Japanese
蟲ふるう夜に
Skream! マガジン 2015年09月号掲載
2015.07.31 @渋谷CLUB QUATTRO
Writer 吉羽さおり
6月4日の"蟲の日"に予定していたワンマン・ライヴ"スターシーカー"だったが、直前に蟻(Vo)がインフルエンザに罹ってしまいキャンセルに。その振替公演が、7月31日に開催された。2014年末には、慎乃介(Gt)が難病のフィッシャー症候群に罹患し、一時休養していたこともあって、4人が揃った蟲ふるう夜に復活のライヴであり、春にリリースしたミニ・アルバム『スターシーカー』の記念すべきリリース・パーティでもある。仕切り直しにはなったが、バンドはもちろんファンにとっても待ち望んだ夜だ。フロアから"おかえり!"という声があがる中、ライヴはミニ・アルバム『スターシーカー』の1曲目でもある「君という光、僕の走る道」でスタートした。
蟻、慎乃介、春輝(Ba)、郁己(Dr)に加えて、サポートにキーボードとコーラスを迎えた編成での演奏。そのサウンドは、会場を歓喜で包むようなパワーと昂揚感に溢れている。蟻がMCで、"今日来てくれたみんなが、特別な1日だったと帰れるように盛り上げていきたい"と語ったが、サウンドにはその気迫が爆発している。こんなにも明るく力強く、頼もしいバンドだったかと驚くほどだ。『スターシーカー』からの曲の他、1stアルバム『僕たちは今、命の上を歩いている』(2010年リリース)や、3rdアルバム『蟲の声』(2013年レンタル&配信限定リリース)からの曲も新たな命が吹き込まれたようで、痛みを分かち合うような叫びを持った曲たちは、聴き手を抱きしめるサウンドへと深化した。"無償の愛情を注げる存在はいますか。今日はあなたの1番愛する人をここに想い浮かべて聴いてください"と蟻のMCをはさみ、主人の死の傍らで健気に寄り添う犬の姿を描く「犬」を歌う。慎乃介が奏でるアコースティック・ギターを軸に淡々と物語を綴るサウンドに、エモーショナルな蟻の歌声が、切なさを呼んだ。
中盤には、今日のワンマンのために作ったという新曲「傘」を、蟻とキーボーディストのふたりで聴かせ、続くインスト曲は、慎乃介、春輝、郁己の3人で爆裂なアンサンブルで会場を熱くする。慎乃介は、"8ヶ月ぶりのライヴで、すごく気持ちいい"と言い、"なんかウケ狙おうと思ったけど、やめた"と今日ステージに立った思いをダイレクトにMCと音に詰めて、フロアに投下。歓声と拍手とともに、郁己の力強いビートに合わせ掛け声が大きく響きわたった。「同じ空を見上げてた featuring GOMESS」では、ラッパーのGOMESSをステージに呼び込み、蟻が彼との出会いや、曲の背景を語る。引きこもった弟の思い、その姉が語りかける言葉や思いを形にしたこの曲。実際に蟻には弟が、GOMESSには姉がいて境遇が似ていること、そこにGOMESSの経験を重ね合わせてできた曲だ。この日はアドリブ的に、引きこもっていた少年が、"今日のこのステージに立っている"、ということまでラップにし、フロアにはひと際大きな歓声が響いた。GOMESSが起こした熱狂を引き継ぐように、きらびやかな「ホウセキミライ」、「わたしが愛すべきわたしへ」から、"みんなのおかげで最高の日になった"(蟻)とあり、最後に演奏されたのは「スターシーカー」。メロディを縁どるドラマティックなピアノと、軽やかで疾走感のあるバンド・アンサンブルがフロアを駆け抜けていく。柔らかな蟻の歌声がまっすぐに伸びて、サウンドと絡み合いながら力強さを増し、最後までグッと観客を掴んでいくライヴだった。
アンコールでは、メンバーひとりひとりが今日を迎えられた思いを伝え、実は当初予定していた6月の時点では、蟻だけでなくメンバーみんなインフルエンザに罹っていたことも暴露。蟻曰く、"39度の熱の中、7月31日は絶対にこのことを笑い飛ばしてやる!って思って書いた"という新曲、「フェスティバル」を披露した。跳ねたビートにハンドクラップが似合う、夏にぴったりの爽快な曲――というと、アルバム『蟲の声』などのダークな激情サウンドを展開していたバンドとは思えないが、歌に込めた思いはすべて地続き。内向きだった視線が、少しずつ外に、誰かに、そしてもう1度自分自身に向いて、一歩ずつ前進していく。そんな物語を見ているようで、この先の展開が楽しみになるライヴであり、今の彼らを伝える笑顔の一夜だった。
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