ引き戻した。その後、「fu~shit!!!」から最後の「urban disco」までに、彼らは会場内にいる全ての人をthe telephonesの虜にしてしまった。
 全曲が終了し、「また会いましょう!サンキュー!バイバイ!!」と言い、ステージから彼らは居なくなった。しかしまだまだ熱気に溢れ返った会場からは、どこからともなく、「アンコール!!アンコール!!」の声、そして大合唱が沸き起こる。

 2分くらい経っただろうか、彼らはステージに舞い戻って来た。石毛が「アンコールありがとうございます。すげぇ嬉しいです。ORGEとサカナクションにもう一度でっかい拍手を!」というと温かい拍手に会場は包まれた。音楽が本当に大好きなこと、音楽以外ではうまくいかなかったことなどを話した後、「今とてもハッピーです!このハッピーなバイヴスをみんなで共有しましょう!!」と今の気持ちを語り、「フリースロー!!!!!!!!!!!!!」と叫んだ。彼の素直な言葉に打たれながら、観客もそしてthe telephones自身も最後の曲を思う存分味わった。

 the telephonesのアンコールが終了し、ステージから撤退するかと思いきや、石毛が「え~、今日は記念すべきなので、みんなで写真など撮ろうと思います。撮りたい方はぜひ写真を撮って下さい、とのことです。」と言い、ステージにはサカナクション、OGRE YOU ASSHOLEのメンバー、そしてDJを務めた前田氏とコジマ氏が登場した。
 客席は携帯を取り出し、両手を挙げて必死にその光景を納めようとしているお客さんで溢れた。「また、来年このメンバーでやるんで、遊びに来てください!」とこのイベントの再来を約束をし、最後に「一本締めしていい?」「2010年度を担う、この3バンド!!お手を拝借、よ~(パン)!!」ときりの良い終わりを飾った。今回、このイベントは2010年を担う3バンドが集り、期待と興奮を背負う中、開いたその幕の中には、紛れもない存在感とパワー、そして客を惹き付けて止まない音楽センスとカラフルで懐の深いメンバーの人間性が充満していた。
 2010年という区切りと始まりに向かって、音楽をやる側も聴く側も、双方がお互いの存在の不可欠さを改めて意識し、繋がりのあることをしっかり受け止めた。出演したサカナクション、OGRE YOU ASSHOLE、the telephonesはもちろん、会場に来たお客さん、DJやスタッフ、彼らの誰が欠けても、きっとこのイベントは成功とはいえなかっただろう。今日、ここ新木場Studio Coastに集まった彼らであったからこそ、このイベントは意味を持ち、音楽の未来を広げ、成功を手にしたに違いない。

2009年07月06日

浅井 健一

開演30分ほど前に昭和女子大学人見記念講堂に到着すると、雨が降りしきる中、多くのファンが列をなしていた。普段はクラシック・コンサートや演劇がメインとなる全席指定のこの会場でどのようなライヴを行うのか、集まった人々の期待もかなりのものであっただろう。

さて、最初から話が少し逸れて申し訳ないが、50代くらいの男性のロック好きの方とお話をした時に「今のライヴはけしからん!」という話になった。何がどうけしからんのかを訊ねると、「昔は皆席に座ってじっとライヴを聴いて、それでもやっぱりじっとしていられなくなって、我慢の限界というところで皆が立ち上がるのがいいんだ!」と。
時代を感じますね。でも、そういうライヴの見方も面白いかもなと感心したものだが、さすがに生まれてこの方、スタンディング・ライヴに馴れきっているし「このご時世にロックでそれはなかなか難しいですよ。立って踊っていた方が楽しいじゃないですか。」と話は平行線を辿った。

