Japanese
BiSH
Skream! マガジン 2017年09月号掲載
2017.07.22 @幕張メッセ イベントホール
Writer 沖 さやこ
いつからBiSHはこんなに魅せることができるアーティストになったのか。去年までの彼女たちの良さは"ひたむきな姿勢"だった。困難や逆境を捨て身で乗り越える、力が及ばずとも体当たりする――そんな彼女たちの姿に勇気をもらっていた清掃員(※BiSHのファンの呼称)も多いはずだ。だが、いまはどうだ。彼女たちは正攻法で立ち向かえる強さを持っている。その根源にあるのは間違いなく"自信"。それは及ばずとも全力で体当たりしてきたからこそ得られた結果でもある。去年の10月に日比谷野外大音楽堂で開催された[BiSH Less than SEX TOUR FINAL'帝王切開']のときとは比べものにならないほど大きくなったBiSH。すべての経験を肥やしにした6人の結束を見せつけるツアー・ファイナルだった。
オープニング映像として"BiSH NEVERMiND TOUR RELOADED"のダイジェストが流れると、彼女たちの名をさらに広めた名曲「オーケストラ」でこの日のステージをスタートさせる。シンプルなライティングのなか堂々と歌いきると、ハシヤスメ・アツコの"幕張メッセ! BiSHと一緒に番狂わせ始めようぜ!"の煽りで、彼女が作詞をした「社会のルール」へ。ユーモアの効いた同曲から、メンバー全員、特にリンリンのシャウトが炸裂しまくる最強のパンク・ナンバー「DEADMAN」と、序盤3曲でジェットコースター並みの展開を見せる。モモコグミカンパニーが"自分を出せない女の子"を主人公にした歌詞を乗せた「Marionette」は、ぎりぎりになりながら高いキーを激情的に歌うセントチヒロ・チッチの姿が鮮烈だった。彼女は楽曲ごとにヴォーカルを巧みに変えられるタイプだが、その様子は胸の内を明かせない主人公の女子の切なる想いを体現しているようだ。マリオネットを模したダンスも物憂げで、これまでのBiSHとは異なる大人でセクシーな側面を見せていた。
アユニ・Dが作詞をした「本当本気」では、全員がのびのびと解き放たれたようにその場の空間を楽しむ。私が彼女たちのライヴに足を運んだのは3月のZepp Tokyoぶりだが、こんなにライヴを楽しんでいる彼女たちを観たのは初めてだった。やはりこの曲を聴いて思い出すのは去年の日比谷野外大音楽堂のワンマン。あのときはまだアユニもステージに立つのがやっとくらいで、メンバー全員何とか1曲1曲を乗り切ろうと必死、なかでもアイナ・ジ・エンドがその圧倒的な歌唱力と身のこなしでもって先陣を切ってBiSHを支えていた。だが彼女の声帯結節の手術を経て、メンバーそれぞれが"自分にできることとはなんだろう?"と考え始めたことから、それぞれの個性が少しずつ発揮されるようになってきた。その6人の結束が強まったのが今年の1~3月に開催された"BiSH NEVERMiND TOUR"だっただろう。アイナがすべてを背負う必要がなくなったことで、新しいBiSHの形が生まれた。その結果、彼女たちは清掃員と心を通わせながらパフォーマンスができるようになった。以前よりもメンバー全員から随所で自然な笑顔が生まれているところも微笑ましい。
お馴染みの自己紹介の声も全員これまでで最も明るく自信に満ちている。モモコが"幕張メッセにお集まりのみなさん、今日はとことん遊ぼうぜ~!"と満面の笑みで叫び「DA DANCE!!」に繋げ、続いてのハードなロック・チューン「ヒーローワナビー」ではクール・ビューティーなリンリンにもナチュラルな笑みが垣間見られた。自然体だからこそのキレのある身のこなし。7,000人の観客に見守られ、そのパワーを一身に受け、不安要素がない状態の人間たちはこれほどまでに輝けるものなのだなと感心した。「Nothing.」で6人の結束はさらに強まる。語り掛けるように歌うチッチも、芯の強さを感じさせるモモコの歌声も、生き生きとした表情で凛とした歌声を響かせるアイナも、いまのBiSHだからこそ存在している姿だろう。
