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LIVE REPORT

Japanese

NICO Touches the Walls

Skream! マガジン 2015年03月号掲載

2015.02.12 @Billboard Live TOKYO

Writer 山口 智男

BGMが流れる中、最新のアーティスト写真と同じカウボーイ姿のメンバーがステージに現れ、"Howdy!(=やあ!)"という光村龍哉(Vo/Gt)の掛け声を合図に演奏が始まった。光村が軽快にかき鳴らすアコースティック・ギターのカッティングを追いかけるように対馬祥太郎(Dr)がモータウン・ビートを叩き、古村大介(Gt)と対馬がそれぞれに自分の楽器を演奏しながら口笛を重ねると、客席から手拍子が起こり、早速、バンドを歓迎した。

NICO Touches the Wallsが2月4日にリリースしたアコースティック・アルバム『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』(以下、『Howdy!!』)のお披露目ライヴはアルバムのオープニングを飾る新曲「口笛吹いて、こんにちは」でスタート。跳ねるリズムがぐいぐいとひっぱる演奏に心が弾むと、自然にイスの上で身体も揺れ始める。その後、3人の演奏が再び加わり、"イエーイ!"と声を掛けあいながら演奏はさらにヒートアップ。

そこからたたみかけた2曲目はアコギをかき鳴らしながら歌う光村以外の3人がドラムを連打する「手をたたけ」。『Howdy!!』の聴きどころのひとつだ。先日のインタビューで"ビルボードでやって、うるさい。もう勘弁してくださいと言われたい(笑)"と冗談を交えながらその意気込みを光村が語った目玉ナンバーの予想以上に早い登場にちょっとびっくりしながら、対馬、古村、坂倉心悟(Ba)3人によるドラムの連打に負けない光村の力強い歌声に聴き入っていると、間奏では光村もスネアとタムを叩き始め、なんとドラム4台の乱れ打ち!!そこに観客の手拍子が重なり、2曲目にして早くもクライマックスと言ってもいい盛り上がりが生まれたので、"いきなりやっちゃっていいの!?"とちょっと心配になったが、バンドは間髪を入れず「THE BUNGY」をたたみかける。坂倉が唸らせるアコースティック・ベースの図太いフレーズにアコースティック・ギターをガット・ギターに持ち替えた古村が速弾きのソロ・フレーズを重ねる。そして、"1-2-1-2-3-4!!"という光村のカウントをきっかけに一丸となった4人の演奏が猛ダッシュ――たぶんこの時点で、客席にいるほとんどの人が今日のライヴは『Howdy!!』の曲を曲順通りに演奏するんだとピーンと来たに違いない。

『Howdy!!』を作るにあたって"ライヴの定番曲を、こういうふうに見せたらもっと盛り上がるんじゃないか"ということを考えたと光村が前回のインタビューで語っていたことを思えば、アルバムの曲順もライヴのセットリストを想定したうえで考えたに違いない。メンバー全員がドラムを連打する「手をたたけ」、4人がソロ・プレイを回しあったあと、ブルース・セッションになだれこんだ「THE BUNGY」――ライヴならではの見せ場を作って、ある意味、わかりやすく盛り上げるこの2曲を、アルバムの2曲目、3曲目に置いたのは、彼らがこの2曲以外にも見せられる(聴かせられる)ものはあるという自信があったからに違いない。

因みにこの日の会場であるBillboard Live TOKYOはいわゆるライヴハウスではなく、音楽と一緒に食事も楽しめるクラブ&レストラン。「THE BUNGY」を演奏し終えたところで一息つき、"みなさんこんばんは。ACO Touches the Wallsです(笑)"と挨拶した光村が客席を見渡して、しみじみと言った"近いですねぇ"という言葉からはステージ間近に迫るテーブル席の近さ(と、そこで飲んだり食べたりしている観客)に普段のライヴとの勝手の違いを若干、感じていることがうかがえたが、ライヴハウスとは違う距離感と雰囲気はバンドにとっても観客にとっても新鮮だったに違いない。

