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LIVE REPORT

Japanese

SHE'S

Skream! マガジン 2017年05月号掲載

2017.04.09 @赤坂BLITZ

Writer 沖 さやこ

1曲目の「Morning Glow」から、メンバー全員が晴れやかな表情を浮かべていた。いつもはステージ上でも終始クールなふたり、服部栞汰(Gt)と広瀬臣吾(Ba)も観客を隅々まで笑顔で見渡しながら演奏する。木村雅人(Dr)は伸びやかな音色を鳴らし、身体を振り絞るように歌を生み出す井上竜馬(Key/Gt/Vo)は"東京ファイナル元気ですか! たくさん一緒に歌いましょう"とフロアに呼び掛けた。一般的に1曲目は緊張で幾分か固くなるものなのに、彼らにはほとんどそれが感じられない、むしろリラックスしているようだった。きっとツアーで得た心地いいムードやモードを、そのままこの赤坂BLITZに繋いだのだろう。メジャー1stフル・アルバム『プルーストと花束』リリース・ワンマン・ツアー、全10公演ソールド・アウト。ひしめくフロアがステージに立つ4人に熱い視線を送っていた。
「海岸の煌めき」を軽やか且つ力強く奏でると、その勢いのまま「Freedom」、「Un-science」へ。井上は曲中で観客に呼び掛けるなどして、湧き上がる高揚を素直に伝えていく。以前は演奏中にどこか孤高の王子様的な存在感を放っていた彼だが、この日はこちらに語り掛けるような歌で観客を包み込んでいた。

MCで井上はLINE LIVEの生中継のカメラに触れ"いやー、ぎょうさんカメラも入って。かっこつけんなよ自分ら。一生懸命やりや"とメンバーに茶々を入れる。そのあとは、ツアー・ファイナルは"ボス"感があるからプレッシャーがあると語り、"スタッフさんやメンバー、お客さんもおるから、プレッシャーにも勝てそうです!"と笑った。本当にプレッシャーを感じているのだろうか? と思うくらいのびのびとしているのは、この会場中を味方だと認識しているからだろう。
「Running Out」では井上がギターとピアノを使い分け、服部はハード・ロック・イズムが込められた熱いギター・ソロで魅了。井上の"Noと言う勇気を"という言葉のあとに演奏された「Say No」は、その言葉のとおりこちらに勇気を与えるように言葉を噛み締めていく。"一緒に歌おう"と静かに呼び掛けるとフロアからは"No"のシンガロングが起こり、その声を吸収してバンドの音像がさらに雄大になっていった。曲が終わるやいなや、井上がピアノ・ソロで繋ぎ「Night Owl」へ。心地いい緊張感が会場全体を包み、彼の歌に込められた気迫がその場にいた人間全員を突き動かしていた。

MCになると空気は一転、ラフなムードで話し出す。トーク中の彼らはまさしく大阪の気のいい兄ちゃんである。井上がツアーの珍エピソードを明かそうとするも、広瀬が先にオチを言ってしまうというまさかのアクシデント。井上は"お前みたいな無神経な奴、信じられへん! 7~8年の付き合いやけど、こんなに気持ち踏みにじられたの初めてやわ!......そんな感じで、ある意味気持ちを踏みにじられた曲をやろ(笑)。キム(木村)、カモン!"と華麗に切り返し、軽快な失恋ソング「グッド・ウェディング」へと誘う。「Evergreen」では井上がアコギを持ち、ステージのへりのすれすれまで前に出てきたり、ハンドマイクでコール&レスポンスしたり、ジャンプをしながらステージを歩き回るなど、森の精霊さながらの奔放なパフォーマンスを披露。「パレードが終わる頃」は4人の音色が力強く痛快に響く。井上の記憶の中に眠っていた光景を蘇らせてできあがった曲たちが、バンドで鳴らすことによって未来を切り開く力となった瞬間だったのではないだろうか。

"ちょうど1年くらいになるか......"とつぶやいた井上は「Tonight」という曲に込めた想いを語った。やるせない夜に聴いてほっとできる曲を作りたかったと話した彼は、眠る前の子供に絵本を読み聞かせるように優しく歌い、服部のギターもそこに彩りを添えていく。その余韻も冷めやらぬうちに、"本当に思うんよ、生きてる人間の方がよっぽど、なくしたものを求めて彷徨う幽霊みたいやなって"とつぶやき「Ghost」へ。感傷的で情熱的なバラードはSHE'Sの真髄とも言える。特にアウトロはいつまでも聴いていたいと思うほどの美しさだった。
「Stars」、「遠くまで」とアッパーに攻めたあと、アコギを抱えた井上が"こうやって顔を合わせてひとつの音楽を楽しんで、話しているような気分になって。よかったな、俺はひとつ守れてるんやな、と安心しました"、"嫌なことも、つらかったことも、思い出したくないことも思い出しながら、俺らは全部ひっくるめて生きていくからさ。その決意を込めて作った曲を最後に歌って帰ります"と語り、本編のラストは「プルースト」。10公演で綴った物語に壮大なエンドロールをつけるように、豊かな音色を届けた。

アンコールではミニ・アルバム『Awakening』のリリースと、秋にストリングスを迎えた東名阪ツアーを行うことを発表し、新曲「Over You」を披露。"ずっと負けたくないと思って戦っていたのはもうひとりの自分だった"という想いが込められているとのことで、ストリングスの音色がドラマチックな、ポジティヴな楽曲だった。井上が"音楽があって、あなたたちがいたから愛を知れました。(中略)かっこよく生きようぜ。自分にとって何が一番かっこいいか1個1個見つけて、失敗と成功をしながら、一緒に音楽を好きでいよう。最大の愛を込めて歌います"とエレキ・ギターをかき鳴らし、ラストは「Curtain Call」。素直な想いを歌と言葉にして伝える彼の顔は、絶えず笑みがこぼれ続けていた。春の快晴のような、あたたかく優しい空気で満たされていたツアー・ファイナル。SHE'Sのメジャー2年目の挑戦がここから始まる。




[Setlist]
1. Morning Glow
2. 海岸の煌めき
3. Freedom
4. Un-science
5. Running Out
6. Isolation
7. Say No
8. Night Owl
9. グッド・ウェディング
10. Evergreen
11. パレードが終わる頃
12. Tonight
13. Ghost
14. Stars
15. 遠くまで
16. プルースト
en1. Over You(新曲)
en2. Voice
en3. Curtain Call

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