椅子に座ってライヴを観たのは、去年、丸の内のコットンクラブという高級ライヴハウスにチケットが余ったからと連れて行ってもらったのが最後だ。楽しかったけど、ロックじゃないし、あれはもう「音楽鑑賞」だからな。ちょっと今回とは意味が違う。
で、その前は2006年のTHE ROLLING STONESの来日公演だ。まあ、当然立って観ていたけど。座ってなんていられないでしょう。一緒に行った奴なんて、2階席からステージ脇まで突進して行ったし。
という訳で、今回の人見記念講堂という環境で行われる浅井健一のライヴ。どういう反応をお客さんが見せるのかにも注目していた。例えば、野音とかとはまた場所が違うから、最初は座って観たりするのではないかと思っていたのだ。それはそれで新鮮な楽しみ方ができるんじゃないかと。
会場に入り、正面のステージを見ると特に装飾もなく、バンド・セットが組まれただけのシンプルなもの。
しばらくしてから客電が落とされ、SEとともに浅井健一が登場すると、それまでは席に座っていた一階席の観客のほとんどが立ち上がり、大きな歓声とともにベンジーを迎える。
・・・そうだよね。そりゃ、座ってなんていられないか。僕の愚問には一瞬で答えが出てしまった。

さて、本題に入ろう。
暗闇の中、スポットライトに照らされたベンジーが「2人の旅」を歌いだす。どこか憂いを帯びたベンジーの歌声とヴァイオリンが醸し出す緊張感が場内に伝染していく。
ライヴ序盤で特徴的だったのは、ドラムが前面に出た演奏。ギターでもベースでもなく、その場の空気を張り詰めさせるような硬質なドラムがバンドを引っ張っていく。
「ヘッドライトのわくのとれかたがいかしてる車」の持つスリリングな緊張感は、まさにその序盤を象徴していた。(個人的に大好きな曲なので、この曲をやってくれたのはとても嬉しかった。)
続いて、「チェリオメアリー」、ツインギターとヴァイオリンが絡み合う「RUSH」とヘヴィなベースがうねるグルーヴ感のある楽曲へ。そして「ライラック」をベンジーが歌いだした瞬間に、会場の空気が最初の沸点をむかえる。
「ライラック」の爆発的なアウトロが終ると、「サンディ」から「僕は愛する為に生きるんだ」と歌う繊細なバラード「新しい風」、アコギに持ち替えての穏やかな新曲「FRIENDLY」「大きな木」「哲学」とテンポ・ダウンしつつ、序盤の張り詰めた緊張感から新曲「FRIENDLY」に代表される、優しい表情へとゆっくりその世界観を変化させていく。
ベンジーとヴァイオリン岡村美央二人での「哲学」は、この日のライヴに様々な表情を加えていた岡村美央の表現力の幅広さが際立っていた。
「SPRING SNOW」では、先ほどまでの硬質なビートではなく、柔らかく刻まれる8ビートを刻むドラムも印象的。
しっかりとした流れを作りながら世界観を変化させていくこの日のライヴの核とも言えるのが、新曲を中心に据えたこの中盤だったと言えるだろう。ファンタジーの世界で愛と平和を表現するだけではなく、どちらかというとシンプルな言葉で愛と平和を歌う今のベンジーの声は、とても穏やかで優しい。
「愛のChupa Chups」からはギアを入れ替え、「危険すぎる」での熱狂までロックンロールで突っ走る。
「ロバの馬車」を挟んでの「ディズニーランドへ」、そして軽やかな「Pola Rola」が終ると、大歓声の中バックに星空が浮かび上がり、本編が終了。
ロックンロールの持つ爆発的な高揚感が物語の緊張感を保つ為に配置された構成に加え、まるで物語の中で登場人物が変わるように楽曲によって個々のプレイヤーに焦点を当てていくことで、ライヴに確固とした起伏を与えていた。そして、それに応える確かな技量と表現力を備えたバンドも素晴らしかった。

ロックンロールで物語を紡いでいった2時間ほどの時間は、全く長く感じられなかった。もちろん、観客からはベンジーとバンドを称えるアンコールの拍手が鳴り響く。しっかりとした物語性のあるライヴだっただけに、アンコールはないんじゃないかと思っていたが、最終的には2回もアンコールに応えたベンジー。
その楽しげな様子が伝わってくる姿が象徴するように、とても内容の濃いライヴだった。

