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INTERVIEW

Japanese

挫・人間

2016年09月号掲載

挫・人間

Member:下川 リオ(Vo/Gt)

Interviewer:沖 さやこ

-1991年生まれの下川さんにとって"ポケモン"は小学生時代の象徴。そしてこの曲は"夜"も大きなキーワードになっていますね。

僕は中学、高校、大学と、ちゃんと卒業はしているけれど意欲的に登校するタイプじゃなかったんですよね。そうすると生活リズムが逆転に逆転を重ねて夜に行動するようになって、家にも居場所がなかったから、夜中に音楽を聴きながら出掛けてうろうろ散歩するだけの毎日で。夜に散歩して、朝日が昇るくらいに帰宅してると、登校している小学生とすれ違うんですよね。それを見ていると"あぁ、俺の人生は間違った方向に進んでしまった......"って、そんなことを思い出しながら曲を書いてました。だから"青春時代"といわれる10代のころを思い出すとだいたいの風景が夜になっちゃうんです。

-小学生のころに好きだった女の子を想いながら夜を過ごしていたんですね。

そう言われるとちょっと恥ずかしいですね(笑)。小学校は地元の公立に通っていたんですけど、中学で私立に入学したので、好きな女の子とは離れ離れになったんです。それでたまに地元の友達と会ったりすると――下品な話ですけど"あいつとあの子がヤッた"という噂話になると"俺だけヤッてない!"という気持ちにもなるし、"もしかして僕の好きなあの子も......"という思考が止まらなくなる。この曲ができて、そのときに感じていた不安やド閉塞感が今でも続いてたんだ! と思いました(笑)。

-「テクノ番長」はテクノの文化とインターネットやゲーム、アニメなどのデジタルなサブカル文化、昔のことと今のこと、心で考えていることと頭で考えていることが全部混沌としているような......且つ、合いの手も入ってキャッチーさもあるのでちゃんとポップ・ソングとして成立して着地しているという、不思議な曲でした。挫・人間そのものというか。

これは僕の日常というか、当たり前の感覚というか――テクノも好きだし、アニメや漫画も好きなので、挙げてくださったことは僕の中では境目がないくらいぐちゃぐちゃしているものなんですよね。どう楽しめばいいのかわかりやすい構成にしようと思って作ったんですけど、歌詞までわかりやすくするのもなんだかな~......と思ったので、"楽しい曲だしせっかくだから自分の好きなもの詰め込もう!"ということで、"エヴァンゲリオン"が出てきたり、"ファイブスター物語"が出てきた......かと思ったら坂本龍一先生が出てきたり。

-歌詞には"デリック・メイをBGMに"や"デトロイトうまれ"などテクノには欠かせないワードが入っていたり、"ディラックの海"もエヴァンゲリオンで出てくるワードのひとつですが、そもそも電子にまつわる言葉(※物理学の用語)なのでテクノに繫がる部分もあって。挙げていくとキリがないですが、いろんなものがうまい具合に絡まっていると思います。

僕が好きなものが好きな人にはクスッとしてもらえるんじゃないかなと思います。僕が好きなものはだいたい、(大多数の)人が好きじゃないものなので(笑)、僕が好きなものについてガーッと歌うと基本的に誰も言ってないようなことになるんです。そういう誰も言わないようなことを大声で叫ぶとすごく気持ちいいということを僕はわかっているので、これを(ライヴなどでリスナーと)共有したいなと思って。

-その気持ちが、先ほどおっしゃった"どう楽しめばいいのかわかりやすい構成"にした理由のひとつなんですね。

そうですね、10代の人にもたくさん聴いてほしいので。アングラみたいなものが好きなのに、こんなこと言うのは矛盾してるかもしれないんですけど、楽しみにくい音楽やわかりづらい音楽を作るのは、知識をアピールするみたいで嫌なんですよね(笑)。わかりやすく作っても僕のギトギトしてる部分は出ちゃうので――何も考えずに普通に曲を作ると本当に1stみたいにめちゃくちゃギトギトしたものになっちゃうから、できるだけわかりやすいものにしているという節もあります(笑)。

-「テクノ番長」にもポップの至るところにギトギトが滲んでますね。

僕は電脳世界にずっといるので、テクノとかゲームとかアニメとかが好きなんだと思います。そういうものとばっかり接していると、自分が現実世界にいるのが不思議な気持ちになってきて。女の人から優しくされると"このサービスいくらなんだろう?"と考えちゃうし......だから僕は人間より電子との方が仲がいいんですよね(笑)。"非現実"があるからこそ現実で生きていける。現実から出て行くことはできないんですけど、現実と戦うには必ずそういう(逃避ができる)非現実が必要で、非現実のおかげで現実世界でもやっていけるところはあるので......逃避したぶんだけ現実は追いかけてくるんですけどね。俺も非現実になりたい(笑)! ごちゃごちゃになりながらも、まとまったと思います。

-そうですね。Track.3「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」も"変体"と美少女アニメによくある"変身"と"テクノ・フェス"の3つの"メタモルフォーゼ"がうまく絡んでいるなと。

僕らロック・バンドなんですけど、アイドルの方々と対バンさせていただくことが多くて。それで"アイドルって元気だな、キラキラしてるな......俺もやりたいな!"と思って、自分がアイドルのつもりで曲も書いて詞も書いたら、挫・人間史上類を見ないほどキモい曲になってしまったというか......自分でも一番聴きたくない最キモ・ソングですね(笑)! 「お兄ちゃんだぁいすき」(『テレポート・ミュージック』収録曲)路線で、"女になった僕"が"少女から女へメタモルフォーゼする"というエピソードが綴られています。

-(笑)ご自分が美少女になるのは必須なんですね。

僕の曲は僕という軸から生まれているものなので、主人公は僕でないといけないんです(笑)。他の女の子のことはわからないし、男は誰しも心の中に女の自分がいるんじゃないかなと思うんですよね。僕はそれを過剰に受け入れている(笑)。作ってるときは美少女になりきってるんで"私、かわいい!"と非現実を楽しんでるんですけど、曲ができあがると現実として叩きつけられるだけなので"うわー!! 死ぬ!!"って感じで死にたいです(笑)。

-とはいえ"死にたい"という気持ちを曲にしなくなったのは成長では?

んー、言い方が変わっただけで"死にたい"と言ってるようなものですね(笑)。「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」みたいな曲を発表することは死んだも同然なんですよ。他のかっこいいバンドはこんな曲やるくらいなら死ぬだろうし、解散するだろうし。僕らはそういうところに戸惑いなく踏み込んでいくので――それは死にたい気持ちが強いからだと思うんですよ。俺をどこまでもぐちゃぐちゃにしてしまえー!! って......捨て身がそうさせるんです(笑)。

-めちゃくちゃパンクだしロックじゃないですか。

その結果が「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」なのちょっとヤバイですよね(笑)。

-はははは(笑)。「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」からラストのTrack.5「愛想笑いはあとにして」まで"地獄"という言葉が出てくるので、そういうスピリットは歌詞にも表れているのではないかと。

"地獄"はよく使う言葉のひとつですね。"地獄=現実"というか。「人生地獄絵図」(Track.4)はまさしくそれで。「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」を歌ってる自分を俯瞰して見たら"俺は取り返しのつかない俺になってしまった......終わった"と思ったので、歌詞にはそういう気持ちを素直に書きました(笑)。