アツコが司会進行をするお馴染みのMCも、今回はほのぼのとしたフリー・トーク。だが、ツアーの思い出話から徐々に雲行きが怪しく(?)なり、アツコとアユニが中心となるコント・トークに(笑)。次の曲へのなかば無理矢理な繋げ方もご愛敬だ。「MONSTERS」では火の玉が無数に飛び上がり、彼女たちの熱量満載の歌声とパフォーマンスを後押しする。こうなったらもう6人は全速で走るだけだ。アイナとリンリンの耳をつんざくシャウトで幕を開けた「OTNK」は燃えるような歌とダンスで観客とともにさらに高い熱量を生み出していく。チッチの"やなことたくさんあるけどさ、そんなことに負けずに強く生きていこうよ!"という言葉から始まった「beautifulさ」では大合唱が起こりハッピー・ムードになるも、冒頭でリンリンが"お前らのノドチンコ焼き殺してやるからな!!"とひっかき回した「GiANT KiLLERS」では6人の狂気性が爆発しまくる。普段は音程をしっかりキープしたうえで歌うことに従事しているチッチが音をはずして声を張り上げるなど、6人の新しい顔を覗かせるところもこの曲がキラー・チューンとして存在している理由のひとつだろう。
本編ラストの「BiSH-星が瞬く夜に-」は曲中でアイナが"後ろの人たち見えてますか? 今日は来てくれてありがとう! 最後ひとつになろうぜ!"と等身大のかわいらしい女の子の表情で叫ぶシーンは不可抗力で胸がきゅんとした。こんなふうに彼女たちが振る舞えるようになったのも、清掃員と築いてきた信頼関係ゆえだろう。ラスサビで噴射された銀テープがその祝祭感をさらに瞬かせた。
アンコールではメンバーひとりひとりが素直な想いを直接観客たちに伝える。全員が時間をかけて話したためここでの記載は最小限に留めておくが、6人に共通していたのはBiSHを取り巻く人々すべてに、丁寧に感謝を告げていたことだ。BiSHに加入してもうすぐ1年になるアユニは、涙を流しながら"人間として自分の思うように変われたことがすごく嬉しい"と語り、リンリンはツアー中2日に1日は涙が止まらず不安な時期が続いたことを明かし、この幕張メッセを笑顔で迎えられたことを喜んだ。アツコは自分の人生を振り返り、芸能の世界に憧れるもなかなか実を結ばず、これがだめだったら諦めようと思っていたのがBiSHのオーディションだったことを打ち明けると、"こんな最高な6人で活動できていることは奇跡だと思う"と話す。アイナはメンバーへの愛を語り、"幕張メッセに立てると思ってなかったからいまめっちゃ嬉しいんですけど、私ここで止まりたくないです。圧倒的な存在になりたいです"と涙を浮かべながら宣言。初期メンバーのひとりであるモモコは、BiSH初のワンマン・ライヴでライヴを観ることとステージの上に立つことの差を痛感したことをきっかけにネガティヴな想像が膨らむも、それ以上にBiSHが好きだという気持ちが大きいことに気づき、"食らいついていこう"と思ったと言い、"あのときよりも強くなれていると思うし、あのときと変わらずBiSHが大好きです"と胸を張った。
最後に口を開いたのはチッチ。彼女は3月のZepp Tokyoのワンマンでも、最後にフロアを見つめながら何か想いを口にしようとするも、踏みとどまっていた。胸に秘めているものがあれど、ステージの上ではなかなか自分の気持ちを言葉にできなかった彼女がこうしてひとつひとつ気持ちを言葉にしていく姿は、胸に迫るものがある。"私も音楽に助けられて毎日大好きな曲に元気をもらっています。BiSHが誰かの生きる理由になれていたり、嫌なことを吹き飛ばす味方になれていたり――そういうお仕事ができている人生が幸せです。だからこれからもこの6人で最高の音楽を届け続けていきたいです。BiSHはまだまだ止まりません。最高のその先に行くことを約束します"、そう言って披露された「プロミスザスター」は涙混じりで歌う6人の歌声に涙腺が緩んだ。「生きててよかったというのなら」を歌いながら、彼女たちは客席に背を向け、BiSHチームとこれまで関わった音楽関係者の名前が流れるエンドロールと7,000人の清掃員に見送られながらゆっくりとステージを去る。その華奢な背中に漲る闘志は、大きな未来を語っていた。
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