"普段のライヴハウスでは見せられないことも楽しんでもらえるのかな。最後までよろしく!"(光村)

光村と古村の二重奏が印象的なフレーズを奏で、「天地ガエシ」が始まる。序盤、ロックンロールの熱狂とNICO Touches the Wallsがロック・バンドとして持っている骨太さを見せつけた彼らが、メンバー全員イスに座って演奏した中盤で印象づけたのは、序盤とは打って変わってR&Bの影響やアダルト・オリエンテッドな魅力だった。「夢1号」を始め、じっくりと聴かせるバラード・ナンバーを、観客がうっとりと聴き入っている光景は大人な雰囲気の会場に相応しいものだったが、中でも特に印象に残ったのがスロー・バラードにアレンジした「芽」だった。メンバーたちが口を揃え、"1番大変だった"と語っていた曲だが、この日のライヴの出来を思えば、難しいアレンジに挑戦した甲斐はあったはず。伸びやかなハイトーン・ヴォイスの歌で観客を魅了しながらヴォーカリストとして存在感をアピールした光村のみならず、古村と対馬の美しいハーモニー、古村のギター・ソロ、そして坂倉が奏でる歌うようなベース・ラインとメンバーそれぞれに聴かせどころがあったこの曲もまた、序盤の「手をたたけ」や「THE BUNGY」に負けないこの日のハイライトのひとつだったと思う。

"楽しんですますか? 気持ちいいですね。非常に"と客席に語りかける光村もすっかりリラックスしているようだった。"僕、楽器の扱いが雑なんです(笑)"と親から小学校の卒業祝いに買ってもらったアコースティック・ギターを、このバンドを組む直前に横断歩道に落として壊してしまったエピソードを披露してから、光村が今回のアコースティック・ライヴに合わせ、新たな購入した(19)65年製のアコースティック・ギターを見せ、"こいつをここからバキバキと弾き倒していきたいと思います"と宣言。対馬以外の3人が再び立ち上がって、「Broken Youth」から終盤に突入したところ、ストロークが激しすぎたせいか、いきなりその65年製のギターの弦が切れてしまうというハプニングが発生。グッドなのかバッドなのかよくわからない、とにかくそのジャストなタイミングに歌いながら思わず吹き出してしまった光村は歌い終わると、"アコギの神様に怒られたみたいです"と苦笑。最後に"(曲順という意味ではびっくりはなかったかもしれないけど)、そうじゃないところでびっくりがありましたね(笑)"と振り返っていたようにアコギの神様には怒られたかもしれないけど、ライヴの神様は彼らに微笑んだんじゃないかと思えるハプニングもまた、この日の思い出としてライヴに足を運んだファンの記憶に残るのだろう。

そして、「ニワカ雨ニモ負ケズ」でラストスパートをかけるように熱度満点の演奏を見せ、客席を沸かせると、最後は光村が弾き語りで『Howdy!!』のラストを締めくくる「バイシクル」を熱唱してダメ押しでヴォーカリストとしての実力をアピール。アンコールなしでこれで終わりと思いきや、バンドは観客の声援に応え、"ACO Touches the Walls、新曲をやります"と『Shout to the Walls!』収録の「ストロベリーガール」をソウルフルなアレンジで披露して1時間20分のライヴをハッピーなムードで締めくくった。

本当に楽しいライヴだった。『Howdy!!』が単なるアコースティック・アルバムではなかったように、そのお披露目ライヴも単にアコースティックということだけに止まらず、彼らが持っているさまざまな魅力を、大音量、高音圧に頼らずに剥き身の演奏で印象づけるものだった。その挑戦がこの間のインタビューで"自分たちならではの音楽の遊び方を、楽しくやりながら攻めのモードに転換できた"と言っていたようにこういうとことん楽しいライヴになるところが現在のNICO Touches the Wallsの強みなんだろう。それを示せたという意味でも今回の挑戦は大きな意義があったはずだ。バンドの芯にある強さを見つけた今回のライヴを観て、筆者はますます彼らのことが大好きになってしまった。

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