Japanese
cinema staff
Skream! マガジン 2017年11月号掲載
2017.10.14 @日比谷野外大音楽堂
Writer 沖 さやこ
活動を続けるということは、経験を積むということ。音楽に限らず、年齢を重ねていくと初体験の機会は減っていく。高校時代に前身バンドの活動が始まり、メンバーが21歳になる2008年に全国デビューを果たし、2017年に30歳を迎えるcinema staffというバンドもそうだろう。ホール・ワンマンも、フェスでの大舞台も多数経験し、ライヴハウスでのライヴの本数はかなりのもの。cinema staffを聴いて育ったという20代前後のバンドも多くなっている。そんな彼らにとっても、日比谷野外大音楽堂のステージに立つこと、そこでワンマン・ライヴを行うことは初めての経験。初夏の全国ツアーでは大人の姿を見せた彼らだが、憧れの地である野音では、死に物狂いで、がむしゃらに目の前の出来事へ挑む少年のようだった。
雨バンドの異名に偽りなしと言わんばかりに霧雨降りしきる17時半過ぎ。ライヴはメジャー・デビューEPの表題曲「into the green」で幕を開ける。音が木々を越え、ビルを駆け上がるように雄大に広がっていった。序盤は普段のライヴと同様に激しく動き回る演奏スタイルだったが、雨で濡れた野音のステージは少々滑りやすいのだろうか。4人は少しずつ演奏そのものに重きを置いたプレイへとシフトしていく。演奏に集中することだけでなく、野音のステージに立っていることの実感と高揚も加わり、4曲目の「熱源」あたりから4人のグルーヴ感は格段に高まった。
ライトの反射で霧雨が煌めく。日が沈んだ雨空でも薄明るいのは東京ならではだろうか。飯田瑞規(Vo/Gt)は"いい夜にしたいです。力貸してくれますか?"と観客に語り掛ける。声のトーンからも、彼の心に湧き上がる興奮が感じられた。憧れの地にワンマンで立つ喜び、それによる緊張、いい夜にしたいというプライド、そしてこれまでバンドに関わってきた人間たちへの感謝の念、これまでにバンド活動において感じてきた喜怒哀楽、すべてがない交ぜになっているよう。平常心ではない。一歩一歩着実に進んできた彼らが、全国デビューから9年かけて辿り着いた野音のワンマンで、平常心でいられるわけがないのだ。
7曲目まで作品の1曲目で構成する、新旧織り交ぜたセットリスト。「白い砂漠のマーチ」は辻 友貴(Gt)の抜けのいい音色が華やぐ。過去の楽曲はバンドのスキル・アップが顕著に表れるが、加えて彼らの場合、初期曲は特に静と動、ブレイクなどを多用した展開が頻繁に変わる曲が多いため、久野洋平(Dr)の緩急が効いたドラマ性の高いドラミングの存在感が格別だ。そして東京のど真ん中で飯田が高らかに"街は東。/海はもう、すぐそこだ。"と歌い、三島想平(Ba)がコーラスを重ねた「火傷」は、まさに万感胸に迫る瞬間だった。
この日初めてのミドル・テンポ曲「daybreak syndrome」は中盤のクライマックス。弾き語りのようにソフトで優しい飯田の歌とギターに、辻がストリングスのように繊細なギターを重ねる。ブレイクの静寂で生まれた音の余韻も、辻のエモーショナルなギター・ソロに合わせて久野と三島が作るリズムも心地よく、"雨が降り出しそうだ"という歌詞に呼応するように心なしか強まる雨脚も幻想的だ。
飯田が"いつもどおりやろうと思ったけど、憧れていた場所だし、やっぱりいつもとは違いますね。バンドのいろんなことを思い出しながら歌っています"と言っていたが、それは観客側の立場としてもそうだった。ベスト・アルバム的な選曲は、その時々の過去の彼らのことも、彼らに感じた想いも蘇らすには十分すぎるほどで、「君になりたい」では"ナンバーガールの要素をいい塩梅で取り入れ自分たちの表現に落とし込んだ楽曲だ"とリリース当時感心したことを思い出した。国内外のオルタナとインディー・ロック、ハードコアをブレンドした、攻撃力に感傷性と繊細さを併せ持つサウンド、伸びやかな歌声とポップでありながらクセのあるメロディ――彼らの特性が隅々にまで生きた演奏は圧巻である。
「望郷」、「salvage me」、「希望の残骸」では野音のステージ全体にプロジェクション・マッピングが施され、音をさらに大きく響かせるその演出に終始見惚れる。気づいたころには雨もほぼ止んでいた。当時の三島の強い想いが込められた「シャドウ」は、向かい合ってイントロの掛け合いのギターを弾く辻と飯田と、歌詞を噛みしめて心を振り絞るように歌う飯田の気迫が脳裏に焼きついている。
これまで関わってきたスタッフに感謝を伝え"いま鳴らしている音は、4人だけの音じゃないと僕らはちゃんとわかっています"と語った飯田は、"僕らの夢を叶えてくれた(観客の)みなさんにもすごく感謝をしています。たくさんのものをもらっているので、ちょっとやそっとじゃ消えないような、心と記憶に深く残るものを少しずつ返していきたい"と続ける。"こういう景色を願って書いた曲"と言い演奏された「AIMAI VISION」は4人全員が全身全霊で音を届けた。これが彼らの言う"返す"であり"感謝"なのだろう。この日本にも星の数ほど様々な趣を持ったロック・バンドが存在するが、cinema staffはただそのときそのときの最大限の力で、その瞬間に湧き上がった気持ちをすべて音楽にしてがむしゃらに体当たりする姿が最も勇敢で美しい。「僕たち」はまさしくそれを体現した演奏。感情が溢れて止まらないと言わんばかりに、喜怒哀楽のすべてを鳴らし続けた。
アンコールでの締めくくりは「GATE」。集中力を高め隅々までこだわった、繊細でひりついた音像は、最後の一音まで彼らの核がむき出しになっていた。三島はMCで"自分たちはまだまだこれからのバンドだと思っている"と言った。これまでたくさんの分岐点や節目を迎えてきた彼らだが、日比谷野外大音楽堂という分岐点は、彼らを初心に返らせる面も持っていたのではないだろうか。やはり彼らは圧倒的に"青"が似合う。落ち着いた大人になるには、まだまだ早いのだ。
[Setlist]
1. into the green
2. theme of us
3. 奇跡
4. 熱源
5. AMK HOLLIC
6. 想像力
7. 白い砂漠のマーチ
8. KARAKURI in the skywalkers
9. 火傷
10. 返して
11. daybreak syndrome
12. 青写真
13. 小さな食卓
14. 君になりたい
15. 望郷
16. salvage me
17. 希望の残骸
18. great escape
19. エゴ
20. pulse
21. シャドウ
22. AIMAI VISION
23. 僕たち
en1. exp
en2. GATE
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