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LIVE REPORT

Overseas

MAXIMO PARK

2014.04.03 @代官山UNIT

Writer 石角 友香

ニュー・アルバム『Too Much Information』を1月にリリースしたMAXIMO PARK。なんと来日は2009年のFUJI ROCK FESTIVAL以来というから月日の流れの早さに軽くクラッとしてしまう。しかしアルバムが2014年ならではサウンド・プロダクションだったこと、偶然とも必然ともとれる経緯でオープニング・アクトにtricotが出演すること(その経緯は2組の対談で確認してほしい)など、フロントマンのPaul Smithの審美眼は相変わらず冴えている。

オープニング・アクトに登場したtricotは、サポート・ドラマーにDETROITSEVENの山口美代子を迎えた新体制。ほぼMAXIMO PARKのファンが占めるフロアは最初こそ様子見な態勢だったが、若くキュートな女子たちがゴリゴリの関節外しなマス・ロック・チューン「おちゃんせんすぅす」や、タイトなアンサンブルの「おもてなし」をシュアにプレイするとさすがに大きな歓声が。特に外国人男性は消費アルコール量に比例して、かなり自由なノリだ。"はじめまして、改めましてtricotです!"と中嶋が自己紹介するとフロアからは"ロックンロール!"と先の(?)外国人男性が声を上げ、ほぼその場をロックした後半も緩急のツボを押しまくる「爆裂パニエさん」「おやすみ」など、トータル6曲をプレイし、驚きと好意に満ちた拍手に送られメンバーはステージを後にした。久々のアウェイをむしろ楽しんでいるような彼女たちはやはり頼もしい。

転換を終え、不穏なシーケンス音とともにPaul以外のメンバーが定位置に付いたものの、キーボードの配線トラブルなのか、Lukas Wooller以外のメンバーが一旦ステージをはける。"サンクス!"とまるでライヴ終了のようなジョーク、SEまでラウンジーなムード・ミュージックにする辺り、チーム全体がブリティッシュ・ジョークを共有してるっぽい。状況が整い、改めてメンバー・イン、そして黒白プリントの粋なスーツにハットのPaulが登場、変わらぬスタイリッシュさがライヴハウスをすでに少々シアトリカルなムードに変える。オープナーはニュー・アルバム『Too Much Information』同様「Give, Get, Take」。音源でのエレクトロとポスト・パンクがミックスされたイメージよりも、Elvis CostelloやXTCらから綿々と続く英国的なセンスがアップデートされたプレイに、長いキャリアを支えるMAXIMO PARKのDNAのようなものを感じた。

その後、「Our Velocity」など、『Our Earthly Pleasure』『A Certain Trigger『The National Health』といった新旧のアルバムからもバランスよく披露してくれるのだが、初期ナンバー「Signal & Sign」にはひときわ大きなハンド・クラップが起こる辺り、登場当時からの根強いファンがフロアを占めていることがよくわかる。再び新作からガレージ・ライクな「My Bloody Mind」、ドープなムード漂う「Brain Cells」の後半でのPaulの熱唱のサマになり具合を見ていると、ポスト・パンク・リヴァイバル世代であり、その後、肉体的なロックも通過してきた彼らだが、その魅力は硬質なサウンド・プロダクションと矛盾しないエモーショナルなストーリーテリング能力なのでは?とだんだん確信していった次第だ。
"ゲンキデスカ?""ボクラガマキシモパークデス!"と日本語でのMCも随所に挟みながら、しかし大半は曲に関する恐らく詩的な説明をイントロダクションにしつつ、ステージを進行していく洒脱なエンターテナーぶりは、そこがアリーナでも小さなヴェニューでも関係ないのだろう。Paulだけでなく、メンバー全員、ニュートラルに、そして丹念に演奏に注力しているのが素晴らしい。中盤にはDuncan LloydのJohnny Marrばりのフレージングが切なくも美しい「Lydia, The Ink Will Never Dry」、ダークなシンセポップ的な「Leave This Island」と、まったく飽きさせない。無論、Paulのメロディが半端なくドラマを内蔵していて、しかもそれが自然なせいもあるのだが、シンプルなアンサンブルでありつつ、もっともっと曲を聴きたいと思わせる曲の良さという牽引力を改めて痛感する場面でもあった。

"ダイスキ!トーキョー!"と、弾けまくりのMCに続いては歌詞に東京や京都が登場する「Drinking Martinis」とつなぐのも心憎い。"スペキュタキュラーな音楽をありがとう、tricot"と久々の来日と、Paul自身の慧眼で共演と相成った若い友人への感謝も述べてくれた。ひたすらいい曲を確実な演奏と、Paulの表現力豊かなヴォーカル、パフォーマンスで届け続けてきたバンドは、なんと本編だけで23曲を披露。ラストはひときわニュー・ウェーヴィなタイトなリズム隊と、エモーショナルなメロディの対比が美しい「Midnight On The Hill」で、上昇感のあるエンディング。UNITでこれほど暖かな拍手と歓声、指笛を聴いたのは久々。大人のリスナーの自由なリアクションの心地よさを思い出す瞬間でもあった。

止まないアンコールに応えて早々に再登場した5人は"また会う日まで!"と新作からまさに彼らの音楽の旅が続くことを示唆する「Where We're Going」、そして、大ラスには今も色あせることのない初期からの人気ナンバーにして独自のストレンジでビューティフルな世界を祝福する「Going Missing」が10年分のタフネスと優しさを纏って鳴らされた。オウン・レーベルで自由な創作に臨む今の彼らは、過去最強に音楽至上主義な状態にあるのかもしれない。5年に一度なんて言わずに、遠くない未来、また来日してほしいと切に願う。

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