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LIVE REPORT

Japanese

Brian the Sun

Skream! マガジン 2015年12月号掲載

2015.11.25 @渋谷TSUTAYA O-WEST

Writer 沖 さやこ

Brian the Sunのメジャー・デビューの報を聞いたのは10月の頭だった。ずっとポリシーを強く持ち活動を続けていた彼らが、より多くの人とともに自分たちの音楽を広げていくという選択をした。最新作『シュレディンガーの猫』のリリース・ツアー初日のO-WEST公演で"メジャー・デビューの発表をする"と白山治輝(Ba/Cho)から聞き、そのとき彼は"僕らの一生に一度しかない大発表ですから、門出を見に来てください"と穏やかな笑顔で言った。きっとメジャーに行っても彼らが自分たちの音楽を全うすることは変わらないと思うが、やはりこれまでにない環境の変化だと思う。その第一歩、やはりこの日のBrian the Sunのステージは独特の緊張感だった。"ライヴはそのときの自分をすべて出すだけ"と語ってきた彼らだからこそ、やはりメジャー・デビューというのはバンドの歴史において非常に重要な出来事なのだと全身で語っているようだったのだ。
 
このツアー初日のゲストとして招聘されたのは忘れらんねえよと東京カランコロン。このタイミングで先輩との対バンを選択するところもBrian the Sunの気合いのほどが窺える。トップバッターは忘れらんねえよ。[Alexandros]の「ワタリドリ」をSEに柴田隆浩(Vo/Gt)がフロアの後方からスーパーマンのような体勢で数名に担がれて登場し、フロアと"レコ発!""おめでとう!"のコール&レスポンスを交わしてBrian the Sunのリリースを祝すと、1曲目は「この街には君がいない」。"ちょっとずつあったまっていきましょう"とフロアと丁寧にコミュニケーションを取っていく。「ばかばっか」では曲中にステージから観客の上を通ってドリンク・カウンターまでビールを買いに行き、ステージに戻るとお祝いの乾杯と一気飲み。実直な感情が出た「ばかもののすべて」、柴田がギターの弦を切るという珍しい事態が発生した「犬にしてくれ」とキラー・チューンを畳みかけ、観客もバンドに歓迎ムード。ラストには未発表曲「バレーコードは握れないから」を披露し、会場をあたためた。
 
続いて東京カランコロンの登場。Brian the Sunが5年前に東京カランコロンを自主企画に誘ったことが縁で、今回はそれ以来の久し振りの競演となる。忘れらんねえよのオープニングのコール&レスポンスを受けて彼らも"レコ発!""おめでとう!"とフロアとコミュニケーション。こういうことができるのも対バンの醍醐味である。1曲目、彼らのメジャー1stシングル「16のbeat」からポップの中にひりついた音像やメンタリティを垣間見せ、たちまちO-WESTをカランコロン色に染めた。せんせい(Vo/Key)がメイン・ヴォーカルを務める「恋のマシンガン」ではたちまち彼女の優しい美声とともにテクニカルな楽器隊のアプローチで煌びやかな空間へ。いちろー(Vo/Gt)のハンドマイク姿とダンスも絵になる「true!true!true!」では、自分たち以外のファンも楽しめるよう丁寧に観客を盛り上げる。これも大きすぎないキャパのライヴハウスでの対バンだからこそのやり方かもしれない。考えてみると都内で、フェスやサーキット・イベントに多数出演しているバンド同士(おまけに同世代ではない)による3マンをこのキャパで観られる機会はそれほどないため、非常に新鮮である。ラスト「泣き虫ファイター」まで、ユーモラス且つスパイスが効いたパワフルなステージでフロアを笑顔にした。
 
そしてメジャー・デビューの発表を控えるBrian the Sunがステージに現れた。SEが止まると森 良太(Vo/Gt)と小川真司(Gt/Cho)のギターで「都会の泉」からライヴはスタート。このときから緊張感が尋常ではなかった。その理由はやはり"このライヴでメジャー・デビューの発表を控えている"、"とうとうメジャー・デビューが公になる"ということなのだろう。4人はそれぞれが必死に何かと戦っているように見えた。ギターの残響から「13月の夜明け」へ。白山と田中駿汰(Dr/Cho)のリズム隊はとにかく平常心を保とうとしているようで、森のヴォーカルは終始いろんなものへと噛みつくようだった。コール&レスポンスも定番化した「パワーポップ」でも森の笑顔は少々ぎこちない。"いいニャンコの日(11月25日)にちなんでCD出しましたイェ~イ!"とユルめのMCを挟んではいるが、かなり余裕がないように見える。そして彼は「同じ夢」を歌い始めた。楽器隊3人の音はそんな彼を全力で支え、助けているようだ。こんなにギリギリなBrian the Sunを観たのは初めてだ。
 
「同じ夢」のあと、森が"1曲飛ばしてしまった(笑)"と告白。そこで彼も我に返ったのか、MCをしながら徐々にいつものモードを取り戻していく。次曲「シュレディンガーの猫」で歌が変わった。変わったというよりは、いつもの音楽を愛する森 良太がそこにいた。彼はフロントマンとして、このバンドの音楽を司る者として、どうにかこのライヴを立て直そうとしている。その真摯な姿に目が離せなかった。そして演奏を終えると彼は"ありがとう、「half cab」!"と言い、先程彼が飛ばしてしまった同曲へ誘う。3人はその言葉に瞬時についていく。そこにも様々なことを4人で共有して乗り越えてきた、バンドの固い結束を見た。「彼女はゼロフィリア」で身体もあたたまり、「Sister」では調子も戻り切れ味鋭い演奏で魅了。そしてミディアム・テンポにバンドのパワーが宿るという曲調も含め、4人の核心に最も触れる「白い部屋」へ。この日の「白い部屋」は触れたら壊れそうなほど繊細だった。"音楽家は節目節目に情と念を込めて曲を書きます。それが生きる原動力となっていくんでしょう"――森がそう語り演奏された「虹」には、ネクスト・ステージ目がけてひた走るバンドの姿が重なった。「白い部屋」と「虹」で見せた姿は相反していたが、どちらのBrian the Sunも本心。環境の変化を間近に控える、生々しい等身大の姿だった。
 
そしてアンコール、森が"メジャー・デビューします"と発表すると、フロアからは大歓声&拍手喝采。泣きながら抱き合う少女たちの姿も多数見かけた。"これから先、何が起こるかわかりませんが、あなたたちのことを裏切りたくないし、置いていきたくありません。一緒にいいとこ行きましょう"。森がそう語り演奏された「神曲」は、とても優しかった。"今はまだ 未来など 見えちゃいないけど/僕はまだ歌うだろう ずっとずっとずっと/これからも 未来など 見えやしないだろうけど/君の手を離さない ずっとずっとそれだけはずっと"という歌詞は、この日のために生まれてきたのではないかと思うほど。"これからもきっとみんなに助けられることでしょう。......まだまだこっからやな"という森の言葉のあとの「ロックンロールポップギャング」は4人の満面の笑みがそのまま音になったようだった。彼らの歴史において大きな分岐点となった2015年11月25日、インディーズ・ラスト作『シュレディンガーの猫』のツアー初日。ここが新たな始まりだ。

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