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LIVE REPORT

Japanese

ゲスの極み乙女。

Skream! マガジン 2016年05月号掲載

2016.03.31 @日本武道館

Writer 沖 さやこ

2日間にわたり行われたゲスの極み乙女。の初の日本武道館公演は、ひとつの芸術作品だった。本編にMCタイムはなく、大きなセットもない。あるのはステージの左右に伸びた花道と、バックに一面広がる7本のLEDディスプレイ(とはいえどうやら見切れ席用のスクリーンはあったようだ)。ディスプレイには楽曲とシンクロしたヴィジュアル・アートが各曲で映し出され、リアルタイムでメンバーの姿が映し出されることはなかった。この日のライヴは音響スタッフも照明スタッフも舞台スタッフも、そしてもちろんステージの上のメンバーも"ゲスの極み乙女。の音楽を最高の表現で届けること"だけを考えていたように思う。エンターテイメントとしての音楽ではなく、アートとしての音楽を追求したライヴだったのだ。
 
場内が突如暗転すると、ディスプレイの映像とともに弱冠20歳のUK出身エレクトロ・ミュージック・プロデューサー兼シンガー・ソングライター、MURA MASAの「Lovesick Fuck」が流れる。ヒップホップ/R&Bにも分類されるダンス・ミュージックをSEにする。これは最新作『両成敗』の世界観だけではなく、ネクスト・ステージを用意しているという予告だと確信した。
 
白と黒をベースにした衣装で登場したメンバー4人とコーラス隊のえつことオカシラ。1曲目「ロマンスがありあまる」でディスプレイの映像と一糸乱れぬ演奏を届けると、ちゃんMARI(Key)のソロの導入を経て「私以外私じゃないの」へ。京都を彷彿とさせる和風のムービーと、エネルギッシュなサウンドスケープが交錯し、異次元へと連れていくようだ。「サイデンティティ」から3曲連続で川谷がハンドマイクでパフォーマンス。「星降る夜に花束を」は休日課長(Ba)のヘヴィなベースが大きなうねりを作り、存在感を放っていた。「勤めるリアル」では、ほな・いこか(Dr)のドリル並の高速バスドラが炸裂。昨年10月に開催された横浜アリーナ公演ぶりに観たゲスの極み乙女。は演奏力が格段に向上していた。川谷がハンドマイクでここまで悠々と歌うことができるのも、キーボード、ドラム、ベースという演奏の土台がひとつひとつ強く太くなっているからなのだ。
 
ショパンの「幻想即興曲」が流れたあとは「シリアルシンガー」。川谷のギター・ソロには色気が滲み、成熟が窺える。そして彼の歌う"そんな脆い歌じゃないよな"という歌詞が、リアルタイムで彼の中から生まれた言葉のように現実的に響いてきた。その感覚に引きずられていると、バンドは「煙る」、「セルマ」とセンチメンタルでディープな世界を展開する。「id 1」はNabowaの景山奏(Gt)をゲストに招き、課長が彼と共にアコースティック・ギターを奏でる。デジタル音とアコースティック音が交錯し、冷たさとあたたかさの対比が浮き彫りになるところに哀愁があった。
 
バンドの向上は、スキルの面だけではなくセンスも同様だった。メンバーが袖にはけると、スピード感のある映像とともにピアノとダンス・ビートに乗せて川谷とほな・いこかのポエトリー・リーディングが流れた。映像が言葉を発するようで、音が映像を描くようで、催眠効果が生まれてくる。そこに没頭していると、ステージ上手でコーラス隊のふたりが向かい合い、そのトラックに乗せてヴォーカルの掛け合いを始めた。ダンス・ビートを加速させた「いけないダンスダンスダンス」。この一連の流れは80'sテクノなどのテイストを現代風に解釈した印象もあり、"踊れる音楽"を独自の解釈で奏でていたゲス乙女がダンス・ミュージックの原点的な部分と対峙している印象も受けた。メンバーが赤を基調とした衣装にチェンジしてステージに再登場し「いけないダンス」。オカシラがヴァイオリンを、川谷はキーボードを担当する。間奏のちゃんMARIのソロも美しくクールで、演奏に集中する姿に息を飲んだ。
 
川谷が"武道館はライヴハウスみたいな感じがしたので、ライヴハウス・ムードでやっていきたいと思います!"と告げると「パラレルスペック(funky ver.)」、「オトナチック」で、バンドとしての地力を堂々と示す。ハード・ロック的アプローチを含む「Mr.ゲスX」はメンバーのソロ回しも圧巻。特に川谷がステージ中央のギリギリまで出て、細く伸びた足を広げて熱いギター・ソロを弾くという、往年のロック・ミュージシャンばりのパフォーマンスは非常に痛快だった。
 
アンコールは川谷が"昨日の倍(の曲数)やります!"と宣言し、まずは「続けざまの両成敗」。ギターのアルペジオが4本絡むセクションでは、その場で実際メンバー4人がギターを持って披露した。彼らが真摯に音楽に向き合えば向き合うほど、観客のボルテージが上がる。アートとしての音楽を体現することが、極上のエンターテイメントを作り出すことを彼らは堂々と証明した。1年以上ぶりに演奏したという「crying march」はエモーショナルな疾走感で魅了。今の彼らだからこその音の深みもあり、『魅力がすごいよ』から現段階への進化の変遷が走馬灯のように見えて感慨深い。そのあとはインディーズ時代の人気曲「jajaumasan」、「ドレスを脱げ」と畳み掛け、会場を大熱狂の渦に巻き込んだ。
 
川谷がダブル・アンコールの冒頭で発した"俺は死ぬまで歌うからな!"という力強い言葉を、国内外問わず様々なミュージシャンたちがライヴを行った日本武道館という場所で聞けたことは、観客にとっても非常に心強く嬉しいことだっただろう。彼は音楽を続けるべき才能を持つ人物で、ゲスの極み乙女。もまた彼の才能をさらに刺激する技術と感性を持つプレイヤーたちだ。このようなバンドが日本の音楽シーンの中心に燦然と存在していることを、心の底から誇りに思う。

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