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INTERVIEW

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MEW

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Member:Jonas Bjerre(Vo) Johan Wohlert(Ba)

Interviewer:KAORU

-『+-』も素晴らしい作品でしたが、『Visuals』はさらにミステリアスで、余韻、残像が長く頭に焼きつき、それがイマジネーションを掻き立てます。何か物語があるような。この作品のテーマについて教えてください。

Jonas:具体的なテーマは特になかったけど、強いて言えば"Visuals"っていうタイトルが先にあったから、それがテーマになったと言えるかな。全体的に、視覚的なものを刺激するストーリーになっていると思う。基本的に、"この曲では、一体何を言いたいのか?"っていうことを突き詰めて考えていった。何を伝えたいのか、何をどんなふうに書くべきなのか? って。内容的な部分についてはあまりこちらからみんなに強制したくないんだよね。聴いた人それぞれの頭の中で好きな絵柄を描いてほしい。でも、今回はいつもより内容の説明をしている方だから、みんなに喜んでもらえたら嬉しいな。それから、MEWのライヴは昔から視覚効果を使ってきたし、今回のツアーでもそのへんにこだわりたいから、今、頑張って作業してるところだよ。

-『Visuals』のサウンド面においては、どのようなことを心掛けましたか? または苦労しましたか?

Johan:自然の成り行きだったのかなと思うのは、新しいサウンドを作るとき、やっぱり前作のサウンドがひとつの比較対象として常に出てくるんだ。前作は大作の曲もあったりしてわりと幅広かったけど、ある意味それに対する反発として、今回はより焦点を絞った、短く、簡潔な、メッセージもわかりやすいものが作りたくなったっていうのがあったよ。ただ、僕らはパンク・バンドじゃないから、曲を簡潔にと言っても、パンク的なやり方じゃなくて、僕らなりの簡潔さを模索しなければいけないんだけどね。そういうなかで、うまく作られている80年代のポップ・ミュージック。超メイン・ストリームとまではいかないんだけど、メイン・ストリームの音楽とうまく共存しているような、とても良質な当時のポップ・ミュージックがあった。今回作った曲のデモを聴いた印象に、何かそういったものと通じるものがあるんじゃないかと思ったんだ。今回はそんなサウンドの方向性を探求してみた。決して壮大なバラードがあるわけじゃないし、もちろんハード・ロックな音があるわけでもないんだけど、収録されてるどの曲も、その"中間"に位置してる。これは自分たちにとって新しい試みだったよ。僕は常に、過去にやってきたこととは違う、新しいどこかへ向かって動いていくっていうことを重要視してきたから、それが今回もできていると思うよ。

-「Candy Pieces All Smeared Out」(Track.3)のイントロは独特の不穏さがあります。しかし、そのあと転調して曲が進んでいく。そして曲中にイントロのモチーフがまた入ってきて、次はまた違う展開をしていく。この特徴的なモチーフにはどういう意味が込められているのですか? また、この曲の歌詞はどういうことを歌っているのですか?

Jonas:たしかにいろんな要素が盛りだくさんだね。サウンド面は、昔のテクノロジーに遡った部分もあって。Amiga 500っていう古いコンピューターがあるんだけど、その機材で作ったリズム、周波数をいじりながら、面白いテクスチャーのリズムができてきたから、それをもとにして作っていった。イントロのあとからどんどん違う展開へなっていくんだ。必ずしも曲の展開に合わせて歌詞を書いたわけではないんだけど、歌っている内容は、今の世の中における自分のアイデンティティ、いろんな人がいろんなバージョンの自分(キャラクターとしての自分)、リアルな自分とは違う自分を世の中にプレゼンしている。果たしてリアルな自分はどこなのか? リアルな自分とは一体何なのか? と問われると、それがよくわからなくなっているような、ちょっと混乱した状況になってるんじゃないかなと思ったんだ。子供のころからデジタルの世界に生きてる人は特にそれが深刻で、"他人からどう見られているか"っていうことにすごく気を遣って、本当に自分が幸せなのかどうかってことよりも、人から自分が幸せに見えているかどうかを重んじてしまってる。それってすごく怖いことだなと思った。人からどう見られるかを気にさせるように持っていく力や構造が世の中にたくさん働いているけれど、それに負けてしまう、その奴隷になってしまうことはすごく危険だと思うよ。そういうことを書いた曲だね。

-「Twist Quest」では、ホーンの音を効果的に使っていますね。ソロの部分も素晴らしい。アルバムにはかなり多くのホーンが入っていますが、なぜこの音を入れようと思ったのですか? また、これを吹いているのは誰ですか?

