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WRITERS' COLUMN

編集部 山元 翔一の『ワイルドサイドを歩け』

2016年01月号掲載

編集部 山元 翔一の『ワイルドサイドを歩け』

2015年が終わり新たな年がまた始まる。恒例の年間ベスト企画のため1年を振り返り、10枚のベスト・ディスクとベストMV、ベスト・アートワークなどを選出したが、当然ながら誌面スペースの都合上、紹介しきれなかった作品やアーティストがたくさん存在した。せっかくなので、2015年、その活動で非常に意味のある存在感を示したにもかかわらず誌面では扱えなかったYEN TOWN BANDについて書いていきたい。
 
YEN TOWN BANDは、"リリイ・シュシュのすべて"や"花とアリス"といった作品でも知られる岩井俊二監督の映画"スワロウテイル"に登場する架空のバンド。同映画の主人公"グリコ"を演じたCharaがヴォーカルを務め、Mr.Childrenやサザンオールスターズなどのプロデューサーとしても知られる小林武史がプロデュースを行う、という今から考えればとんでもないプロジェクト。ちなみに1996年に発表されたシングル『Swallowtail Butterfly ~あいのうた~』とアルバム『MONTAGE』はどちらも週間売り上げ1位を獲得、世間的な評価もきちんと勝ち取っているのだから本当に半端じゃない。(筆者は当時5歳。この社会現象とも言える熱狂を体験できなかったことが非常に悔しく思う)そのYEN TOWN BANDが2015年、映画"スワロウテイル"の公開から19年のときを越えて再び動き出した。"大地の芸術祭"というアート・プロジェクトで再び命が吹き込まれて以降、YEN TOWN BAND はamazarashiやACIDMAN、クリープハイプといったアーティストと共演を繰り広げ、昨年12月には誰も予想しなかったニュー・シングル『アイノネ』と『MONTAGE』のデジタル・リマスター盤がリリースされた。
 
前置きが長くなったが、昨年の12月はYEN TOWN BANDをとにかくずっと聴いていた。YEN TOWN BANDの音楽は19年のときを経ても色褪せないくらいの普遍性と強度を誇っている。しかしこの再始動、単なるノスタルジーでは片づけられない、なんらかの予感を伴っているように思うのだ。
1996年、音楽がまだ完全にはデジタルに支配されていなかった時代。人の生みだす目に見えないエネルギーの集積が、音楽の魔法のような力に対する下支えとして機能していた時代である。しかし一方で、"J-POP"という概念の誕生により音楽は、商業的な要請もあり急速に最適化/効率化の波にさらされ始める。そういったさなかで、まさにJ-POPの第一線で活躍していた小林武史が、ある意味自身に対するアンチテーゼ的に、当時からしても極めて異質でオルタナティヴな存在としてYEN TOWN BANDを始動させたわけだ。この意義は非常に大きいと言えるだろう。そして、それから19年の時が流れ、日本の音楽シーンは文字通り激変――過剰に効率化された、ある意味映画の舞台となった"円都(イェン・タウン)"にも通じる"荒廃した"音楽シーンに、YEN TOWN BANDは再臨したのだ。
 
今、揺り戻し的に、音楽の豊かさを取り戻すべくASIAN KUNG-FU GENERATIONやクラムボンといった第一線のミュージシャンたちは動き始めている。2016年、そんな彼らにとって、YEN TOWN BANDは音楽のみに止まらないアートとクリエイティヴの復権のための旗印となり、共に時代を塗り替えていく――この大きなうねりが、新しいオルタナティヴな何かが、白けた空気を打破してくれる、そんな予感がするのだ。