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LIVE REPORT

Overseas

4AD evening

2011.01.24 @Shibuya O-EAST

Writer 山田 美央

重ねてにはなるが、2010年は若手から大御所までローファイ・サウンドが勃興した年だった。その筆頭角ともいえるAriel Pink。2004年のデビュー以降、"ローファイの父"と呼ばれるまでに奇天烈なローファイ・ポップをばら撒き続け、ARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITI名義でニュー・アルバム『Before Today』をリリースしたことは記憶に新しい。そんなARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITIを始めとし、同じく昨年『Halcyon Digest』をリリースしたDEERHUNTERに、大御所BLONDE REDHEADが集結した4AD evening。TWIN SHADOWなどの獲得を行い稀代のセンスを光らせている4ADのイベントというだけあって、開演前からひしめき合う人の群れ。開場後も入りきらないオーディエンスで溢れ、場外にまで熱気が立ち込めていた。

O-Eastへ一堂に会した物好きたちを異世界へ昇天させるべく先陣を切って登場したのは、ARIEL PINK'S HAUNTED GRAFFITIの面々。例のごとく、全員が古臭いアイドルよろしくギラギラとした装飾品を身にまとっている。「Beverly Kills」で幕を開けた後も、Arielに至っては始終よく分からない単語を発し、ステージをうろうろうろうろ。いきなりの先制攻撃に呆然と佇みためらうフロアを横目に(むしろ見えているのかも分かったものではないが)、不敵な笑い声やため息を漏らす。その全くもって奇想天外で、魅惑的で、圧倒的な立ち振る舞いにぐいぐいと引きずり込まれていく。ぐちゃぐちゃに絵の具が塗り重ねられた張りぼてのような印象を与えるステージの中、巨大な赤ん坊のように本能のみに突き動かされるがごとく、Ariel Pinkという名の怪物は暴走を続けていた。思いつくがままに音を鳴らしている姿は、煙のように実体がなくぼんやりと私たちを包み込む。サウンドやリズムに"のる"のではなく、圧倒的に"呑まれて"いく感覚。ぬるま湯に長時間つかっている時のように、次第に頭がぼんやりとしてくるのだ。引き続きの浴槽イメージになってしまうが、フロアの空気の流れは湯船の栓を抜いた後の湯の流動する動きを彷彿とさせる。はじめは水位が下がるだけで何の変化もないが、気がつけば段々と渦を描き、不穏な音と共に姿を消す。そんな、一癖も二癖もあるようなサウンドに心躍らされてしまう。僅か10数曲という時間であったが、その濃縮された引き延ばされた時間の中においては、どんな抵抗も無力であったように思う。安っぽく変態的な空気にいかに中てられようとも、決して目をそらすことは出来ない。危険すぎるR指定のサウンドだ。

どのようにステージを構成するのかという点が気がかりではあったものの、予想外に骨太なバンド・サウンドがArielの狂気を際立たせていた。虚像というか幽霊のようにゆらゆらと、実像の掴むことの出来ない彼にどうしてこうも惹かれるのだろうか。彼の狂気の裏に潜む、無垢で真っ直ぐで傷つきやすい姿に母性本能が働くからだろうか。一人ぼっちで録音機と向かい合っていたArielの姿からブレることなく、より大きな舞台と拡張器を手に入れた子供が嬉々として音遊びに没頭しているかのようであった。

この狂気と歓喜の余韻渦巻く中、DEERHUNTERがやってきた。相変わらずの少年のような出で立ちでフロアと向き合うと、「Desire Lines」で軽くジャブを繰り出した。・・いや、ジャブどころか強烈なストレートに、ずどんと脳のゆるい部分を狙い撃ちされたような感覚に陥ってしまった。いわゆる爆音ではないのだけれど、太古の昔から鳴り響いてきた地鳴りのようにジワジワと拡散され、洞窟の中で音が反響しているようなスケール感で迫り来る。クロールするようにゆっくりとしたウネリと切れ目のないサウンドの流動性はやはり生で体感すると恐ろしい。哲学的で耽美な世界への没頭を要求し、半ば強制的にトリップさせる。強烈で重みを獲得したサウンドは深く深く沈みこんでいくようで、Ariel Pinkのささくれ立った奇天烈さとは打って変わって、波間に揺られているような感覚を引き起こす。

「Don't Cry」では、ファズとエコーの向こう側にある暖かなメッセージを何人もの人がかみ締めていた。それは、かつての自分たちと、この音楽を一心に求める者への救済の言葉だ。細い身体から放たれる気高さは洞窟のような会場の中を木霊し、緩やかな流れを作り出していた。圧倒的にカラフルだった前ステージとは対照的に、落ち着いたライトで照らされるステージは深海のようで、彼らのサウンドの深さを象徴してるかのようであった。センシティヴな感性とバンド・サウンドを互いに引き合うようにして上った次のステップ。ナイーヴだった少年からの脱皮。4人の姿からは確かな自信が伺えた。

この日、トリを飾るべく登場したのはBLONDE REDHEAD。ステージ後方の壁には一面にアンテナ上に花開いたライトが灯され、ぼんやりとした幻想的な空間を描き出していた。そこへ全身白で統一された3人がやってくると、彼等の姿を一目捉えようとオーディエンスが詰め寄っていく。アメデオ・パーチェの語りかけからジワジワと「Black Guiter」が展開され、カズ・マキノの一息でフロアの空気が一変した。これまでの黒魔術的攻撃的なサウンドとは打って変わって、モノクロでスモーキーなカズ・マキノの白魔法的儚げな世界に染められていく。デカダンスな世界は、観られることを前提とした大御所然とした雰囲気を持ちつつも、実験的で自らの探究欲を満たすことを恐れない姿勢を感じさせた。VELVET UNDERGROUND、Nicoらを匂わせつつも、一層の透明感をまとった美意識。淡々と躍動的に切り開かれていくステージは、圧倒的に美しく、脆い。

"ここしばらく声がでていませんでした。でも、ある人のおかげでまた歌えるようになりました"― カズ・マキノが唯一語ったMCを挟んで、再び醒めることのない夢の世界への扉をあけた3人。そうして、恐らくほとんどの人が、時間感覚など完全に機能不全な状態で迎えたであろう「23」。気付けば、ステージからは3人の姿は消え、フロアには夢と現の間を彷徨うように取り残されたオーディエンスが立ち尽くしていた。客電が落ちた後も、フロアには冷たい熱気の名残が立ち込めていた。現実に引き戻されたオーディエンスは彼らの再場を求め、そんなラヴ・コールに応え再びステージに姿を現したBLONDE REDHEAD。「Spain」一曲に最後の力を振り絞るようにして、全身で幻想を奏でていた。

こんなにも最高で現実味のないイベントはない。正直、ソールド・アウトなんて世の中どうかしてるぜ!そう口にしたくなってしまう(もちろんいい意味でだけれど)。それは夢を共有したいという欲求と、自分の中だけに留めておきたいという子供じみた独占欲からきた発言だ。どれだけ世の中の人々が現実世界ではなく夢を求めているのか。表現のスタイルは違えど、今宵集った3組の純粋無垢な意志は確かに私たちを突き動かしている。

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