2009年06月21日

DEERHUNTER & AKRON/FAMILY Japan tour 2009

DEERHUNTERとAKRON/FAMILY。音楽性は異なるが、どちらも新たなシーンの担い手として注目を集める2バンド。その期待の高さを示すように、チケットは完売、超満員のO-WEST。結論から言ってしまえば、この原稿の為に時々メモをとっている自分がアホくさくなるような素晴らしい一晩だった。

まず、DEERHUNTERのVo&Gt、Bradford Coxのソロ・ユニットATRAS SOUND。音をどんどんループさせ重ね合わせていく、幻想的なライヴ。

続いて、AKRON/FAMILY。正直な話をすると、僕はAKRON/FAMILYの最新作『Set' em Wild, Set' em Free』はあまりピンときていなかったし、フリーフォーク・シーンの1バンドという程度の認識しか持っていなかった。
セッティングの段階からやたら陽気なメンバー。ステージでお香を焚いてから、ライヴがスタート。技術的にはもちろんだが、構成からフロアの煽り方まで、とにかく巧い。どれだけの数のライヴをやってきたんだろう。序盤、しっかりと音の強弱をつけたメリハリの効いた演奏から生まれるグルーヴが心地よい。特に、最小の音でこそ、グルーヴが生まれ、増幅していく感覚は、新鮮だった。「River」もジャム・バンドがお囃子を取り入れたような「The Alps+Therir Orange Evergreen」も音源の何倍もグルーヴィ。フロアが暖まったところで、「Gravelly Mountains Of The Moon」「Ed Is A Portal」あたりでは完全なパーティモード。メンバー全員で打楽器を打ち鳴らし、笛を吹き鳴らし、満場のハンドクラップだけでシャウトをかまし、フロアはカオスな祝祭空間と化した。その後は、ハードロック・バンドにもなれば、フリークアウトしたハードコアにもなる彼らの懐の深さにひたすらやられまくる。そして、ラストは3人が並んでのアカペラ「Last Year」。まさに、祭が終るあの感じである。
最初に書いた僕のAKRON/FAMILYに対する認識は完全に誤りだった。彼らの自由さと懐の深さが生み出すエネルギーは並大抵のものではない。ネットをウロウロしていたら、この夜には、12日にある東京のライヴ・チケットは売り切れたらしいが、それも納得だ。次は野外で観てみたい。

そして、続いて登場したニューゲイザー・シーンの一角を担うDEERHUNTER。実は、先に行われた単独ライヴに行った知人が、その素晴らしさを何度も力説していたので、かなり期待をしていた。多彩な音階がシャワーのように降り注いでくる向こうから、VoのBradford Coxの歌声が一つの楽器のように響いてくる。隙間なく音が埋め尽くされながらも、音の壁というよりはどこか半透明な靄のような音像をタイトなドラムが支えていく。そして、「Never Stops」や、この日はアンコールで披露された「Agoraphobia」などのどこか奇妙な味わいを持つポップソングも彼らの持ち味。
『Microcastle』の中でも、もっともストレートなナンバーである「Nothing Ever Happened」。僕も好きなポップな楽曲だ。ところで、この曲に代表されるようにドラムがカチッとしたリズムを刻むところが、他のシューゲイザー・バンドにはあまりない一つの特徴でもある。ただ、その生真面目なドラムが捩れを矯正してしまうととるか、いいバランスをとっていると感じるのかは好みが分かれるところだろう。個人的には、ライヴで聴いてみると、もう少しグニャグニャに捩れていた方がぶっ飛べるんじゃないかと感じた。 だが、その直後の「Microcastle」から、後半に進むにしたがって、いびつで美しい音像が生々しく、どこか痛々しさすら感じさせるものになっていく。それに合わせて、どんどん引き込まれていき、視線を外せなくなってしまった。それはきっと、Bradford Coxの音楽を奏でることで、自分を発見して欲しいと願っているような切実さに起因している。 アンコールでのMCでも、彼は英語で喋りながらも、あの場所にいる日本人に向けて感謝と日本への愛着を話していた。その場にいた外国人やAKRON/FAMILYのメンバーが英語で答えても、今は英語はいらないと拒絶してしまう。その態度もやはり誠実を通り越して、切実なのだ。その切実さが、彼が抱える病からくるものなのかどうかは分からないが、一期一会を渇望する彼の意思が、DEERHUNTERの音楽にさらなる魔法をかけていることは間違いない。

