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LIVE REPORT

Japanese

tacica / THURSDAY'S YOUTH

Skream! マガジン 2018年08月号掲載

2018.06.15 @下北沢LIVEHOLIC

Writer 石角 友香

常識と呼ばれるものを自らの内で問い直し、生きていくなかで実感したことを純度高く音と言葉にする。tacicaとTHURSDAY'S YOUTHのツーマンは深いところで共振するものになった。

先攻のTHURSDAY'S YOUTH。Suck a Stew Dryから改名後1年3ヶ月を経た彼らは、2017年11月にフル・アルバム『東京、這う廊』をリリース。その後、ワンマン・ツアーも成功させている。軸にある篠山浩生(Vo/Gt)の人生への諦観めいたものは不変だと思うが、人が生きて死ぬ過程には憎悪も愛情もあり、そのふたつが並列した歌詞が印象的な「奇跡」でライヴをスタートさせたことに強く惹かれた。また、ファンクネス溢れるグルーヴでありつつエレジーと言うべき哀しみを湛えた「かわりばんこ」にも「奇跡」に通底するものを感じた。篠山は自分のテンションの低さをあらかじめ自ら"いつもこんな人間なので"と断り、誰かを励ましたり元気づけたりする気はまったくないが、音楽そのものは楽しいのだと言う。そんなことを言われなくても、演奏にその楽しさは溢れていて、ダビーなパートがドープな「燃やせるゴミ」や、バック・ビートで隙間の多いアレンジが洒脱な「雨、雨、雨、」を披露していく。あらゆる新しい音楽にアンテナを張っていそうな菊地 玄(Gt)の研ぎ澄まされたリフがほぼすべての曲で、バンドを音楽的に新しい地平へ推進しようという意志を窺わせる。ラストはマイブラ(MY BLOODY VALENTINE)を思わせるシューゲイザー的な音の壁が押し寄せた「Drowsy」であっけにとられるほど、冷たい暴風雨めいた体感を残した。

後攻のtacicaは4月に行った自主企画"三大博物館 ~静と動の邂逅~"で、初のアコースティック・セットとバンド・セットの2部構成を実施し、そのコンセプトから派生した両A面シングル『ordinary day/SUNNY』をリリース。プロデューサー兼サポート・ギタリストの野村陽一郎、中畑大樹(syrup16g/Dr)との4人体制も深化した状況にある。瑞々しさすら感じる猪狩翔一(Vo/Gt)と野村のコードやフレージングがフロアを飛翔させるように「アリゲーター」でスタート。ツイン・ギターとベースがユニゾンするスリルで感情を走らせる「発熱」。言葉少なな猪狩の挨拶を挟んで、このキャパシティでその歌詞の細部を自分の中に響かせながら聴くことの贅沢を実感する「YELLOW」。MCと打って変わって言葉数の多い猪狩のヴォーカルの真剣勝負が眼前で展開されると、文字どおり"一曲入魂"に食らってしまう。"死んだ振りでも生きてるって事だもの/解答はなくてもいい"と歌う新曲「SUNNY」。強烈に断罪されたり、逆に前向きに鼓舞されたりするより、答えは自分で出さざるを得ない、そういう思考と音楽が存在すること、つまりtacicaの存在そのものに改めて感謝した。猪狩は下北沢にちなんだ自身のエピソードとして、北海道から上京した際、バンドマンなら住むのは下北沢だろうと即決したが、存外この街でライヴをすることがなかったと話した。"昔の自分が報われた気がします"と冗談っぽく言っていたが、そのあとに演奏したのが「ハイライト」だったのは偶然ではなかったのかもしれない。かすかな真実めいたものを自分の内側で確認しながらバンドも人生も進むしかないのだ。猪狩の弾き語りに小西悠太(Ba)のフレーズが加わり、さらに野村、中畑の音が重なっていった「ordinary day」。日常を歌いながらどこか切ないこの感覚が次のtacicaにどう繋がっていくのかも興味深い。音楽だから表現できる"渾身の強度"が破格に強いツーマンだった。

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