Japanese
東京カランコロン
Skream! マガジン 2015年08月号掲載
2015.07.10 @中野サンプラザ
Writer 石角 友香
初のホール・ライヴをこの日を含めて今回のツアーで3ヶ所行った東京カランコロン。派手で豪華なライティングや映像の演出ももちろん効果を上げていたが、何より届いたのはニュー・アルバム『UTUTU』の楽曲の強さ、そしてデコボコでてんでバラバラなキャクターを持つ5人がまさに前作タイトルのように"5人のエンターテイナー"として、ホールというスペースの特性に見事にハマっていたことだ。
冒頭からネタバレしてしまうが、本編で彼らは『UTUTU』の12曲をすべて披露。しかも前半の10曲中、アルバムからのナンバーが8曲という、このアルバムにかけた情熱と今のバンドのスケール感が見事にリンクしたセットリストだったことも意義深い。ステージにかかる紗幕に4月からスタートしたツアーのライヴハウスを主にした各地のスナップが映し出され、いよいよファイナルという文字とともにメンバーのシルエットが浮かび上がり、大きな歓声とともに始まったのは、軽快且つタフな「恋のマシンガン」。せんせい(Vo/Key)の声の伸びやかさと力強さに、早くもこのライヴが充実したものになりそうな予感。「16のbeat」「フォークダンスが踊れない」以外は、その後『UTUTU』のナンバーを畳み掛けていくのだが、いちろー(Vo/Gt)とせんせいの高音の突き抜けっぷりと、マス・ロックばりの抜き差しがカランコロンならではの「夢かウツツか」や、おいたん(Gt/Cho)の大げさなぐらいのラウドなギターと雷鳴のシーケンス、そして花札やら富士山やら、あらゆる外人が想起しそうなニッポンのモロモロが映し出される中での「ビバ・ラ・ジャパニーズ」はいちろーの朗々たる歌いっぷりと歌詞のナンセンス具合が最高だ。洋楽コンプレックスを笑い飛ばそうとして大仰な曲になってしまった(!?)感のあるこの曲の中でも"盆栽"とか"正座"とともに"過労死"の文字が毛筆で迫ってくる演出は、悪いがお腹が痛いぐらい笑ってしまった。しかもせんせいのチェンバロ調のサウンドによるエンディングまで含めて完璧に"舞台"的で、ポップ・ソングで描く一大叙事詩を完遂してくれた。物語性で言えば、せんせいが女優ばりの声のキャラクターを発揮した「左耳から白旗」では、歌詞の"返事はNO"の"NO"の部分を見事にオーディエンスが声を揃えて、アルバムの聴きこまれ方の深さを思い知る。ギター、ベース、シンセが連なっていくパズルのような「△□」をナマで見事に消化する演奏はツボを刺激しまくるし、サビをシンガロングしたくなる「かいじゅうになって」まで、10曲で体感としては後はもう終盤かな?ぐらいの濃密さでステージは進行した感。
そこにいちろーがワンマンならではの"どきどきゾーン"の開始を告げ、まだ制作途中の曲に入れるために会場全体でコーラスとハンドクラップ急遽レクチャー。次第に力を帯びてきた声の集合を必ず音源化するという言葉にファンも期待の籠もった歓声で応えていた。そして、この日最強にカランコロンがこれまで積み上げてきたアレンジ力やアイディアを満載した新曲「スパイス」が、CD以上に鮮やかで音楽的にも高い筋力で鳴らされたことに非常に感銘を受けた。どきどきゾーンのラストはカラオケで踊る「ネオンサインは独りきり」。演奏以外で5人のキャラが見えて笑わせてもらったが、"本当にすいません"(いちろー)、"もうやりません"(せんせい)と、即座にお詫び。これにも笑った。
そんな爆笑モードから、いちろーとせんせいによる弾き語りコーナーにスイッチできることも驚きで、きっと彼ら、特にいちろーの中にはホールだからこそできるライヴのアイディアとヴィジョンが溢れんばかりにあって、ものすごい熱量とともに冷静さを保ちつつ、その理想を遂行しているんだろう。「ぽっかりsweet」の愛らしさ、そして再びせんせいのディーヴァっぷりが発揮された「マッハソング」にカランコロンの心臓部であり、ポップソングの心臓部でもあるふたりの歌ぢからに圧倒された一幕だった。
再びバンド・セットで演奏を始める前にせんせいが言葉を選びながら、"『UTUTU』ってアルバムがみんなに出会わせてくれて、私たちの今が詰まってると思ってて。そこにある色は瞬間やと思うから、毎日、明日、それとも今夜?今を変えようと思うきっかけになってくれたら嬉しいです"と語った。最終的には今、ここにいれることが嬉しいという言葉がバンドの気持ちを言い表していた。そして"今回のアルバムは日常について作ったから、よけい流行りに乗れないというか、サビのほんの1ヶ所も普通じゃないことをしたいと思って"と、いちろーがバンドのオリジナリティについて譲れない意思を語り、その意思をさらに固める際に影響した曲として「ヒールに願いを」をタイトルコール。J-POPリスナーにもリーチするポピュラリティを持ったメロディがホールに映える。そしてこの曲のためだけにグレーのジャケット姿でカリスマ・シンガーばりにいちろーがパフォーマンスする、ハード・チューン「笑うドッペルゲンガー」と、カランコロンの音楽的な振り幅を冒頭とラスト前に配置したことで、さらに『UTUTU』というアルバムのポテンシャルを堪能することができたと思う。しかもその意味合いをさらに深めるように本編ラストはアルバム同様、「終点から始発へ」を配置。エンディングに向かって圧を増していく5人のアンサンブルがプログレッシヴなまでの絡み合いを見せて、上り詰めていく。なんて貪欲なバンドなんだろうという思いは同時に東京カランコロンに対する称賛となって、満場の拍手がいつまでも続いた。アンコール含め3時間近い熱演、珍プレー(失礼)。変だとかバンドの型にハマらないとか、そんなことは曲そのものと演奏と5人の人間力で塗り替えて行ける。遠くない将来、またぜひホールならではのライヴを観たいと切に願う。
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