AKRON/FAMILYの肉体的で共同体的なコミットを生み出すライヴと、反対に一人ひとりの脳内に入り込み、一人一人とのコミットを図ろうとするようなDEERHUNTERのライヴ。この二つを一度に体験できるとは、なんとも贅沢な夜になった。

2009年05月18日

KEANE

2004年のデビューアルバム『Hopes And Fear』は新人ながら初登場一位を獲得し、瞬く間にイギリスの国民的バンドとなったKEANE。最新作『Perfect Symmetry』は、デビュー当時のサウンドから一転し、80’sのエッセンスが随所に散りばめられ、大合唱出来るというよりは、ダンサブルな曲が中心のアルバムとなった。

2006年にSUMMER SONICに来日する予定だったものの、Tomのドラッグ問題により出演中止となり、ファンはとても悔しい思いをしたことだろう。しかし、この度念願の単独来日を果たし、SUMMER SONIC’09にも再び出演することが決定している。ライヴ前にRichardにインタビューをしたのだが、Tomの問題に決着がつき、現在バンドは健康的なメンタリティーの元に活動を行っているとの言葉を聞くことが出来、安心した。
ライヴ会場は、年齢層の幅広さが目立つ。いかにも会社帰りという感じのスーツの人も多くいた。KEANEの音楽性はボーダーレスな楽しみ方が出来るし、納得の客層だ。

『Perfect Symmetry』から「The Lovers Are Losing」から幕が上がる。Tomはとても健康そうで、大きな手振りで元気にステージを行き来する姿が頼もしい。声もよく伸び、安定た実力を見せてくれている。



この日のセットリストは、『Hopes And Fears』から6曲、『Under The Iron Sea』から5曲、『Perfect Symmetry』から7曲と、偏ることなく全ての作品からチョイスされていた。『Perfect Symmetry』は前2作と比べるといささか音の質感が違う作品だが、こうしてライヴで聴いていると、前2作の曲群と並べても違和感がないし、ダンサブルなリズムがうまい具合にアクセントとなっている。特にKEANE新機軸の最骨頂とも言える「Carry On」は、『ラビリンス~魔王の迷宮~』時のDAVID BOWIEを彷彿とさせ、フロアの反応はいまいち良いとは言えないものの、今までに見たことがないKEANEの新たな一面を十分に堪能することが出来た。「Somewhere Only We Know」では「待ってました!」とばかりの大大大合唱大会。後半はTomの声がだんだん息切れしてきたものの、エネルギッシュな演奏が彼を支え、Tomは自分を奮い立たせるように、最後の最後まで全力で歌い上げた。終始笑顔の絶えない、温かい雰囲気の中ライヴは終了。帰路に着き、眠る瞬間まで、ほっこりと穏やかな気分でいられたことは言うまでもない。

2009年05月12日

WHITE LIES

アルバム『To Lose My Life』を引っさげ、二度目の来日となったWHITE LIES。会場となった原宿アストロホールは、開演する頃には、ほぼ満員状態。

そんなフロアに煽られるように、「Farewell to the Fairground」でスタート。疾走感と高揚感のある演奏でフロアを引っ張っていく。Hurryの伸びのある、力強いヴォーカルは、アップリフティングな曲、バラードとも、しっかりと響いていたし、ライヴを楽しんでいる様子が伺える。そして、畳み掛けるように、「To Lose My Life」。 時折、ベースのCharlesが手拍子を煽りながら、フロアとのコミュニケーションをとっていたのが印象的。翌日のインタビューでも聞いてみたが、かなり楽しんでいた様子だった。 「From The Stars」「A Place To Hide」、そして、彼らのテーマソングとも言える「Unfinished Business」という流れで、最初のピーク。深遠なオルガンシンセのイントロから、徐々に高揚感へと繋がっていくこの曲独特の世界観がしっかりと表現されていた。 ただ、バラードでは、もたっとしたドラムが少し気になったし、今の段階では、疾走感のあるアップリフティングな曲の方が、ライヴ映えするのも事実。これから、バラードの世界観がライヴでも磨かれて、光と陰の両面がくっきりと浮かび上がるようになれば、さらに奥深いライヴが観れるはずだ。 それでも、この日のライヴが充実していたことに変わりはなく、フロアもバンドも楽しんでいる雰囲気がフロアに満ちてきたライヴ終盤「Nothing To Give」「Death」では、自発的に手拍子が起こるほどの一体感が生まれていた。

