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LIVE REPORT

Japanese

Mrs. GREEN APPLE

Skream! マガジン 2016年02月号掲載

2015.12.24 @LIQUIDROOM ebisu

Writer 石角 友香

自らの承認欲求を満たしたいがためにローティーンから曲を書き始めた大森元貴(Vo/Gt)は、Mrs. GREEN APPLEという"肉体"を通して、同世代に"こんな考え方もあるんだ"という示唆を届け、そしてこの日は、10代のオーディエンスを含めて、今新たな胎動がミセスというバンドを軸に起こっていることすら感じさせるライヴを実現してくれた。
 
ツアーTシャツを着た男子ファンの多さが目につくフロアは、Mrs. GREEN APPLEを身近な憧れの存在として男の子たちがさらに認め始めたことを実感させる。気が早いかもしれないが、バンドがジャンプアップする際に同性のファンの支持が厚くなることは過去のロック・ヒストリーを振り返っても理解できると思う。期待値がマックスに膨張しているところに勢いよく飛び出してきたメンバーへの大歓声、そしてオープニングの「ナニヲナニヲ」に対する爆発的なリアクション、元貴がさかんに"歌える?"とフロアを挑発する「我逢人」、「リスキーゲーム」というアッパー3連発に"盛り上がる"という形容以上のエネルギーで共振するファンの熱量に煽られて、バンドの演奏もさらに熱のこもったものにグングン育っていく。
 
シームレスに3曲演奏し、元貴がもらした言葉にならないぐらいの"たのし~♡"というリアクションが、今このとき、すべての人の感情を代弁していた。"シングル買ってくれた人?"という問いかけに多くの手が挙がり、"じゃあどこのキメで何をどうしたらいいかわかってるよね?"と、1stシングル「Speaking」が。山中綾華(Dr)のキックの力強いこと!"先生でも何にも知らない/親友でも何にも知らない"、そんなサビをシンガロングするバンドとファンは、曲を通して隣にいる友達に"僕には話してよ"と告白してるような――アッパー・チューンながら切実な思いが会場を揺らしていた。立て続けに髙野清宗(Ba)のプレイが牽引するファンクネス溢れる「藍(あお)」で、メンバーのプレイヤビリティの進歩をまたまた痛感。アルバム『TWELVE』を完成させたことも自信に繋がっているのか、ライヴ・アレンジももはや"若いのにすごすぎるスキル"という驚きを超えている。
 
また、心の深いところに届く名曲として人気の高い「L.P」はイントロに新たなアレンジを施し、ここにいる私や僕を見つけて欲しいと願うリスナーの心象とも相まって、元貴の歌声は怒気すら含んだ鋭いものに。その振り切った感情を若井滉斗(Gt)のフィードバック・ノイズがそのまま「恋と吟」へ繋いでいく。シングルのカップリングの音源ではまさかここまで"ミセス流のグランジ"と言えるような荒ぶる演奏は想像できなかった。思いが直接"君"に届いていれば、こんな歌作らなくてもすむのに――恋が題材の曲ではあるけれど、大森元貴がなぜ音楽を作らずにはいられないのか、その根本を素のようにも、演じているようにも見える気迫で歌い、怒涛の演奏で彼とともに表現したバンドの一体感は、この日のハイライトのひとつだった。
 
演奏と曲に入り込んだフロアが一瞬、息を飲み、拍手が起きる。そんな中、ステージ上は少しセット・チェンジを行い、まず元貴がアコギを持ち、『Speaking』のもう1曲のカップリング曲「えほん」を歌い始める。そして山中がカホンやウィンドチャイムで他のメンバーも少しリラックスしたムードの中、元貴と山中のデュエット「ゼンマイ」、アルバム未収録曲で、ミセス流のチェンバー・ポップ「ノニサクウタ」、この3曲をイレギュラーな編成で届けた。まったく先ほどまでのエクストリームなテンションから一転して、大きなショーのセットリストのように情景を転換してくることにも、ミセスの野望を感じてしまう。
 
様々な表情を見せるバンド・アンサンブルを聴かせたあとは、メンバーそれぞれが怒涛の勢いで走り抜いた2015年を振り返るMCを行い、クリスマス・イヴであるこの日、プレゼントとしてまだどこでも披露していない「うブ」をプレイ。元貴がハンドマイクでR&Bシンガーよろしく、オートチューンで歌い、藤澤涼架(Key)のシンセ、髙野もシンセ・ベースというダンサブルな新生面を見せてくれた。嬉しいプレゼントに続いては、これまでもライヴで披露され、遂に『TWELVE』の1曲目に収録された、ミセスの象徴的なナンバー「愛情と矛先」、リズム隊が頼もしい力強さを見せる「VIP」と、キラー・チューンを連発。フロア全体が生き物めいた躍動を見せる中、次がラスト・チューンであることが告げられると、テンプレじゃない批難(?)に近い"えーっ!?"の声が上がる。その貪欲なファンの気持ちに応えるように、元貴は"バカにされてもいいけど、僕らはこの世界に有名になりたくて入ってきたんです。みんながいるから、何をやってるのかがわかる。見ててください、応援してくれてるみんなをもっとすごい景色に連れて行くんで"と、彼の心にそもそもあった芽が、2015年、どんなに大きな花を咲かせるために存在していたのか?を自覚するような力強い言葉を刻みつけてみせたのだ。そして本編ラストに"こんな世界を未だ憎めないのは何故か"――その理由をバンドもファンも同じ温度で泣き笑いしながら声に出して、あるいは心の中で歌っている。自分も、誰かのことも、わかりたい。変わることでいい作用が起こるなら変わりたい。切実だけどとても前向きなエネルギーが充満して、またしても記念碑的なライヴを5人はやってのけた。
 
もちろん、"もっともっと!"とアンコールを求めるファンは「StaRt」を合唱してメンバーの登場を促す。熱いライヴや荒っぽいライヴはいくらでもあるけれど、そんな言葉で言い尽くせない気持ちの交歓が今のミセスのライヴには存在している。ファンの"StaRtコール"通り、一度目のアンコールで同曲を演奏し、ダブル・アンコールでは"大事にしている曲をやって、これで本当の最後です"と、バンドの地肩の強さを最後まで見せつける「パブリック」を披露。ギターの弦をぶっちぎるようなエンディングにすべてを込めて、2015年最後のワンマンを締めくくった。

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