Japanese
Brian the Sun
Skream! マガジン 2017年03月号掲載
2017.02.11 @Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
Writer 沖 さやこ
"アルバム完全再現ライヴ"が増えて久しいが、リリース直後のアルバムのそれを行うバンドは、自分が知る限り初めてである。2017年に結成10周年を迎えるBrian the Sunの最新アルバム『パトスとエートス』、そのリリース記念スペシャル・ライヴ。普段とはまた趣の異なる緊張感が彼らから漂っていた。
アルバムのラスト曲のアウトロに入っていた都会の喧騒音と共に登場したメンバーは、ゆっくり定位置につくとアルバムの1曲目である「Impromptu」のイントロを奏で始める。メンバー全員が1音1音を大切に鳴らし、それに付随するようにプレイの所作も丁寧で重みがあった。Brian the Sunにとっては初のホール・ライヴ。ホールならではの音の鳴りで彼らの演奏を聴くのは、観客側としても新鮮だ。「Physalia」では楽曲のムードと同様に緊迫感のある演奏を聴かせる。「パトスとエートス」はこちらに噛みついてくるような鋭さがあり、彼らの内面にある刃を突きつけられているようだった。
フロントマンの森 良太(Vo/Gt)が"11曲集中してやります"と言うと「HEROES」へ。それまでうつむきがちだった森が演奏中に客席を見渡していた。この曲はおそらく彼らが去年最も演奏している楽曲。それゆえに自然体の演奏で、森が晴れやかな声で"ギター!"と言い、そこから小川真司がギター・ソロを弾くシーンは、バンド全体が肩の力を抜いてライヴを楽しんでいる空気感が溢れ出ていた。そこから間髪いれずに「Cold Ash」。森は喉を振り絞るように声を出す。ドラムを叩きながら詞を口ずさむ田中駿汰の姿は、そんな森を支えているようにも見えた。「Maybe」はメンバー全員がアイコンタクトを取りながら音を作り、白山治輝のベース・ラインと小川のギターが、楽曲の持つ温もりをさらに鮮やかにしていった。
「アイロニックスター」で華麗且つ洒落たグルーヴを作ったあと、森は"キーが高い曲ばかり作ってしまった。僕は自分の限界を知らないんでしょうね"と苦笑い。白山は初のホール・ライヴに触れ"お客さんに見下ろされてるのが新鮮"と話す。結成10周年について森は"(メンバーと)出会えて良かったと思っています。それはみなさんにもです"と観客へ感謝を告げると、客席からは拍手が起こった。"明智光秀は織田信長を討伐しに行く前日に、いったい何を考えていたんでしょうね。きっとどうでもよくなったんでしょう。そういうパトスがこもった曲をやります"という言葉のあと「Mitsuhide」を演奏し、「Hi-Lite」、「Cloudy #2」へとなだれ込む。身を焦がすような歌と音が大きなうねりを生み、それがとても刹那的で輝かしかった。
森は残り1曲を前に再び口を開く。"アルバムを1枚作るという作業は時間もお金もかかるし、いろんな人が関わってくれます。一度聴いて良かった/良くなかったを判断できるものじゃないと思うんです。みんなの思い出に残るように、一生に寄り添えるように作った曲たちです。俺の一生にも寄り添う曲たちです。いろんなミュージシャンがいて、いろんな想いを込めていると思います。みんな大事にしましょう"。彼がライヴの最後のMCで話す内容は、彼がいま最も強く思っていることが多い。そのあとに演奏された「月の子供」もその心情が通うものだった。メンバー全員の音が重なるのは2番のサビからだが、それまでもメンバー4人はしっかりと想いを重ね、この4人でその空気を作っていた。観客もその音に身を委ね、すべての音を取りこぼさないように真摯に聴き入る。森が最後のピアノの音を止めると、立ち上がって一礼。メンバーはステージをあとにした。
アンコールを求める拍手が鳴り止まず、4人は再びステージに登場。"11曲でかっこよく終わりたかった"と笑う森。彼は"何やろう。1曲しかやりません"と言いながらギターを爪弾くと、それを聴いたメンバー全員が"OK"の表情を浮かべる。そして急遽アンコールとして「13月の夜明け」を披露。やはり長く演奏し続けている曲だけあり、この日一番、完成度の高い演奏だった。『パトスとエートス』の楽曲も今後そうなっていくことだろう。まずはこのアルバムの全国ツアーでどれだけバンドと楽曲が成長するかを楽しみに待ちたい。
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