終演後もしばらく拍手が鳴り止まないフロアが、短い時間ながら、濃密なライヴだったことを示していた。二年連続のフジロック出演も決まり、苗場でどんなステージを披露してくれるのか、楽しみだ。 

2009年04月10日

9mm Parabellum Bullet

9mm Parabellum Bullet初のライヴ映像作品、『act I』リリース当日の4月1日、原宿の代々木公園内にてフリーライヴが行われた。ちなみにこのDVDは、日比谷野外大音楽堂ワンマン、Zepp Tokyoワンマン、そしてライヴハウスツアーの、3種類のライヴ映像で構成されているもの。ファン必須の新たなアイテムとなるだろう。

小雨が降ったり止んだりはしていたものの、ライヴ直前には空も晴れ、暖かい空気があたりを満たしている。ステージ前方部分は当然混雑するため、ファンには事前にチケットが配布されていた。もちろん、後方部分にも物凄い人だかりが。菅原卓郎は、ブログにて「フリーライヴなのに客が6人しか来ない」という悪夢を見たと書いていたが(笑)、そんなことあるわけがない。多分このライヴに来た人の人数は、1万人近かったのではないだろうか。そして男性ファンが女性ファンと同じくらいの比率でいることにびっくりしたが、よく考えてみれば、男性特有の繊細さとアグレッシブさの両方を併せ持つ9mmだ。これだけ多くの男性ファンがいることも確かに頷ける。

代々木公園は花見の季節ということで、焼きそばやたこ焼きなどの屋台もたくさん出ており、ちょっとしたフェス気分だ。通行人も、なんだなんだという感じでステージに注目している。

メンバーが登場すると同時に大歓声が響き、私のいた後方部分も後ろからどんどん人が押し寄せてきた。「Vampiregirl」が始まると、菅原卓郎の魅力的な歌声に合わせて合唱が起こり、ファンは人差し指をステージに向けてピョンピョン飛び跳ねる。筆者にとっては初9mmだったのだが、のっけからファンのパワーに圧倒されてしまった。「Keyword」が終わると、菅原卓郎によるMC。「フリーライヴへようこそ!桜が満開だね・・・全然満開じゃねーよ(笑)。DVDが出ました。思う存分冷やかして帰ってくれ。」とのこと。

続く「Wonderland」では、後方部分にもモッシュピットが出現!かみじょうちひろの素晴らしい2バス連打が炸裂。2バスに合わせてファンもモッシュモッシュ!

そして本日のハイライト。なんと新曲が初披露された。リズムが印象的な曲で、踊れる踊れる。音源化されるのが楽しみだ。

そこから最後の最後まで、バンドもファンもハイテンションのまま突っ走り、「Discommunication」で大団円。アンコールはなかったが、誰もが大満足のセットリストだっただろう。数日後にはPUNK SPRINGという大舞台が待っていた9mmだが、何万人という観客がいても、どんなに対バンが豪華でも、圧倒的な実力と独特の世界観で、開場をノックアウトしてしまったことは間違いないだろう。

2009年03月30日

THE PRODIGY

新作「Invaders Must Die」リリース間近、渋谷AXでの一夜限りのスペシャルライヴ。チケットは即ソールドアウトなだけに人口密度がとても高く、真冬なのに湿度が高い。

THE PRODIGYの功績は計り知れない。現在ロックとダンスミュージックをクロスオーバーさせたアーティストの音楽体験の源には必ずTHE PRODIGYがいると言っても過言ではない。そして最新作「Invaders Must Die」は、今までの作品の中でも一際アグレッシブな作品だ。ダンスミュージックファンも、ラウドロックファンも、パンクロックファンも、全て飲み込んでしまう強烈な作品だ。当然今夜のライヴで新曲が披露されることが予想されるので、当然期待で胸がわくわくし、足がウズウズする。とにかく踊りたい!