Johan:曲のギターのリズムがもとにあって、そのリズムがホーン的な感じだよねっていうことで、実際にミニマルでファンキーなノリのホーン・パートを入れたんだ。今までもホーンを大々的に導入したことはあるけど、ここまでファンキーなノリの使い方をしたことはなかったし、初めての試みだね。実際にやってみて、安っぽい感じになっちゃったらやめればいいやって感じで実験的にやってみたときに、とてもいいものができたっていう流れ。吹いているのはMarius Neset(※ノルウェーのジャズ・プレイヤー)。彼は「Twist Quest」、「Learn Our Crystals」(Track.6)、「Carry Me To Safety」の3曲を吹いてくれてるよ。

-「Carry Me To Safety」は、アルバムを象徴づける曲だと言えるのではないでしょうか?

Jonas:たしかに、"もう無理だ、誰か助けてくれ"っていう、この世の中でどう生きていけばいいのかわからないというような心情、アルバムの背景にある現状が最も表れているという意味において、最も象徴的な曲になるのかもしれないね。

-世界的に、現在はロックが不況だと言われています。特にいわゆるギター・ロックです。しかし私は、MEWがこんなに素晴らしく示唆に富んだ作品を作ってくれて、とても嬉しいのです。MEWはいい状態にいるようですが、あなたたちはロック・シーンを見回したとき、"元気がないな"と感じることはありますか?

Johan:たしかに今、ギター・ロック・バンドはかなり厳しい状況にあるかもしれないよね。ただやっぱり、ギターを使っているバンド側も、これからさらに面白いものを作ろうっていう気概を持ってやっていくことで、リスナーの興味を引き戻していかなきゃいけないんじゃないかと思う。トレンドとか流行っていうのは、サイクルでぐるぐる回ってくるものだからどうなるかわからないよね。今から2年後くらいには、誰かがすごいギター・ロック・アルバムを出して、そのときにみんなが、"あぁ、こういうのが聴きたかったんだよ、しばらくなかったよね"ということになっていくかもしれないし。やっぱり人間が演奏している、感情のある音楽っていうものは、そういうところで求められるんじゃないかなと思う。ダンス・ミュージックはもう飽き飽きだよっていう人もいるだろうしね。

Jonas:さらに問題を深いところまで突き詰めれば、みんなは今"ちょっと聴き"、"かじり聴き"、みたいな状況に満足してしまっている。それは音楽に限ったことじゃなくて、ニュースでも見出しだけを見たらわかったような気持ちになって、それ以上掘り下げようとしないでしょ? そうする必要もないような事態になってきてしまってる。音楽で言えば、1曲だけ聴いて、それで満足して、アルバムとしての体験、聴く体験というのを誰も求めていない。

Johan:そういう状況だからといって、アーティスト側が手を抜いて、どうせみんな30パーセントくらいしか聴いてくれないんだったら、残りの70パーセントは適当でいいや、なんて思ってしまうことによって、アルバムの質がどんどん落ちていく。そういう負の連鎖も生まれているような気がするな。ということは、音楽全体のクオリティが落ちていくってことだから何もいいことがない。YouTubeの曲だけでいいやっていう人が増えていくのも、そういう状況を考えると当然な成り行きなんじゃないかなと思う。原因はいろいろあると思うけど、やっぱり音楽というもの、アートというものは、そういったクオリティの面で水増しされていってしまっては、何もいいことはないと思う。やはり作品を作る側としては、少なくとも自分たちが最初から持っていた野心を守りたいし、"いいレコードを作る"ということを常にきちんと追求していかなきゃいけないんじゃないかな。