Japanese
cro-magnons
2009.02.09 @渋谷C.C.Lemonホール
Writer 榎山朝彦
「FIRE AGE '08-'09」と題された今回のツアーは、クロマニヨンズにとって最大規模。全国のライヴハウスを駆け巡った後にホール公演へとなだれ込む、という、ノンストップ雪だるま式のロックンロール・ツアーである。約4か月もの間、日本列島を加速しながら転がり続けるクロマニヨンズは、終盤に差し掛かった2/9の東京公演でも、会場に集まったぼくら猿人の心臓に火をつけてくれた。
会場の渋谷C.C.Lemonホールは、開演前から真っ赤なツアーTシャツに身を包んだ人たちでいっぱい。全席指定であるにも関わらず、場内の空気はライヴハウスに近いものを感じる。なにしろ前説の人が舞台に上がった時点で、すでに一部の人たちは拳を突き上げ「ウオー!」である。これからステージ上で起こる全てのことに、自分たちを賭けようとしているのだ。バンド登場前から、こんなにも熱を感じるライヴは久々である。
前説の「ザ・クロマニヨンズ!!!」というシャウトとともに4人が登場。SEはTHE DOORSの「Light My Fire」のインストだ。ステージのバックには、煌々と光る炎のオブジェが散りばめられている。アルバムやツアーのタイトル、SE、そしてオブジェ。4人がこれから「炎」をコンセプトに、燃え上がっていくことが分かりやすく伝わる。ヒロトは、ゾンビみたいに手をぶらぶらさせながら臨戦態勢。そしてマーシーは、いつものバッチリきまったバンダナ姿で、静かにギターを持ち上げる。あまりにも絵になる2人。きっと20年以上前からこうなのだろう。
一曲目、「ゴーゴーゴー」でライヴスタート。初っ端から、突き抜けるような高速パンク・ナンバー。性急なビートながら決して前につんのめることのない、ドラム桐田とベース小林のリズム隊に、あのカラッとした音色が独特な、マーシーのギターがジャキジャキと乗っかってくる。年々声が若返っているのではないかと思うほど、高音でハジけるヒロトのボーカル。盛り上がらないわけがない。早くも場内はデッドヒート状態である。
しかし、凄いのはここからだ。二曲目以降も、フルスロットルのパンク・ナンバーを立て続けに連打したのだ。「エイトビート」、「ぼうふら」、「独房暮らし」。新アルバム『FIRE AGE』の初頭に収録されたこれらの一撃必殺ナンバーを、余すところなく再現。MCも曲のタイトルを一言叫ぶだけで、ひと休みもへったくれもない。次の「ギリギリガガンガン」で速度が限界まで引き上がり、軽くめまいを覚えるまでパンク・ナンバーの応酬は続いた。
ようやく、ヒロトによる長めのMC。真っ赤な「FIRE AGE」と書かれたツアータオルを指差して、「みなさんご覧のとおり、この水色のタオルにはC.C.Lemonと書いてありまーす」。場内爆笑。さらにC.C.Lemonネタは続き、ステージのバックに掲げられたツアータイトルを指差して、「あそこにもC.C.Lemon」とか、しまいには「今日はみなさんお酒を一滴も飲まずに、C.C.Lemonを飲んで楽しんでってくださーい」。固唾を呑んでヒーローの言葉を待ちわびていたファンを、笑いの渦で煙に巻く。さすがヒロトである。
6曲目からはテンポを少し落として、新アルバムから「ニャオニャオニャー」「自転車リンリンリン」を披露。アルバムの構成と同じような流れにしているのは、リリース後のツアーならではだ。次の「スピードとナイフ」は、現時点でクロマニヨンズ最大のアンセムと断言していいほどの名曲。モータウン調の跳ねたビートに、ヒロトしか作り出せない哀愁のメロディーが絡みつき、胸に突き刺さってくる。これまでパンク・ナンバーで暴れまわっていた人たちも、この曲はビートにあわせて、歌うように踊る。個人的に、この日のハイライトともいえる1シーンだった。
その後は、新アルバムの曲と過去の曲を織り交ぜたセットで続いていくのだが、なんといっても白眉は12曲目、「くじらなわ」。曲が始まる前に、ヒロトが前方のお客さんと何やらヒソヒソ話をしていたので、何が行われるのかと思いきや、曲中にお客さんの名前を歌い上げるという まさかのアドリブ!三文字の名前を探していたヒロトに、「にしだ!」と苗字を叫ぶ人もいたりで大爆笑。ステージと客席の距離を一気に近づけるこのアドリブは、貫禄のなせる技といったところか。
マーシーが楽しそうにリズムを刻む、ゆったりしたレゲエ・ナンバー「海はいい」、そしてアルバム未収録のナンバー「渋滞」などを経て、「レッツゴー宇宙」へ。照明が暗くなってヒロトがタコ踊りを披露する、ミもフタもない宇宙の演出。「1.2.3.4!」の掛け声とともに演奏が爆発する様はまさに見物、コンセプチュアルなクライマックスだ。
そう、クロマニヨンズというバンドの持つコンセプトは明確である。それは、この50年間ですっかり垢がついてしまったロックンロールというアートフォームに、再び原始的で宇宙的な力を取り戻す、というものではないだろうか。アンコール前に披露された、桐田が呪術のように叩きまくる怒涛のドラム・ソロを見ても感じたことだが、様式に囚われてがんじがらめになったロックンロールを開放するような力がこのライヴにはあった。薄曇った複雑な世界の住人であるぼくらの視界をクリアにし、生まれたての猿人並みのフレッシュな感性にしてくれるからこそ、ロックンロールは最高なのだと。実はブルーハーツ時代から、ヒロトとマーシーのロックンロールは元々そういったコンセプトの上に成り立っていたのではないかと思う。20年以上の活動を経て、そのコンセプトを今なお一層ラディカルな形で提示できる2人は、いや、クロマニヨンズは、日本の誇る極上のロックンロール・バンドである。
「レッツゴー宇宙」の後は、再び音速のパンク・ナンバー乱れ打ち、本編のシメはやっぱり「タリホー」!マーシーが弦にピックをキリキリキリっと走らせる音は、無敵という他ない。そしてアンコール、最後の最後は「クロマニヨン・ストンプ」で座席も吹っ飛ぶ大騒ぎ。最高。C.C.Lemonホールが燃え上がったよ!
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