オープニングアクトは、Keithのプライベートパートナーでもある、GEDO SUPER MEGA BITCHによるDJ。基本的にはミニマルテクノだが、要所要所にアゲどころを持ってきており、聴いていてとても気持ちいい。既にステージには様々なライトが照らされており、最早クラブのような状態だ。

30分弱押して、ようやくメンバーが登場。「Invaders Must Die」に収録されており、ライヴではしばしば披露されてきた「Worlds On Fire」からスタート!フラッシュが焚かれ、空気に熱が増す。メンバーとオーディエンスのエネルギーのぶつかり合い、テンションが天井に向かって、龍のように昇っていく。MaximとKeithは時折向き合いながら、互いを高め合っていっているように感じた。「There Law」「Breath」と立て続けに人気曲が披露され、あまりに高まるテンションに、Maximがフロアに水を浴びせかける。

しかし今回は生ドラムがあまりに強調され過ぎており、あまり打ち込みとのバランスが良くないのが少し残念だ。早くこのバランスが改善されればいいのだが。

そして「Invaders Must Die」からシングルカットされ、アルバムと同時にリリースされる「Omen」。まだリリース前だというのにも関わらず、フロアは大合唱。この曲のキックのアクセントは独特で、Liamのプログラミング技術の計り知れない高さを垣間見ることの出来る曲だ。「Poison」「Warrier’s Dance」と続き、「Firestertar」ではKeithの一人舞台となり、新しいアレンジがなされていた。「Run With The Wolves」は、音源ではFOO FIGHTERSのDave Grohlがドラムを叩いている曲なのだが、なんという攻撃性。踊りながら頭が真っ白になってしまった。ラウドロックファンには特にお勧めしたい一曲だ。

「Voo Doo People」でMaximが再び登場。メタリックなリフと高速のBPMが特徴的な、リズムがブレイクしまくった名曲だ。ここで本編は終了し、間髪入れずにアンコール!「Invaders Must Die」、「Diesel Power」「Smack My Bitch Up」、「Take Me The Hospital」と、アンコールにしてはあまりに豪華な内容。

そして更に、筆者がTHE PRODIGYで一番大好きなナンバー「Out Of Space」!殺す気ですか!というほど楽し過ぎて、踊り過ぎて、足がガクガクしてしまった。KeithとMaximのアジテーターとしての存在感は相も変わらず圧倒的で、Liamもとても楽しんでライヴを行っているのだということが、終始その表情から伝わってきた。


今までの作品からの類稀なる名曲の数々に、「Invaders Must Die」から披露された曲は一ミリも劣っておらず、むしろ更にアグレッシブで新鮮な感動に満ちていた。「Invaders Must Die」は、PRODIGYの名を更に歴史に名を刻む名盤として語り継がれるだろうとういうことが予測出来る、素晴らしいライヴだった。

2009年03月29日

cro-magnons

「FIRE AGE '08-'09」と題された今回のツアーは、クロマニヨンズにとって最大規模。全国のライヴハウスを駆け巡った後にホール公演へとなだれ込む、という、ノンストップ雪だるま式のロックンロール・ツアーである。約4か月もの間、日本列島を加速しながら転がり続けるクロマニヨンズは、終盤に差し掛かった2/9の東京公演でも、会場に集まったぼくら猿人の心臓に火をつけてくれた。

会場の渋谷C.C.Lemonホールは、開演前から真っ赤なツアーTシャツに身を包んだ人たちでいっぱい。全席指定であるにも関わらず、場内の空気はライヴハウスに近いものを感じる。なにしろ前説の人が舞台に上がった時点で、すでに一部の人たちは拳を突き上げ「ウオー!」である。これからステージ上で起こる全てのことに、自分たちを賭けようとしているのだ。バンド登場前から、こんなにも熱を感じるライヴは久々である。

