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INTERVIEW

Japanese

illion

2016年10月号掲載

illion

Interviewer:沖 さやこ

-今の野田さんにとっては、RADWIMPSとillionもそういう関係ですね。

うん、そうですね。

-Track.1「Miracle」とTrack.10「Ace」はピアノやストリングスなどの生音のみで。特に「Miracle」は『UBU』(2013年リリースの1stアルバム)の延長線上を感じました。

「Miracle」は打ち込みとかを試す前の、去年できた曲で。このアルバムの中で最初にできた曲だから1曲目がいいかなって。「Ace」はほぼ最後にできた曲ですね。だから最初にできた曲と最後にできたこの2曲で挟んで、アルバムを封印するイメージが自分の中にあって。

-「Ace」はゴスペルのようなハーモニーも印象的ですが、これも実験のひとつですか?

んー......何も考えてない(笑)。ただ気持ちいいことを、面白いものを追い求めていっただけなんです。

-"実験"と"何も考えず気ままに"という、これもまた相反するもの同士が同居しているような。

あぁ、それは奇跡的なバランスで成り立ってるかもしれない。ソフトを使うというのは壮大な実験だけど、それをいざ自分のものにできたあとはもう自分のセオリーに従っていく。歌詞はまったく思考していないけど、ベーシックなところでは構築するという意味ですごく頭を使っている。曲の中にそのふたつが成立している......言葉ではなかなか説明しづらいんですけど(笑)。でも基本的にはどんな形にもなれるという状態で、柔らかい心ですね。ソロは言葉を費やして説明する必要がないから、ふわっとしたものがふわっとしたままできちゃうんですよね。その"ふわっ"を人に説明しようとすると膨大な時間がかかるけど、自分から生まれた"ふわっ"だから100%理解している。それをそのまま音にできちゃうのはソロの面白さですね。

-今回は、illionは感覚も思考もどちらも研ぎ澄まされてる印象があるけれど......。

うん、そうなんだけど、いたってパジャマ(笑)。『P.Y.L』は『UBU』よりもパーソナルな部分が反映されたので、illionはさらにRADWIMPSと対になる気がしましたね。illionがあるから次のRADWIMPSでさらに開けられるなと思うし、RADWIMPSの表現の裏返しとしてillionも進化していくんだろうなという感覚もあるし。illionは帰ってこれる場所としてある気がして、心強いですね。自分本位な部分が強いので、アートワークも含めて"もしかしたら一般的にはあまり伝わらないかも......"と思うことも、自分が面白いと思えば取り入れていこうと。RADWIMPSはRADWIMPSで、illionはillionで面白いことができたらいいなと思ってます。

-『P.Y.L』は常に心地いい違和感がありました。寝ている間に自分の部屋にある物がいろいろ動き出すような、すべてがファンタジーというわけではなく、現実世界が歪んでいくような、現実に見たこともない事象が浮かび上がるような。

あぁ、嬉しい。聴いてくれた人たちのリアクションがすごく楽しみなんです。RADWIMPSが好きなら絶対わかってくれるという感覚もあるし、自分の気持ちいいという想いはすごく伝わるんじゃないかな......と思うんですよね。

-ジャンルという垣根も、生音とデジタル音の垣根も超えた作品ですから、リスナーさんの新しい音楽への扉を開く作品にもなるのではないかと。

そういうきっかけになれたらいいなと思ってますね。音楽の裾野や懐は僕ではわからないくらい深いし面白いし。10年以上やってきても今回みたいに1年生みたいな気持ちになるし。面白いです。......でも俺は実はあんまり音楽を聴かないから(笑)、作る方が好きなんです。作ってるときに聴かないし、RADWIMPSの休憩でillionを作っているような気もするので、ずーっと音楽を作ってるから、必然的に聴かなくなって。

-アウトプットする方はインプットが必要になるとも思うのですが、野田さんにとっては何がインプットなのでしょう?

んー......何も入れてない気がする(笑)。あ、でも昔よりは友達に会うようになったかな。とはいっても基本酒飲んでるだけだし、実りある話はしてないけど(笑)。昔は曲を作る=アウトプットという感覚がすごく強かったから、できないときは半年曲ができなかったんだけど、今はただ"生きることの動作のひとつ"みたいな感じなんです。朝起きて着替える、ご飯食べる、トイレ行く、音楽作る、風呂に入る、寝る、みたいな動作のひとつというか。だから今僕にとって音楽を作ることは呼吸をすることに近くて。昔は力んで作ってたから、アルバムを作るたびに病気になってたんですけど、今はそういう感じだから破綻することもなく、どんな方法でも曲を作れているんだろうなと思います。

-『P.Y.L』は野田さんが普段感じているものをリスナーが体感できるところもあるのかも。

もしかしたら外に出す必要はないのかもしれないと思うほど自分の心地よさを追求して、でもエンターテイメントとしても成り立っている、不思議な作品だなと思います。今はパジャマもあるし、ばっちりキメることもできる。その間を行ったり来たりしながら、そのどちらでも音楽をやっているんですよね。でもたまに"疲れた~!"って思うので(笑)、もしかしたらまた急に(曲が)できなくなる瞬間も来るのかな、とも思う。だから作れるうちは止まる理由もないからやり続けます。

-楽しみにしています。ところで、この前の東阪ツアーのアンコールで5lackさんと披露していた曲はこのアルバムに入っていませんよね?

入ってないですね。あれはほんと、ワンマンをやるにしても曲が足りないから急遽作った曲で(笑)。

-MCでおっしゃっていたのは本当に本当の実話なんですね。

嘘つかないっすよ(笑)。ライヴでやっていてもバンド・メンバーの生音感も良かったから、あの曲もいつかレコーディングしたいですね。でも"出します!"って宣言するのもちょっと違うなぁ(笑)。これからもillionはたゆたって、気の向くままに続けていきます。