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Japanese

Shout it Out

Skream! マガジン 2016年08月号掲載

2016.07.10 @渋谷CHELSEA HOTEL

Writer 沖 さやこ

当たり前だが、人は誕生日を迎えた瞬間に歳をひとつ重ねる。とはいえその前日と比べて劇的な変化があるかというと、そうでもない。"おめでとう"と言われることがいつもより少し多いくらいだろう。そう考えると年齢を重ねるということは、1年に1回誕生日を迎えることの繰り返し。すなわち"○年間生きてきた"ということだ。2016年7月10日。この日、渋谷CHELSEA HOTELのステージの真ん中で、20年間この世に生きてきた若者が、20年間で得てきた気持ち、20年間の記憶すべてを歌声に吹きこんでいた。

メジャー・デビュー前夜に、ホームである堺Tick-Tuckにて初のワンマン・ライヴを行ったShout it Out。初ワンマンから5日後、フロントマン 山内彰馬(Vo/Gt)の20歳の誕生日に、彼らは東京での初ワンマン・ライヴを行った。1曲目は山内の弾き語りで幕を開ける「opening」。歌詞の一言一句が強く響いてくる歌声。それに引き上げられるように、「青」から楽器隊も音を鳴らした。堂々とした演奏で魅了......と思いきや、終盤でベースの音が鳴らなくなるというトラブルが。だが演奏を止めることはなく完奏する。間髪いれずに「風を待っている」になだれ込んだが、どうにもベースの音が鳴らず、たいたい(Ba)が山内に直接声を掛けて演奏を止めた。

メジャー・デビュー後の初ライヴという華々しい日に、いきなりこんなことが起こるなんて不運だ、という見方もできるかもしれない。だがそのあとのメンバーの切り返しは見事だった。リーダーの細川千弘(Dr)はすかさず"たいたーい!!(笑)"とツッコみ、山内も"始まりましたShout it Outワンマン・ライヴ! とても愉快な幕開けとなりました"、"生きていると悲しいことやつらいこと、いろんなことがあって。ライヴの頭に急にベースの音が鳴らなくなることもあります"と言い観客を笑わせる。ワンマン・ライヴの経験もまだ過去に一度しかない彼ら。緊張も極度のものだっただろうに、動揺を見せることなく乗り切る。そのあとの演奏も平常心で――寧ろ少し緊張が解けたのではないかと思うほどだ。今年に入り怒濤のライヴ活動を繰り返している経験の賜物だろう。
たいたいは低音でもって果敢に切り込んでいき、19歳とは思えぬほど太くダイナミックな音を鳴らす細川はドラムを叩く動作もしなやかで美しい。普段ほとんどMCをすることもない寡黙な露口仁也(Gt)は、ギターで楽曲の持つ繊細さを際立たせる。余韻や奥行きを作り出す彼の音は、Shout it Outの大事な要素だ。それぞれのプレイヤーがさらに表現力をつけたら、彼らの音はどんな色になるのだろうか。未来への想像を膨らませ期待を生む、その未完成さが眩しい。
「雨哀」は荒々しい山内のヴォーカルとギターが、雨の中を走り抜ける少年像と重なった。彼は実体験を歌詞に昇華するタイプのソングライター。いつも以上に山内が、言葉を噛みしめて歌っているように見えた。やはりそれは、この日が彼の20歳の誕生日だからだろう。演奏される曲を通して彼の過ごしてきた20年間の人生が見えてくるようだった。8分の6拍子を用いた「Teenage」は、細川の躍動的で鮮やかなドラムに乗せて、山内が優しく頼もしく手を差し伸べるように歌う。「生きている」のあとの「17歳」で、山内のヴォーカルが急に変わった。雲のない青空のような無敵感があり、それこそ17歳のときの決意と純粋さが、メジャー・デビュー&20歳という新たなスタート・ラインに立った彼の心情と重なったよう。そこには理屈の通用しない感情の高揚と、バンドだからこそ作り出せる夢があった。バンドが今この瞬間、どんどん成長しているようにも見える。

山内はギターを爪弾きながら東京でワンマン・ライヴを行えることを感慨深く語り、"東京という街は好きにはなれませんが、自分にとって今も憧れで大切な土地です"と笑う。"(東京初ワンマンという)今日を迎えられたのは、僕らが頑張ったわけでもメジャー・デビューをしたからでもなく、遠い街からやってきた僕たちのことを見つけてくれて、支えてくれて、一緒に歩んでくれたあなたがいたから。そんなあなたに歌います"と言い演奏された「トワイライト」は、山内が語った気持ちを4人全員が丁寧に紡いだ。それは手を繋ぐような温もりと似ていた。
「ハナウタ」のヴォーカルには未来に不安を抱えつつも力強く進んでいこうとする生々しさが。彼は"メジャーに行けど、20歳になれど、何も変わらなかったです"、"お酒を飲んだり煙草も吸えるけど、本当に大人になったんだろうか?"、"結局僕らは昨日の続きにしか生きられない"と話す。本編ラストは"10代最後の背伸び"を描いた「青春のすべて」。山内はインタビューで"青春"を"10代の象徴"として語ってくれたが、青春は10代だけのものではないのだ。20歳になった彼が歌う"青春の行方を追いかけていたいんだ"という言葉は、青春そのものではないか。

アンコールでは「ギターと月と缶コーヒー」を披露したあと、メンバーがサプライズで大のお寿司好きだという山内に、ケーキではなく巨大マグロ寿司(ローソク付き)をプレゼント。照れる山内に、観客はたくさんの"おめでとう"を投げかけた。"4人で始めたバンドが4人だけのものではなくなって、こうやってたくさんの人と音楽ができている、こんなに幸せなことはありません。これからもどうか一緒に歩いていってください"山内がそう告げ、ラストは「光の唄」。気持ちのままに全力で駆け抜けていく音像に、彼らの春はまだまだ青いと確信した。新しいスタートは決してリセットして始まるものではないし、彼らはまだまだ夢の途中であり成長期。さらなるお楽しみはこれからだ。

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