前説の「ザ・クロマニヨンズ!!!」というシャウトとともに4人が登場。SEはTHE DOORSの「Light My Fire」のインストだ。ステージのバックには、煌々と光る炎のオブジェが散りばめられている。アルバムやツアーのタイトル、SE、そしてオブジェ。4人がこれから「炎」をコンセプトに、燃え上がっていくことが分かりやすく伝わる。ヒロトは、ゾンビみたいに手をぶらぶらさせながら臨戦態勢。そしてマーシーは、いつものバッチリきまったバンダナ姿で、静かにギターを持ち上げる。あまりにも絵になる2人。きっと20年以上前からこうなのだろう。

一曲目、「ゴーゴーゴー」でライヴスタート。初っ端から、突き抜けるような高速パンク・ナンバー。性急なビートながら決して前につんのめることのない、ドラム桐田とベース小林のリズム隊に、あのカラッとした音色が独特な、マーシーのギターがジャキジャキと乗っかってくる。年々声が若返っているのではないかと思うほど、高音でハジけるヒロトのボーカル。盛り上がらないわけがない。早くも場内はデッドヒート状態である。

しかし、凄いのはここからだ。二曲目以降も、フルスロットルのパンク・ナンバーを立て続けに連打したのだ。「エイトビート」、「ぼうふら」、「独房暮らし」。新アルバム『FIRE AGE』の初頭に収録されたこれらの一撃必殺ナンバーを、余すところなく再現。MCも曲のタイトルを一言叫ぶだけで、ひと休みもへったくれもない。次の「ギリギリガガンガン」で速度が限界まで引き上がり、軽くめまいを覚えるまでパンク・ナンバーの応酬は続いた。

ようやく、ヒロトによる長めのMC。真っ赤な「FIRE AGE」と書かれたツアータオルを指差して、「みなさんご覧のとおり、この水色のタオルにはC.C.Lemonと書いてありまーす」。場内爆笑。さらにC.C.Lemonネタは続き、ステージのバックに掲げられたツアータイトルを指差して、「あそこにもC.C.Lemon」とか、しまいには「今日はみなさんお酒を一滴も飲まずに、C.C.Lemonを飲んで楽しんでってくださーい」。固唾を呑んでヒーローの言葉を待ちわびていたファンを、笑いの渦で煙に巻く。さすがヒロトである。

6曲目からはテンポを少し落として、新アルバムから「ニャオニャオニャー」「自転車リンリンリン」を披露。アルバムの構成と同じような流れにしているのは、リリース後のツアーならではだ。次の「スピードとナイフ」は、現時点でクロマニヨンズ最大のアンセムと断言していいほどの名曲。モータウン調の跳ねたビートに、ヒロトしか作り出せない哀愁のメロディーが絡みつき、胸に突き刺さってくる。これまでパンク・ナンバーで暴れまわっていた人たちも、この曲はビートにあわせて、歌うように踊る。個人的に、この日のハイライトともいえる1シーンだった。
その後は、新アルバムの曲と過去の曲を織り交ぜたセットで続いていくのだが、なんといっても白眉は12曲目、「くじらなわ」。曲が始まる前に、ヒロトが前方のお客さんと何やらヒソヒソ話をしていたので、何が行われるのかと思いきや、曲中にお客さんの名前を歌い上げるという まさかのアドリブ!三文字の名前を探していたヒロトに、「にしだ!」と苗字を叫ぶ人もいたりで大爆笑。ステージと客席の距離を一気に近づけるこのアドリブは、貫禄のなせる技といったところか。

マーシーが楽しそうにリズムを刻む、ゆったりしたレゲエ・ナンバー「海はいい」、そしてアルバム未収録のナンバー「渋滞」などを経て、「レッツゴー宇宙」へ。照明が暗くなってヒロトがタコ踊りを披露する、ミもフタもない宇宙の演出。「1.2.3.4!」の掛け声とともに演奏が爆発する様はまさに見物、コンセプチュアルなクライマックスだ。

そう、クロマニヨンズというバンドの持つコンセプトは明確である。それは、この50年間ですっかり垢がついてしまったロックンロールというアートフォームに、再び原始的で宇宙的な力を取り戻す、というものではないだろうか。アンコール前に披露された、桐田が呪術のように叩きまくる怒涛のドラム・ソロを見ても感じたことだが、様式に囚われてがんじがらめになったロックンロールを開放するような力がこのライヴにはあった。薄曇った複雑な世界の住人であるぼくらの視界をクリアにし、生まれたての猿人並みのフレッシュな感性にしてくれるからこそ、ロックンロールは最高なのだと。実はブルーハーツ時代から、ヒロトとマーシーのロックンロールは元々そういったコンセプトの上に成り立っていたのではないかと思う。20年以上の活動を経て、そのコンセプトを今なお一層ラディカルな形で提示できる2人は、いや、クロマニヨンズは、日本の誇る極上のロックンロール・バンドである。

「レッツゴー宇宙」の後は、再び音速のパンク・ナンバー乱れ打ち、本編のシメはやっぱり「タリホー」!マーシーが弦にピックをキリキリキリっと走らせる音は、無敵という他ない。そしてアンコール、最後の最後は「クロマニヨン・ストンプ」で座席も吹っ飛ぶ大騒ぎ。最高。C.C.Lemonホールが燃え上がったよ!

2009年03月28日

RAZORLIGHT

RAZORLIGHTの新作「Slipway Fires」は、前作までのサウンドとはかなり違うものになっており、皆かなり驚かされたことだろう。ヴォーカルのJohnny Borrellは「Slipway Fires」がリリースされるまでの間、ハリウッド女優とのスキャンダルなど、何かとメディアを賑わせてきていた。故に派手な印象を持たれていたが、そんな印象からは想像もつかないほど内省的で静謐な美しい作品となった。この新曲郡がライヴではどのように響くのだろうか。

会場に足を踏み入れると、「MAKE the RULE」地球温暖化防止キャンペーンのブースが設けられていた。私も早速署名。後のインタビューでは、BjornとCarlも環境保護への思いについて熱く語ってくれた。結果的に230名ほどの署名が集まったそうだ。

フロアへ移動し、すぐにライヴがスタート。一曲目は「Golden Touch」。Johnnyの歌、演奏共に大変安定しており、最早ベテランの風格だ。あまり派手に動くことはないものの、感情がきちんと込められている演奏は、聴いていてとても安心するし、自然に陶酔してしまう。

そして「In The Morning」。跳ねるリズムに印象的なギター、ポップな歌と、前作「Razorlight」では一番、クラブで多くプレイされていた曲。そこから畳み掛けるように、「Dalston」。Johnnyがギターを変え、「Tabloid Lover」へ続く。この新曲は、アルバムでの印象とはちょっと違い、ライヴでは大変エキサイティングに響いている。そして難しい歌もなんなくこなすJohnnyのヴォーカリストとしての成長を垣間見た瞬間だった。
そして、RAZORLIGHTの曲の中でも、一番といっていいほど打つ美しい名曲「America」が始まった途端、フロアは大合唱し、彼らを称えた。
そこから、流れるように「Before I Fall To Pieces」へ続き、「Vice」ではAndyとのコーラスが絶妙に絡み合い、「Hostage Of Love」ではJohnnyがタンバリンを片手に、詩人のように、語り掛けるように歌う。この曲が本日のライヴのハイライトといっていいのではないだろうか。

ライヴは順調に穏やかに、時にエキサイティングに進行し、「Wire To Wire」、そして「Rip It Up」で終了。ほどなくアンコールが始まるが、このアンコールがかなりサービス精神旺盛な内容で、6曲が披露された。特に新曲の「Burberry Blue Eyes」が映えており、これからクラブでかなりプレイされる予感がした。

自信に満ち、豊かな感情表現で圧倒させるヴォーカリスト、Johnny Borrellの存在感、カリスマ性はやはり別格。そしてBjorn、Carl、Andyは、派手なパフォーマンスこそしないものの、時に笑顔で、余裕の風格で演奏を支えていた。
「Slipway Fires」での、予想と違うサウンドに驚かされたファンも、是非ライヴで収録曲を聴いてほしい。また違った曲の表情が見れるし、更にこのアルバムが好きになることは確実だ。